マハーバーラタ/3-10.ユディシュティラのティールタヤートラー

3-10.ユディシュティラのティールタヤートラー

アルジュナが出発して以来、森に残ったパーンダヴァ達は辛い時間を過ごしていた。
魅力的な笑顔を振りまいてくれるアルジュナがいなことで全員が寂しく思っていた。

ドラウパディーとビーマは相変わらずユディシュティラを責め立てていた。
この追放は彼のせいだ。
約束通り12年間森で過ごすのは愚かだ。
隠退者サンニャーシーになるな、クシャットリヤらしくしよう。
カウラヴァ達を倒しに行こう。
絶え間なくそんな話が続けられた。ユディシュティラの忍耐が試されていた。彼はドラウパディーをなだめたり、忍耐という美徳についてビーマに教えたりすることに時間を費やしていた。唯一味方になってくれそうなアルジュナはこの場にいなかった。

遂にビーマはアルジュナをヒマラヤに送るべきではなかったとまで言い始めた。
「ユディシュティラ、あなたがアルジュナをタパス(修行)に出してしまった。いや、あれは更なる追放だ。
神聖なアストラなんて必要なのか? 自分の力に自信がないのか? 私の力に信用がないのか? あれくらいの罪人を罰するのにこれ以上のタパスは必要ない。そんなに穏やかで辛抱強い方法で成し遂げたいのか? アルジュナがいなくなって、もう一年経つんだ。
私はもう森の生活は嫌だ。
アルジュナをタパスから呼び戻してハスティナープラへ進軍しようじゃないか」
最愛のビーマからこのような言葉を浴びせられるのは辛かった。

そんな時、聖者ブリハダッシュヴァがやってきた。
ユディシュティラは彼に感謝し、これまでの6年間の出来事を話して同情を求めた。
「ユディシュティラよ、この辛い日々はもうすぐ終わる。
あなたにニシャーダの王、ナラの話をしてあげましょう。
彼が王国を失った原因は賭博でした。そして多くの苦しみの後に王国を取り戻したのです。その方法もまたサイコロゲームでした」
ユディシュティラは驚いた。

話は続いた。
「ナラが王国を取り戻した時、彼はゲームの技術、アクシャフリダヤを学んでいた。
ユディシュティラよ、あなたにそのアクシャフリダヤを教えよう。この技術を習得すれば誰もゲームであなたを負かすことはできなくなるでしょう」

ユディシュティラはその技術を学ぶことにワクワクした。
そして彼からそれを学んだ。
ブリハダッシュヴァは去っていった。

次にやってきたのは聖者ナーラダであった。
ユディシュティラにティールタヤートラーの旅に出るべきだと告げた。
ダウミャもそれに賛成した。
四方にある巡礼地を目指し、できるだけ早く出発するべきだと言った。

ちょうどその時ローマシャがやってきた。
「ユディシュティラよ、アルジュナは天界のインドラの元にたどり着きました。今や、インドラから全ての神聖なアストラを学び、踊りや歌の技術にも精通しています。
これはインドラからの伝言です。
『ユディシュティラよ、あなたの弟アルジュナは今、私と共にいる。私には彼が必要だ。私の為の仕事を終えた時にあなたの元へ返します』
あなたはティールタヤートラーに出るべきです。私も同行しましょう。聖地のことなら全て知っています」

それから4日後、彼らはこのバラヴァタルシャ全体のあらゆる聖地への巡礼の旅ティールタヤートラーに出発した。

最初に向かったのはナイミシャという名の神聖な森であった。そこを流れる神聖なゴーマティー川で沐浴した。

次の目的地はサラスヴァティー川がガンジス河とヤムナー河に合流する場所、プラヤーガであった。ガンジス河の金色に輝く黄色の水とヤムナー河の青色の水が混じる神聖な場所トリヴェーニサンガマであった。
マハーナーディーを訪れ、聖者アガスティヤと会った。雨期に入ったのでそこで四ヶ月間過ごした。ローマシャからアガスティヤの偉大さの話を聞くのはパーンダヴァ兄弟にとって楽しい時間であった。

