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Dr.本田徹のひとりごと(61)2016.3.10

タイ財団HSFとシェアの「卒業式」 -新たな2か国草の根パートナーシップ形成に向けて-



タイ財団HSFとシェアの「卒業式」

 とっても久しぶりにご報告を寄せます。

1990年以来、NGOシェアは東北タイ(主としてウボン県)の村落部で、地元の人びとのお世話になりながら、保健活動に従事してきました。看護師の工藤芙美子さんを中心に、ヤソトン県のシケウ村で下痢予防対策に取り組みました。保健ボランティアたちとの協働を通して、住民どうしの気づき合いを創り出していく、プライマリ・ヘルス・ケアの活動と位置付けられるものでした。結果として、飲み水やタイ式トイレの利用、環境衛生に関する住民の認識や行動が改善し、下痢疾患が著明に減少する成果をあげ、東北全体でシケウ村の保健ボランティア活動は表彰され、一つのモデルケースとなります。1994年からは、活動地をアムナッチャラン県やウボン県に移し、当時深刻さを増していたHIV/AIDSへの地域での予防啓発活動、日和見感染症治療支援などに取り組むようになります。
こうした活動の過程でHIV陽性者による自助グループが、県や郡の病院で徐々に形成され、2003年ころからタイでも導入されるようになった、安価な抗ウイルス薬(ARVs)治療の普及が、陽性者や患者さんたちのエンパワメントを助ける大きな流れを作っていきます。
2008年には、ウボン県の中でも、HIVの新規感染者数がなお多く、ラオスからの移住労働者が種々の健康問題に直面する、メコン河沿いのケマラート郡に活動地を移し、それとともに、子どもや性的マイノリティの問題にも、スタッフは果敢に取り組むようになります。
同時に、長年の懸案だったシェアの現地法人化の準備をすこしずつ進めていきました。2012年にタイ人スタッフが立ち上げた、現地法人HSF (Health and SHARE Foundation) が、3年間の移行期間を経て、完全独立することとなった今年3月の節目に、私は、ケマラート郡とウボン市を、日本からの同行者とともに訪れました。

駆け足での現場の活動見学でしたが、HSFがケマラートのHIV陽性者やラオス人移住労働者のコミュニティによく溶け込み、彼らの信頼を勝ち得ていることを実感できました。それにしても、やはりたいへんなのは、活動資金の確保です。ぎりぎりの綱渡りでスタッフ5人はがんばっているのですが、タイ人特有の明るさなのか、「なんとかなるし、していくさ」といったところが頼もしいようでもあり、ちょっと危なっかしい感じもあります。ともあれ、一緒に卒業式を迎えた仲間としての責任や、今後もパートナーとして、実りある連携を続けていくことの必要性を痛感しました。
タイはすでに中進国であり、援助の必要などないといった議論もよく聞きますが、国境をはさんで常にラオスやカンボジアやビルマからの難民や移住労働者の課題に直面し、それに対して少なくとも保健・医療の面では、人道的でリーズナブルな受け入れ体制を整えてきた、タイの経験から、日本政府や日本人が学ぶべきことは多くあります。コマーシャルセックスに関わるヒューマン・トラフィッキングで、なお国連の女子差別撤廃委員会や米国務省などから、批判を受けるような犯罪が、この国ではあとを絶たず、十分な対策が取られているとは言えない現状があるのです。

卒業式で私が、HSFの代表理事(シーサケット県保健局長が公職)のDr. Jinnと交わしたのはパートナーシップ宣言書と、互いのエンブレムでした。写真で私が抱えているのは、HSFの団体としてのロゴマークですが、その意味するところは、二人のひとが互いに力を合わせてひとつのハートを大切に運んでいる姿に見えます。タイ語で、「ナムチャイ」(水のこころ)は、「思いやり」を意味することばですが、HSFはまさに、地域住民と共に働く事を通して、このナムチャイを実現したいのだと、事務局長で看護師のチェリーさんは言っています。
一方、Dr. Jinnが持っているのは、デビッド・ワーナーが2009年に来日したとき、シェアのために描いてくれた絵で、「弱さから力が生まれる -- From Weakness, Strength」というメッセージを語っています。古代中国の陰陽思想に言う、ネガテイブがポジテイブに変る、という逆転の教えを、かわいい白アザラシの子二匹が抱き合っているような図で表しています。これは、メキシコで障害を持った若者が、すぐれた傾聴能力や「ナムチャイ」

チェリーの息子・プーピアン君(1歳半)

最後に紹介するのは、チェリーの息子・プーピアン君(1歳半)。去年5月に私がケマラートを訪れたときには、彼はまだ首も座らないくらいの赤ちゃんだったのに、いつの間にかしっかり歩き、HSF事務所の皆からかわいがられ、共同保育されている感じとなっています。
プーピアンの意味するのは、「高い山」だそうで、水のこころに通じる、母親チェリーの思いが伝わってくるような、すてきな名前だと思いました。HSFとともに、この子がすこやかでおおらかに育っていってくれることを祈らずにいられません。
今後HSFとのパートナーシップをどう展開させていくべきか、シェアとして克服すべき課題や困難はいろいろありますが、最善を尽くしていきたいと思います。皆さんからのご支援やご助言をいただけるとたいへんありがたいです。

2016年3月9日

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