マハーバーラタ/1-34.ドラウパディーのスヴァヤンヴァラ

1-34.ドラウパディーのスヴァヤンヴァラ

まるで炭の塊から突然飛び出した炎のように、ブラーフマナの服を着たアルジュナが立ち上がった。
クリシュナはこの瞬間を待っていた。彼は興奮して隣に座っている兄バララーマの手を握りしめた。『来た! ドラウパディーとの結婚を勝ち取るべき者がついに姿を現した!』と言いたげな微笑みを浮かべてそのブラーフマナに注目した。
挑戦者が現れずに静まり返っていた会場の全ての人の目がこの若いブラーフマナに向けられた。この場でその正体を知っているのはクリシュナ、バララーマ、ダウミャ、ビーシュマ、そしてパーンダヴァ兄弟自身のみであった。
アルジュナはステージに近づき、ドゥリシュタデュムナに質問した。
「どのクシャットリヤもそのマツヤ・ヤントラ(魚の的)を落とせないようです。ブラーフマナの挑戦も許されていますか?」
ドゥリシュタデュムナは面白半分、軽蔑半分の眼差しでホール全体に向けて話した。
「もちろんだ! ブラーフマナであろうと、クシャットリヤであろうと、ヴァイシャであろうと、シュードラであっても自由に挑戦できます!
ルールは分かっていますね? この五本の矢を使って、天井高くで回っているあの魚を落とすのです。それができたら我が妹はあなたの花嫁だ。私は約束を守ります」
アルジュナはその偉大な弓にプラダクシナ(周囲を回る礼拝)をして、唇にかすかな微笑を浮かべて手に取った。
彼は弓をあっさりと引き、五本の矢を次々と放った。
これまで誰も落とすことができなかったマツヤ(魚)が地面に落ちた。

会場にいたブラーフマナ達は大興奮となった。どのクシャットリヤもできなかったことをブラーフマナが達成した。
空からたくさんの花がアルジュナに降り注がれた。
ドラウパディーは白鳥のような足取りでアルジュナに近づき、花輪を首に掛けた。
ホールではほら貝や、トランペット、その他全ての楽器の音が鳴り響いた。
天界からも全ての楽器による音楽が反響していた。

アルジュナとドラウパディーはまるでインドラとシャチー、アグニとスヴァーハー、ヴィシュヌとラクシュミー、スールヤとウシャー、マンマタとラティー、シャンカラとウマー、ラーマとシーター、ナラとダマヤンティーのように美しいカップルとなった。
アルジュナはドラウパディーの手を取り、ステージから降りた。ドゥルパダ王はそのブラーフマナの若者がとてもハンサムで高貴であるのを見て喜んだ。

会場にいた他の王達はあっけにとられていたが、その後、ドゥルパダ王に怒りが向けられた。
「おい、ドゥルパダ! お前、我々をわざと侮辱しただろう! これほどたくさんの王達が集まっている中で、娘をブラーフマナに差し出すなんて! クシャットリヤが誰も的に当てられなかったのなら、嫁に出すのを止めればいいだろうが! ブラーフマナの嫁にするんじゃなく、死んだ方がよかったんじゃないのか! こんな屈辱、耐えられるものか! 許せん、殺してやる!」
ドゥルパダ王は他の王達の怒りに驚いた。しかしその原因となった若いブラーフマナを見ると、まるで彼を安心させるかのような微笑みを浮かべていた。
「ドゥルパダ王よ、恐れなくて大丈夫です。私が彼らを相手してあげます」
ビーマが槌矛の代わりに近くにあった木を根こそぎ引っこ抜いて、アルジュナの傍に立った。
アルジュナはビーマと共に力強く立っていた。ドラウパディーはアルジュナの着ている鹿の皮にしがみついていた。
ユディシュティラとナクラ、サハデーヴァもそこに加わった。

クリシュナはその姿を眺めていた。そして兄バララーマに話しかけた。
「兄さん、見て。ドラウパディーを勝ち取ったのはもちろんアルジュナだよ。木を引っこ抜いたのがビーマだね。評判通りの力強さだ。よく似ているあのハンサムな浅黒い二人はナクラとサハデーヴァに違いない。素晴らしく優しい目、高貴な眉、穏やかな雰囲気、きっとユディシュティラだ。
間違いない。私がクリシュナで、あなたがバララーマであるのと同じくらいはっきりと確信できる。良かった。パーンダヴァ兄弟はあの恐ろしいラックの家から生き延びたんだ」

会場にいた他のブラーフマナ達がパーンダヴァ達に話しかけた。
「若者よ。私達が手助けする。共にあのクシャットリヤ達と戦おう」
アルジュナが感謝の笑みを浮かべながら協力を拒んだ。
「大丈夫です。どうぞ見ていてください。私が相手しますから」

パーンダヴァ兄弟五人と会場の王達との戦いが始まった。
ビーマにはシャルヤが、ユディシュティラにはドゥルヨーダナが、ナクラにはシャクニがそれぞれ挑んだ。戦闘馬車を持たない、突然の戦いの勃発であった。ドゥルヨーダナや他の者達はこのブラーフマナ達の鎮圧は簡単な仕事だろうと思っていた。しかしアルジュナの矢が全員を驚かせた。ラーデーヤはアルジュナの元へ向かい、二人は互角に激しく戦い始めた。
ラーデーヤは自分と互角に戦う、この見知らぬブラーフマナの腕前に驚嘆し、喜びすら見せた。
「若きブラーフマナよ。あなたが何者であろうと、その腕前には感心します。あなたは一体誰なのですか? 偉大なバールガヴァ? インドラ? それともヴィシュヌ神ですか? きっとそのいずれかに違いありません。私と対等に戦える人なんて他に考えられません。過去に一人だけいました。ですがそのアルジュナは死んでしまってもういません。
私はラーデーヤ。アンガ国の君主で、バールガヴァから弓を習った者です」

