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Dr.本田徹のひとりごと(76)2020.2.19

新型コロナウイルスの感染拡大に冷静に向き合う — 病院内、医療者間感染の予防のために

デフォー「疫病流行記」、カミュ「ペスト」、ボッカッチョ「デカメロン」、鴨長明「方丈記」などフィクション、ノンフィクションを問わず、古来、疫病に対する人類のたたかいというか、原因のはっきりしない病魔への取り組みとその記録には、いつも、恐怖と勇気のないまぜになったところがありました。

 今回の新型コロナウイルス(COVID-19 )感染の不気味なのは、中国や日本で、多くの健康な医療関係者らが、それなりに防御策を施して患者に接していたにもかかわらず、自ら移されてしまったことです。一般的にこれまでのコロナウイルス感染の場合は、SARSもMERSも、濃厚な接触感染、飛沫感染、人獣共通感染の特徴を有しており、かつ、発病者の隔離、コンタクト・トレーシング(接触者追跡調査)を徹底して行えば、それ以上の波及を防げました。

 しかし今回のCOVID-19については、タクシーや屋形船のような閉ざされた空間の中で共通の空気を吸っていただけで、感染が起きているような事例が繰り返し見られています。その意味で、結核、麻疹、水痘のような空気感染(飛沫核感染)が起こり得ると想定し、徹底した手洗いはもちろんのこと、N95マスクやゴーグル、使い捨ての手袋、防御衣を着ていなければ、医療者も業務での感染を完全には防ぎ得ない、ということになります。おそらく、この新しい病原体が、奥深い洞窟や森林のコウモリの体内から、人類社会の中に入ってくる過程で、かなりの遺伝子変異を起こし、飛沫核感染を起こしえる微生物に変容した可能性が考えられます。非常にハードルの高い挑戦を、生物学や医学が突きつけられたということになります。

 医者や看護師が、病原体の運び屋になってしまうのは、以前から批判されてきたことで、 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の院内感染などはその典型例ですが、今回の「大疫病」は、下手をすると病院の診療停止、閉鎖など、医療崩壊につながりかねないリスクを、社会全体として抱えこんだことになります。改めて、私たち医療者が真剣に向き合わなければならない課題の大きさと、不断の感染予防の心がけ、科学的な実践の大切さを教えられました。もちろん、患者さんや一般市民の健康と人権を守るということが、まず大原則としてあった上で、そのためにこそ、自らの身を守らねば、人の命も守れないということが来るのでしょう。

(2020.02.18 文責 本田 徹)

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