マハーバーラタ/2-12.囚われたドラウパディー

2-12.囚われたドラウパディー

ホールには静寂が広がった。
ヴィドゥラは頭を抱え、蛇のようなため息を吐いて座り、目の前で起きた大きな不正を母なる大地に謝罪するかのようにうな垂れた。
目の前で起きた出来事に皆が驚く中、盲目のドゥリタラーシュトラは一人興奮して、ひたすら尋ね続けた。
「次はどうなった? 何を賭けた? どうなった? 次は?」

ホールにはカウラヴァ兄弟の喜びの声がこだました。
ドゥルヨーダナはシャクニの所へやってきて愛おしく抱擁した。
「シャクニ伯父さん、今日は私の人生の中で最も嬉しい日です。全ては親愛なるあなたのおかげです」

続けてドゥルヨーダナはヴィドゥラに向かって命令した。
「我が叔父ヴィドゥラよ。ドラウパディーはもはや我々の奴隷となったのだ。あの女を連れてきてください。召使いの仕事に慣れてもらわないとね」

「ドゥルヨーダナよ。今ならまだ間に合う。これ以上の無茶はやめなさい。
それはまるで虎達を挑発する鹿のようなものだ。パーンダヴァ達は恐ろしい毒蛇のようなものですから決して怒らせてはならない。ドラウパディーはあなたの奴隷ではない。侮辱してはダメだ。
賭けた物の順番を思い出しなさい。ユディシュティラは自分を賭けて失ったでしょう? あの時点で全てが終わったのだ。自分を失った者が妻を賭ける権利など無いのだ。
私の言葉が気に入らないでしょう。私があなたに味方しないと考えているでしょう。しかしあなたのことを思って言っているのです。
あなたはパーンダヴァ兄弟の怒りを買っている。私の言葉を聞かないなら身を滅ぼすことになるのだ。
あなた、あなたの弟達、友人、皆が今、地獄の縁に立っているのが分からないのですか?」

ヴィドゥラの嘆願は聞き入れられなかった。
涙を流しながら言葉を続けた。
「おお、どうすればよいのだ。
見る意思を持たない者ほどの、盲目な者はいない。
聞くことを拒む者ほどの、聾者はいない。
彼らは自分達を待ち受けている運命が見えないのだ」
それ以上は何も話さなかった。

ドゥルヨーダナはあきれるように話した。
「もううんざりだ。小言を話すことしかできないこのメイドの息子の話はもう十分だ」
彼は自分の御者に命令した。
プラーティカーミーよ。女達の部屋へ行き、奴隷のドラウパディーに伝えよ。『今からお前の主はクル王家の王子である私だ。そのご主人様の命令だ。こちらのホールに来なさい』」
ドゥルヨーダナはプラーティカーミーが何か恐れているのを感じた。
「どうした? さっき叔父が言っていたパーンダヴァ達の怒りを恐れているのか?
ヴィドゥラは今まで私のすることを一度たりとも認めたことはないんだよ。知っているだろう? それだけのことだ。恐れることはない。パーンダヴァ達は今や私達の奴隷なんだから何もできやしない。大丈夫だ」

プラーティカーミーは女性達の部屋へ行き、ドラウパディーを呼んだ。
「ドラウパディー様。あなたは今、ドゥルヨーダナ様の奴隷となったのです。あなたの夫ユディシュティラはギャンブルの熱に浮かされてあなたを賭け、失ってしまったのです。あなたはカウラヴァのものになったのです。あなたのこれからのご主人であるドゥルヨーダナ様があちらのホールに来るようにと言っています」

ドラウパディーは呆然とした。
「あなた、いったい何を言っているの? どういう意味? 我が夫は他に賭ける物が無くなったの? 意味が分からないわ。判断力すらなくなってしまったの? 何があったのか教えてちょうだい。どんなふうに私を賭けたの?」
「私は真実を話しています。ユディシュティラ王は持っている物全てを賭けて失い、次には弟を一人ずつ失い、そして自分自身を失い、あなたを賭けて失ったのです」
「ホールに戻って確認してきなさい。ユディシュティラが自分自身を先に賭けたのか、それとも私を先に賭けたのか、本人に確認しなさい。その答えを聞いたら戻ってきて」

