小さなコーヒーカップ

数年前に取り壊されてしまった為、私の生家はもうない。

家賃3万5000円、物で溢れかえったぼろっぼろの借家は、典型的な貧乏家庭のそれ。

屋根裏を鼠が走り、窓ガラスの向こうをヤモリが這う。


そんな家でも好きなスペースがあった。

色とりどりのコーヒーカップ達が並んだ、サイドボードの中だ。(使われているところを見たことはない。)

その中に、ひときわ小さな紺色のカップがあった。

今思えばエスプレッソ用なのだと思うけれど、小ぶりでかわいらしいそれを見ると、これはきっと自分用のコーヒーカップなんだ と、幼心にときめいていた。

今でも食器を見るのが好きなのは、このコーヒーカップ達の、あの小さなカップのおかげなのかもしれない。

これは、母との繋がりを感じる数少ないエピソード。

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