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【シェア街インタビュー】「フィリピンの皆さんは、僕にとって親戚みたいなもの」子どもと家族にもっと選択肢を ソルト・パヤタス理事長、上田壮一朗さん

今回は、シェア街のリアルきょてんの一つであるコワーキングスペース・レンタルスペースの「ソーシャルビジネスラボ」(以下、SBL)に拠点を持つNPO法人「ソルト・パヤタス」を紹介します。
フィリピンでは、ゴミ山で暮らす子どもたちが大勢います。ソルト・パヤタスは「全ての子どもに未来の選択肢のある社会」の実現を目指して活動をしています。
社会問題を抱えつつも魅力あふれるフィリピンで、子どもたちがより開かれた将来を手にするにはどうすればいいのか?理事長の上田壮一朗さんにお話を伺いました。

ゴミ山でもコロナでも、フィリピンの未来と魅力をつぶさない

まず簡単に、ソルト・パヤタスのことを教えてください。

NPO法人として、フィリピンのケソン市パヤタスとカシグラハン地域の、ゴミ山付近で暮らす子どもや家族を支援しています。彼らの一部は「スカベンジャー」、つまり再利用価値のあるゴミを拾って売って生活しています。

かつてのゴミ山とその付近の街

私たちはもともと、パヤタスのみで活動していました。団体名に「パヤタス」と入っているのはそのためです。2000年にパヤタスのゴミ山で崩落事故があり、カシグラハンへの移住の動きがあったため、それを追うようにして活動地域を増やしました。
ちなみに、「ソルト」というのは文字通りの意味です。塩のように、「目立たないけれども生活を根底から支えていける存在になりたい」という思いが込められています。

ソルト・パヤタスはどのようにして生まれたのでしょう?

1994年、保育士と教師をしている日本人女性2人が、パヤタスでのスタディツアーで想いを同じくしたのがきっかけです。
ゴミ山で働いている14歳程の女の子に、「今したいことは?」と問うと、「学校に通えていた頃に戻りたい」と言われたそうです。
家庭環境の問題で教育を受けられない子どもたちのために、2人は翌年から幼稚園の子どもたちの支援を始めます。しかし、幼稚園を卒業しても、小学校に通う経済的余裕がなければ、結局子どもたちはゴミ山で働くことになります。
もっと継続的な支援が必要だと分かり、一人一人の子どもたちのために奨学金を募りました。これがソルト・パヤタスの始まりです。

現在の活動は主に「教育支援・女性支援・啓蒙活動」の3種類だと伺いました。まずは「教育支援」から、具体的に教えてもらえますか。

最初は奨学金支援がメインでしたが、徐々に活動の幅が広がり、図書館の運営や、金融・学術機関と連携した実態調査なども加わりました。
昨年末には、コロナ前から立案していたE-learning(オンライン学習)の事業を実現させました。

もともとフィリピンでは、一学級あたりの生徒数の多さから、学習環境面のフォローが足りないという現状がありました。学習が遅れるとそのままついていけなくなったり、周りに進学を果たした年上のお手本がいないため、やる気を保ち続けるのが難しかったり、といった問題がありました。そうした状態の中でコロナのため、学校自体が閉鎖されてしまいました。

そこで替わりに、子どもたちの娯楽の場となっているネットカフェを補習の場にする、というアイデアを実現させました。日本のネットカフェとは設備環境も異なりますし、継続的に通ってもらうための動機付けなど、課題も色々あります。
けれど、チューターの方に学習をサポートしてもらうなど、意欲のある子どもたちが勉強しやすい環境を整えられたのは、大きな一歩だったと思います。

ネットカフェでE-learningをしている様子

次の「女性支援」は、子どもの将来の可能性を広げることと、どう関係があるのでしょうか?

子どもたちの進学支援をするなかで気が付いたのが「どうしてもお母さんたちからの理解と協力も必要だ」ということです。教育の必要性を理解してもらったり、家計力を上げてもらうことが、子どもたちの将来のためには欠かせません。

そこで、お母さん向けの家庭環境に関するワークショップを開くほか、刺繍(クロスステッチ)のお仕事を通した収入向上の取り組みもしています。

そのようなフィリピンの現状を日本の皆さんに伝えるのが、最後の「啓蒙活動」ですね。

従来は現地生活体験プログラムを提供し、日本の皆さんに、住民の普段の生活や抱えている思いを、直接見聞きしてもらっていました。1995年の開始以来、参加者は3000人以上にのぼります。
コロナ以降は、主に大学生を対象に、オンラインスタディツアーを開催しています。双方の参加者によるプレゼンテーション、グーグルマップのストリートビュー機能を用いたバーチャルツアー、さらには刺繍体験と、オンラインで出来ることは全て盛り込みました。

