迷い込んだ猫のお話し⑩

周囲一帯を不穏な空気が支配していた。三毛猫に裏切られ、かつ今までの三毛猫の行動は全て計画に基づいて行われていたと分かった猫は、内側から湧き出る怒りで震え上がっていた。

「絶対に許さない。奴は、他人の気持ちを踏みにじり俺を踏み台として利用した。”君も独りなんだね?”ふざけるな。貴様は一人の生物として他者と共存して生きていく事は出来ない。独りで生きて行くことの真理は、他者との共存を超えた先にあるものなのだ。お前の様に常に利己的な観点から他者と関わっている様な存在は独りになることなど出来ない。独りになるとは、共存する中で一人の生物として居場所や地位を自ら築き上げることなのだ。奴にはその資格は無い」

一瞬の出来事だった。

ガシャァン、という衝撃音と共に、猫の目の前にあるブロック塀がバラバラと白い煙を立ち上げ崩れ去った。

黒い銃口から放たれた弾は一寸の狂いも無く猫に向けて進む筈であった。が、しかし、皮肉にも侵入者を封じ込める目的で配置されたブロック塀がそれを憚ったのだった。今、銃口の標準はこの神聖なる市場を掻き乱してきた一匹の侵入者に向けられている。

その場に佇む猫は、この瞬間が一つ生命体として最後の瞬間である事を悟った。


空気を切り裂く衝撃音が鳴り響いた。


市場にいる全ての者がそのけたたましい銃声音に反応し視線を向けた。

立て続けに2発の銃弾を放った商売人は、侵入者を仕留めた確信と共に猫の元へと歩みを進めた。



白煙に立ち込める中、猫が佇んていたその場所には銀色の銃弾が鈍い光を放ちながら転がっていた。



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