プラーティカーミーは一人でホールに戻り、報告した。
そしてユディシュティラに聞いた。
「ユディシュティラ自身を先に失ったのか、それとも彼女を先に失ったのか、それを彼女は知りたがっています」
ユディシュティラは答えなかった。体からまるで生気が抜け出るかのようであった。質問に答えられなかった。
ドゥルヨーダナが怒りを露わにした。
「あの女をここに連れてこい! ここに来て自分で質問するんだと伝えてこい!」

彼は再びドラウパディーの所へ行った。
「ユディシュティラは何も答えませんでした。そしてドゥルヨーダナ様はあなた自身がホールに来て質問するべきだと言っています。
カウラヴァ兄弟が破滅に向かっているのは私でも分かります。あなたにこのような屈辱を与えたことで我が主人ドゥルヨーダナ様は身を滅ぼすのでしょう」
「もう一度ホールに戻りなさい! 夫ユディシュティラに聞いてきて! 私はどうしたらいいの? 他の誰かではなく夫の言うことなら聞きますから!」

再びホールに戻り、ユディシュティラへ伝えた。
ユディシュティラはうな垂れて言った。
「ドラウパディーに伝えてください。こちらのホールに来て、夫の行動が正しかったのか、間違っていたのか、年長者達に尋ねてもらいたいと」

プラーティカーミーはドラウパディーの怒りに怯えてしまい、二度と彼女の所へ行こうとはしなかった。
ドゥルヨーダナはその様子を見て、今度は弟のドゥッシャーサナに頼んだ。
「ドゥッシャーサナよ。彼は怖がってしまったようだ。今度はお前が行ってあの女を連れて来てくれ。あの女は我々兄弟の奴隷だ。お前に対して何ができようか?」
ドゥッシャーサナは席を立ち、廊下をずかずかと歩いて行った。

ドゥッシャーサナは部屋に入り、ドラウパディーの前で笑って言った。
「おいおい、何をしているんだ! お前は我が兄によって勝ち取られたんだ。お前の夫ユディシュティラのことなど恐れなくてよい。気にせずドゥルヨーダナの所へ来るがいい。その美しい蓮の花びらのような目をクルの王へ見せてあげなさい」
ドラウパディーは何かに刺されたかのように急に席を立ち、彼の方をにらんだ。
「はーはっはっは! どうしたどうした? そんなおしとやかな目で見ないでくれよ。お前の夫達の従兄弟なんだぜ」
嫌悪感に満たされ、怒り狂った目でドゥッシャーサナをにらみつけ、この宮廷の女王ガーンダーリーの部屋へ向かって走り出した。

ドゥッシャーサナは彼女を追いかけた。
目的地にたどり着く前に追いつき、その長い黒髪を掴んだ。

それは恐ろしい出来事であった。ドラウパディーの髪はラージャスーヤが行われている間ずっと神聖な水で清められていた。ドゥッシャーサナは自分を殺すことになる蛇に触れているとも知らずに、その髪を鷲掴みにしていたのだった。

ドラウパディーは髪を掴まれたままホールへ引きずられていった。彼女は訴え続けていたが全く聞き入れられず、まるで強風に煽られる木のように体を引きずられた。
「うるさいな! お前は我々の奴隷なんだ! お前を勝ち取ったドゥルヨーダナの物なんだよ! サイコロ賭博で彼の物になったんだ。
お前の夫、ユディシュティラはお前を賭けて負けたんだ。彼もお前にホールに来てほしがっているんだ。そのややこしい質問をあの場にいる年長者達に尋ねてほしいんだとさ。
我が兄王の命令でお前をホールへ連れて行くんだ。おとなしく自分で歩くか? 嫌ならこのまま引きずっていくぜ」

彼女は長い髪を掴まれたままホールへ引きずられていった。彼女のサリーは乱れ、涙で濡れていた。

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