でもやはり、実体験に勝るものはありません。現地で五感を使うからこそ分かることがあります。
例えば、ゴミ山の臭いやハエがたかっている様子は、オンラインでは伝えられません。スラムの子どもたちは集中力がないと言われますが、それは騒音に囲まれているからだということも、現地に行かないと感じ取ることは難しいです。

一方で現地生活体験プログラムは、フィリピンの課題以上に、魅力も伝えられていると思うんです。住民の人懐っこさや、ストリートフードの食欲をそそる匂い。私たちが「純粋にフィリピンが好きだから、ソルト・パヤタスで活動しているんだ」ということが分かってもらえると思います。

東日本大震災の後、パヤタスの住民の方々が自発的に募金活動を実施し、被災者に祈りを捧げました

現地に行けない今であっても、少しでもそういうことを伝えられればと思い、去年はSNS上での100日間連続投稿にもチャレンジしましたよ。

盛りだくさんな活動内容ですが、どんな体制で運営されているのですか?

メンバーとしては、日本側では私を含めた無給職員が2人、フィリピン側は有給職員が5人です。
そのほか日本側では、個人ボランティアの方々、同志社大学・立命館大学などの学生支部の方々も貢献して下さっています。
現在理事長を務めている私は、大学院時代からソルト・パヤタスに関わり始めていて、現在は12年目になります。平日は別の仕事をしているので、それと並行して膨大な事務作業をしたり、行政機関とやりとりをしたりする時などは大変さを感じます。けれど辞めようと思ったことはありません。
フィリピンの皆は、僕にとって親戚のようなものなので、プロジェクトにキリが付いたから手を引く、ということではないんですね。これからも長く続けていくつもりです。

最近、特にやりがいを感じたことはありますか?

実は今年4月、時計メーカーのCITIZENさんとのコラボレーションが実現したんです。
CITIZENさんのソーシャルグッド(社会貢献)キャンペーン商品の腕時計をお買い上げいただくと、ソルト・パヤタスが後援している刺繍商品がプレゼントされるという内容です。

刺繍づくりに励んでいる女性たちや、その子どもたちの経済的な支援になるのはもちろんですが、彼女たちの精神的なエンパワーメントにも実は繋がっているんです。
例えば、刺繍生産グループのリーダーであるロレッタ。今回のキャンペーンでは、数千単位の商品が必要で、それを取り仕切るのにあたってたくさんの苦労があったと思うんです。でも無事納品できて、彼女は大きな達成感と自信を得たようでした。
見落とされがちではありますが、こうしたマインド面での成長も、将来を切り拓いていくうえで欠かせない要素です。そうしたきっかけを作るのも、ソルト・パヤタスの活動の意義であり、私自身のやりがいになってます。

刺繍生産グループのメンバー

柔軟な利用が出来るSBL、二足のわらじ生活で重宝

さて、そんなソルト・パヤタスがSBLを選んだ理由は?

フィリピンのボランティア活動で関わった知り合いが、もともとSBLを利用していたこともあり、私たちも数年前から会議などで臨時的に使わせてもらっていました。
なので昨年、本格的にオフィスを移す必要が出てきた時に、自然とSBLが候補に挙がりました。
登記が可能というのが魅力でしたし、週末のミーティングや郵便物の受け取りにも重宝させてもらっています。こういう利用の仕方が出来るのは、私たちのような二足のわらじを履く者にとってありがたいですね。

今後は、どのようなことをしていきたいですか?

男性への性教育に取り組んでいきたいと思っています。これは、実は子どもの進学を左右する重要な問題なんです。
私たちの支援する女子奨学生の中にも、望まない妊娠をして、進学を諦めてしまう子たちがいます。またコロナ禍で、フィリピンにおける妊娠数が激増したという報告もあります。

フィリピンでは宗教的に避妊がタブー視されていることから、性教育や家族計画の浸透は難しいものがあります。しかし、女性や子ども世代の教育機会を守っていくためには、男性たちの理解と協力も必要です。まだまだ社会的な反発は厳しいですが、2022年度から小規模でも実施をしていきたいと考えています。

最後にシェア街の皆さんに一言お願いします。

このインタビューを通して、少しでもフィリピンに興味を持ってもらえたら嬉しいです。私たちはひとえに、フィリピンが好きでソルト・パヤタスの活動をやっているので!

もし何か関わってみたいという方がいれば、サポーター会員・寄付・ボランティアなど、様々な方法の中から自分に合ったものを選んで頂ければと思います。特に日常業務を手伝ってくださる方は大歓迎です。
他にも新たなコラボレーションのアイデアなどお持ちの方がいれば是非お声がけくださいね!

【クレジット】
編集:早川英明
執筆:山口志帆
写真:提供写真


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