彼との戦いが劣勢であることをラーデーヤは認めた。
「負けを認めなければなりませんね。私を打ち負かしたあなたが誰なのか教えてください」
「ラーデーヤ、称賛の言葉に感謝します。あなたと手合わせできて幸せです。私は名高いあなたの先生バールガヴァではないし、ヴィシュヌでも、インドラでもありせん。ただの普通のブラーフマナです。私はブラーフマナから弓矢の技術を習いました。戦いを続けましょう」
そう言って、アルジュナはラーデーヤの弓の弦を切った。
「あなたの勝ちです」
ラーデーヤはそう言い残して立ち去った。

他では戦いが続いていた。
ビーマはシャルヤを圧倒し、勝利した。ビーマがそれ以上傷つけることなくあっさり逃がしたのは、シャルヤがナクラとサハデーヴァの伯父であったのが理由であった。

この日の戦いのハイライトはユディシュティラとドゥルヨーダナの戦いであった。ユディシュティラは鋭い矢でドゥルヨーダナに傷を負わせた。ドゥルヨーダナは全身に怪我を負ったコブラのように勇敢に立ち向かったが、勝つことはできなかった。
ユディシュティラからは普段の温和な雰囲気が全く感じられなかった。自分達に降りかかった災難の原因が、目の前にいるドゥルヨーダナであることを知っていた。彼から発せられる怒りは誰も見たことがなく、アルジュナやビーマでさえその姿に驚いていた。

戦いは終わった。
ブラーフマナの姿をしたパーンダヴァ達の完全勝利であった。
ラーデーヤを伴うクルの軍勢が打ち負かされたのを見て、他の王達はどうしてよいか決断できずに立ち尽くしていた。
クリシュナが仲介に入った。
「戦うことは正しくありません。このブラーフマナは正しい方法でドラウパディーとの結婚を勝ち取りました。挑戦する前に彼はドゥリシュタデュムナ王子に尋ねたではないですか。
『ブラーフマナであろうと、クシャットリヤであろうと、ヴァイシャであろうと、シュードラであっても自由に挑戦できます!』
そう言っていました。
皆さん、ドゥリシュタデュムナがそう言った時、誰も反対しなかったではないですか。今、ここいるブラーフマナがあなた達より優れていることを否定する為に戦うのは、高貴な生まれのあなた達にはふさわしくありません。これ以上の戦いはやめましょう」
王達はこの見知らぬブラーフマナに勝つ見込みがないことが分かっていたので、クリシュナの忠告を受け入れた。結局あの五人が誰だったのか、その正体に興味を持ちながらも帰っていった。

パーンダヴァ達はドラウパディーという戦利品を連れて、母の待つ陶芸家の家に帰った。
「お母様、ビクシャーを持ってきました!」
クンティーは家の中から返事をした。彼女はいつものように集めてきた施し物を全員で分けるよう言った。
「みんなおかえりなさい、ビクシャーはみんなで分け合いなさいね」
そう言った後で外に出てみると、そこで見たのは集めてきた食べ物ではなく、なんと可愛らしい女性であった。
ユディシュティラは話した。
「この女性はスヴァヤンヴァラで勝利して手に入れました。先ほど私達が『ビクシャー』と言ったのは彼女を意味していたのですが・・・」
クンティーは自分が先ほど発した言葉にぞっとした。うろたえを隠しながら、はにかんで静かに立っているその若い女性を抱きしめた。
「ようこそ、いらっしゃい。娘よ、どうぞお入りなさい」
ドラウパディーは彼女の足元にひれ伏し、足の埃を払った。
クンティーは中へ案内した。

クンティーはユディシュティラに話しかけた。
「息子よ。私がさっき口にしたことは何だったのでしょう? 私は今まで一度も嘘をついたことも、間違ったこともしたこともありません。私はあんな言葉を口にしてしまいました。どうなってしまうのでしょう?」
しばらく沈黙が流れた。
「お母様、心配しないでください。何も起こりませんから」
ユディシュティラはアルジュナに話しかけた。
「アルジュナ、彼女との結婚を勝ち取ったのはあなたです。あなたが彼女と結婚するのが正しい」
「ユディシュティラ兄さん、そんなことを言ってはなりません。あなたがこの中の最年長です。あなたがまず最初に結婚すべきです。あなたの後にはビーマ兄さんがいます。私はその後です。
ですが、この困った結び目をどうやってほどくか、最終決定はあなたに任せます」
ユディシュティラは熟考した。
「お母様は、私達皆でドラウパディーを分かち合うべきだと言いました。彼女はそう口にしてしまいました。母親の言葉以上に神聖なものはありません。彼女は私達のグルです。彼女に従います。
この何年もの間、私は間違ったことを考えたことはありません。私達五人が皆、あなたの勝ち取った女性を愛しているのは明らかです。私達皆で彼女と結婚しましょう。
この提案はどんな罪も犯していないと感じます。私のこの決断は正しいと思います。心配いりません」

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