その後、ナンダ川の畔、パラマ―ナンダ川の畔、さらにヘーマクータ山へ向かった。それぞれの場所でローマシャから逸話を聞くのは心地よい時間であった。

彼らは進路を西に変えた。
ゴーダーヴァリー川や南方のいくつかの川、アガスティヤティールタ、インド洋を見た。

そしてヴリシニ一族の住むプラバーサへ到着した。
バララーマとクリシュナは彼らを大きな喜びと共に歓迎した。
以前会ってから起きたたくさんの出来事について話しながら数日を過ごした。
アルジュナがいないことは寂しかったが、インドラの住む天界で幸せに過ごしていることを聞いて安心した。

ヴリシニ一族がパーンダヴァ兄弟を囲むように座り、この数年の不幸な出来事について話している時にバララーマが熱弁を始めた。
「クリシュナよ。この状況は気に入らない。
クル一族のまさに王子であるユディシュティラがここにいます。
彼の姿はどうだ? 髪はもつれ、木の皮や鹿の皮を着ている。
この上ない美しさを持つドラウパディーはどうだ? 彼女もこんな粗末な木の皮を着ている。こんな悲劇は見るに堪えない。
どうして何もせずに放っておくのだ?
クル一族の長老達の目の前でこんなことが起きるなんて信じられない。ドゥリタラーシュトラ一族の永遠の汚点だ。
ドゥルヨーダナが彼らを森に追放し、奪った王国を楽しむなんて思ってもみなかった。
今すぐ私達も一緒に進軍して、彼らの教訓を伝えるのが正しいだろう。
この双子、ナクラとサハデーヴァを見ていると怒りで血がたぎります。
ビーマが物乞いの服装をしているのは、彼の怪力にふさわしくない。恥ずべきことだ。
私が最後にユディシュティラを見た時、彼は地上の全ての王達に囲まれていた。しかし今、彼はサンニャーシーに囲まれている。
こんな彼らを見ているのは辛いのだ。
この地上でこれだけのアダルマが起きている時、なぜ誰も何もしないのか? クリシュナ! サーテャキ! カウラヴァ達と戦いに行こう! パーンダヴァ達に国を返してあげるのです」

サーテャキは冷静だった。
「おお、尊敬するバララーマよ。時がまだ熟していないのです。ユディシュティラは13年間待つことを決めています。
ドゥルヨーダナが王国を返そうとしないだろうということは皆が想像しています。戦争は起きるでしょう。きっとそうなります。
ヴリシニ一族とパーンダヴァ兄弟が共に戦うなら、誰も太刀打ちできません。ユディシュティラが決意する時まで待ちましょう」

クリシュナが話した。
「バララーマ兄さん、サーテャキの言うことは正しいよ。
ユディシュティラは戦う力が無いからではなく、言葉を真実にしたいから耐えているんだ。彼にとって偽りがないこと、つまり真実は世界中の全ての富よりも大事なものなんだ。彼の意思を尊重しよう。彼が心から戦うべきだと思う時まで待とう。その時は遠くない」

ビーマやドラウパディーの言葉を聞き続けなければならなかったユディシュティラは理解者を得られて幸せだった。
弟や妻からの言葉に傷ついていた彼はクリシュナによって支持されたサーテャキの言葉に感動し、目に涙を浮かべた。
ユディシュティラが口を開いた。
「バララーマの怒りがカウラヴァ達を既に滅ぼし始めている。その怒りの炎をクリシュナとサーテャキが抑えてくれている。私には不安も恐れもありません。
滅ぼされたカウラヴァ達を見ればきっとビーマとドラウパディーは幸せになるでしょう。それを思うだけで私は幸せです。ここにいる皆さんの愛情に感謝します」

プラバーサを後にしたパーンダヴァ達は旅を続けた。
進路を北に向け、シビ王にとっての神聖な場所サラスヴァティー川の畔にたどり着いた。

ガンジス河を眺めながらマイナーカ山へ向かった。この山もまた神聖な山とされていた。
彼らが次に滞在したのはカイラーサ山であった。そこではビンドゥサラスの湖、つまりガンジス河の源を見た。その湖は7つの川の流れを生み出していた。西に3つ、東に3つ、7つ目はバギーラタに流れ出していた。
そしてクベーラ神の住処マンダラ山を見た。

ユディシュティラは山の神を思って祈りを捧げた。さらにガンジス河とヤムナー河に祈りを捧げた。

とても平穏で落ち着いた地であった。
ビーマでさえ、自らの惨めさを忘れ、マンダラ山の斜面に抱かれて幸せな時間を過ごした。

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