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Dr.本田徹のひとりごと(59)2015.8.4

アジア旅行者のための感染症対策(改訂版) 連合出版刊-知恵と備えある旅行者を目指して-


アジア旅行者のための感染症対策(改訂版) 連合出版刊

 この本の初版は2003年に出されていますが、その後10年以上を経て、デング熱の日本への上陸や、エボラ・ウイルス病やMERS(中東呼吸器症候群)の西アフリカや中東、韓国での流行など、近年人びとの耳目を驚かす感染症のビッグニュースが、次々と伝えられました。ボーダレス世界における感染症の新しい現実と知識を、旅行者や一般市民のために分かりやすい読み物として提供し、よりよい備えをしていただいた上で、旅行先の国々の食や異文化や人との交わりを十全に楽しんでいただくため、手引書として、この本の改訂版を作りました。

1970年代以降に起きた、30以上ともいわれる、HIV、SARS、MERS、鳥インフルエンザなどの新興感染症には、1)地球温暖化、2)Habitat(生息環境)の破壊と、人間社会による野生動物の社会への侵食、そして、3)大量航空機輸送による感染症患者や媒介生物の急速な移動・越境などが背景にあると考えられます。パンドラの箱を開けたのは人間であり、その意味で人類に課せられた、解決への責任は重いと言わなければなりません。

この本の各章を執筆してくれたのは、研究者であったり、臨床家であったり、NGOの活動家であったりする医師たちです。皆が自分自身、感染症患者として苦しんだ体験、また目の前で、子どもたちが感染症のために命を落とすのを見ざるを得なかったつらい経験などをもち、そのことがこの本に、ある種のリアリティを持たせていると思います。

私自身、本書の読者として、共同編者でもあり、日本でも指折りのマラリア学者、大阪市大教授の金子明さんの執筆になる、マラリアの章とあとがきを、出色の読み物として深く味わいました。

金子さんは毎年のように、南西太平洋の島ヴァヌアツにマラリアのフィールド調査を敢行していますが、なぜ彼にとって、マラリアというライフワークの拠点がヴァヌアツなのか、この本を読むとよく理解できます。アフリカ大陸からユーラシア大陸へと巨大な東漸をしてきた「マラリア・ベルト」の終わるのが、パプアニューギニア、ソロモン、ヴァヌアツなのだそうです。人類と一緒に、たぶん何千・何万年もの間、旅を共にし、移動してきた、コンパニオンとしてのマラリア原虫の姿を追い求め、マリノフスキーのような偉大な人類学者のマインドと、分子遺伝学研究者としての志、問題意識の合流点において、彼の学問は形成されてきたのでしょう。
「アフリカ日本協議会」(AJF)の林達雄さんとともに、かつてマヒドン大学の熱帯医学コースで勉強した、金子明という、優れた、気骨ある研究者の足跡をすこしでも垣間見せていただいたというだけでも、この本を創ることは、私にとって、苦労とともに大きな喜びを味わう体験でした。

最後に、連合出版の八尾正博さんという、これも志の高い出版者が私の尻を叩き、後押してくださったことがこの本の改版を実現してくれる一番の原動力でした。拙著「文明の十字路から」や「JVCアジバール病院」などの出版を通して、彼との間で培われた信頼関係が私を育ててくれたとも言えます。その意味でも、八尾さんに心からの感謝をささげます。

なお本書は先月末からアマゾンでも入手可能となっています。

2015年8月1日

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