マハーバーラタ/5-12.クリシュナとヴィドゥラ

5-12.クリシュナとヴィドゥラ

クリシュナはヴィドゥラの家を出発してドゥルヨーダナの宮廷へ向かった。
その宮廷はとても美しく、まるでインドラの宮廷のようであった。

階段を上り、大きなホールに入ると玉座にはドゥルヨーダナが座っていた。
その傍にはドゥッシャーサナとラーデーヤが座っていたが、
クリシュナがやってきたのを見ると全員が立ち上がり、
誠意をもってクリシュナを迎えた。

宝石で格子細工が施され、象牙と金が嵌め込まれた席にクリシュナは案内された。
ドゥルヨーダナがクリシュナに話しかけた。
「クリシュナ、よく来てくれました。
しかし、私達がせっかく準備したあなたへのもてなしを受けてくれなかったのは残念です。あなたの為に娯楽や素晴らしい食べ物も用意していたというのに、なぜあなたはそれを断ってヴィドゥラの家へ行ったのですか?」
「ドゥルヨーダナ、どうしたんだい? 何か気に障ったのかな?
あなたは十分丁寧に私をもてなしてくれました。あなたの所で食事をしたかどうかは大した問題ではないでしょう。
私の仕事が終わった後なら、あなたと一緒に食事をしましょう」
「何を言っているんだ。仕事が終わった後かどうかなんて関係ないじゃないか。あなたは私の客だ。私達のもてなしに関心を持ってくれないのは間違っている。あなたと私の間に敵意はないんだ。私達はあなたが大好きなんだ」

クリシュナは微笑んだ。
「私は率直に話をしなければならなくなることを恐れているんだよ。
あなたの豪華な宴会には興味なんてないさ。
公正ではない人の家で食べ物をおいしく味わうことはできないよ。
あなたは正当な理由無くパーンダヴァ達に対してこの長い年月の間憎しみを持っていた。
パーンダヴァ達は私を大事にしてくれている。私のことをパーンダヴァの魂だとまで言ってくれている。私は強欲の奴隷となって彼らを虐待する者を人間の中でも最も下等な人間と見なすんだ。
あなたは彼らを憎んでいる。だから私に出された食べ物は敵の食べ物だ。
それは食べてはならないものだ。それは私に対する歓迎とはならない。
私はヴィドゥラによって与えられた食べ物だけを食べます。
彼は私を心から大事に思っているし、パーンダヴァ達も大事に思ってくれている」

クリシュナは立ち上って出て行った。
再びヴィドゥラに家に向かって歩いた。
ビーシュマとクリパが後を追ってクリシュナに話しかけた。
「どうか、私達が準備した家を使ってください」
「いえ、お断りします。どうぞお帰りください。
あなた達の言葉はもう十分楽しませてもらいました。私はヴィドゥラの家に行きたいのです」
ビーシュマとクリパはあきらめて帰っていった。

クリシュナは大きな愛情で迎えてくれるヴィドゥラの家に入った。
ヴィドゥラはクリシュナに礼拝し、食べ物を準備した。
クリシュナはそれを食べた後、少しの間休憩することにした。

夜になり、クリシュナとヴィドゥラは昼間の出来事について話した。
ヴィドゥラが言った。
「クリシュナよ。あなたが来たのは間違いだったようです。愚かなドゥルヨーダナは助言を聞いても動じません。誰の話も聞こうとしません。あなたが話しかけても無駄でしょう。
もう彼は戦争を決心してしまっています。
ビーシュマ、ドローナ、クリパ、アシュヴァッターマー、ラーデーヤ、ジャヤドラタがいるので戦争に勝てると思っています。
集めた軍の大きさの差で勝利を確信してしまっています。ラーデーヤが十分強いと思い込んでいます。
あなたの言葉も私の言葉も無視されるでしょう。聞こえない耳に音楽を奏でても無駄なのです。
彼と平和について語ることであなたの呼吸を無駄にしないでください。
あなたがドゥルヨーダナの宮廷で侮辱されるのを見たくありません。あの場に行ってほしくありません」

「ヴィドゥラ、よく聞いてください。
あなたは私を好み、大事にしてくれる人ですから隠し事はしません。
私は何が起こるか全て分かっています。それを知りながらもここに来たのです。私は死が差し迫った人々を助うことを試みるために来たのです。
それに成功すれば私は偉大な名声を得るでしょう。
失敗したとしても人を救おうとしたという事実だけでもあればいいのです。
間違った考えというのは行動に移されない限りは罪はありません。
ですから、もし戦争を避けることができれば、罪はドゥルヨーダナと彼の父に返ってくることはありません。
大きな危機がクル一族に迫っています。
破滅が近づいているのを知りながら、それを避けるための行動をしない人は、人ではありません。
たとえ髪をひきずってでも死の口から救うのです。
私は人間に対してこういう助けをすることを好みます。
ドゥルヨーダナを説得することを望みます。
ユディシュティラが平和の為の最善を尽くすよう私に頼んだのです。
私はユディシュティラが好きです。彼こそがこの地上に生まれた人間の中で最も偉大です。その彼から愛されることは誇りです。
ですから彼の願いを叶える為に、この平和の任務を受けてここに来ました。
この任務が失敗することは分かっていますが、最善を尽くしたと感じておきたいのです。
そしてもう一つ。私は宮廷でユディシュティラという人間の本当の姿を伝えたいのです。ドゥルヨーダナが不正を働いた相手のことを知ってもらい、
ドゥルヨーダナの蛇の旗の下に集まる王達に対して、それがどれほどの罪の道であるかを分からせたいのです。
戦争は避けられません。ですがこの戦争の理由を世界は知ることになります。
これが私がここにやってきた理由ですよ。ヴィドゥラ」

クリシュナはこの話題を終わりにして、ヴィドゥラと他の話題を楽しむことにした。

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マハーバーラタの第5章 約束通り国を返してもらおうとするパーンダヴァ達。 争いを避けようと全力を尽くすが・・・。

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