マハーバーラタ/2-3.ユディシュティラの願望

2-3.ユディシュティラの願望

聖者ナーラダが帰った後、ユディシュティラは深く考え込んでいた。
パーンダヴァ兄弟はたくさんの困難を乗り越えた末の平安を手に入れたばかりであった。

ドゥルヨーダナによってアダルマ(不正)が与えられても、ダルマ(正義)であることを貫いた。伯父ドゥリタラーシュトラから国の半分として不毛の地を与えられても、争いを避ける為に受け入れた。
不満を抱くことはユディシュティラの性質に反することであった。決して欲深くなることもなかった。
クリシュナとインドラのおかげでこの不毛の土地は豊かになり、インドラプラスタと呼ばれるまでになった。マヤによって建てられたこのお城でユディシュティラは平和な人生を手に入れたはずであった。

しかし、ナーラダはこの穏やかな湖に一石を投じた。それはユディシュティラの考えの中に、征服という不慣れな言葉を投げ込んだ。
父パーンドゥが自分にラージャスーヤを行うように頼んでいる。それは他国を征服することを意味していた。
彼はその問題を皆で議論することに決めた。彼以外は戦うことに熱を帯びているようであった。

ユディシュティラはクリシュナに使いを送った。彼こそがパーンダヴァ兄弟の指導者であり、最も大事な友人であったので、アドバイスを求めるべきだと考えた。

使者がドヴァーラカーへ到着し、クリシュナに伝えた。
「我が王ユディシュティラがインドラプラスタであなたを必要としています」
クリシュナはバララーマや他の者達に別れを告げてインドラプラスタへ急いだ。

ユディシュティラが心から歓迎した。その歓迎はとても温かく、まるでパーンダヴァ兄弟の一人として中に入ったかのようであった。しばらく体を休めた後に会議が始められた。

ユディシュティラはナーラダによって伝えられた父の願いについて話した。
「クリシュナよ、あなたこそが真の友人であり、幸福を祈る人です。他の人達は私を喜ばせる為に楽観的に話しているのかもしれません。
私はどうすべきか分かりません。あなたなら私に真実を語ってくれるはずです。あなたは欲望や執着を超えた人です。あなたは真実の光で全てを見通せるはずです。混乱した私にどうかアドバイスをください」

クリシュナはしばらく深刻な顔で考え込んだ。ラージャスーヤで征服する相手となる全てのクシャットリヤの力について考えていた。
「クル王国に敵対する勢力の中で最も難しい敵はマガダ国の王ジャラーサンダです。ダマゴーシャの息子シシュパーラを親友に持ち、ダンタヴァックトラも当然彼に味方するでしょう。さらにバガダッタ、ルクミー、パウンドラカヴァースデーヴァが味方するでしょうから、四方から援軍が来るでしょう。

そしてジャラーサンダ自身は我がヴリシニ一族の絶対的な敵です。ご存じの通り、私の伯父カムサは私の手によって殺されましたが、カムサはジャラーサンダの義理の息子でした。それ以来ずっと私を憎んでいます。
私達は戦ったことがありますが、18回も戦って未だに彼を打ち負かせていないのです。彼の襲撃は絶え間なく、マトゥラーを離れ、ドヴァーラカーに逃げました。ドヴァーラカーは海とライヴァタカの丘に囲まれているので安全と思われていました。彼の領地のギリヴラジャの丘からライヴァタカの丘まで100ヨージャナ(約1300km)離れていますが、私達がドヴァーラカーに逃げ延びた時に、彼は槌矛を投げてきました。それは99ヨージャナも飛んで地面に刺さりました。それから彼は攻撃してこなくなりました。

さらに彼の友人である他の者について話しましょう。
あなたの愛しい従兄弟ドゥルヨーダナはどうでしょうか?
ジャラーサンダがあなたの敵であると知ったなら、当然彼に味方するでしょう。つまり、ビーシュマ、ドローナ、クリパ率いるカウラヴァ軍があなたの敵の援軍となるということを意味します。
カウラヴァの長老達があなたへの愛情から戦うことを踏みとどまったとしても、ラーデーヤはどうでしょうか? 彼はアルジュナを打ち負かす機会をいつも狙っています。彼はバールガヴァからもらった全ての神聖なアストラを持っています。
ラーデーヤはなんとジャラーサンダを打ち負かしたことがあるのです。
こんな手強い者達を敵に回してラージャスーヤを行うチャンスは全くないでしょう。

ジャラーサンダは98人の王を捕えて監禁しています。シャンカラ神への捧げ物として国王の頭を次々と生贄にするそうです。あの男は狂っています。しかし強すぎてどうにもならないのです。彼が生きている限りはラージャスーヤを行うのは難しいです。
しかし、もし彼さえ倒すことができれば大丈夫でしょう。彼亡き後は誰も戦おうとするものはいないでしょう。ジャラーサンダを倒す方法を考えるべきです。それさえ達成できれば後は簡単です」

ユディシュティラはラージャスーヤを行うという考えを捨てた。
「クリシュナよ。これほどまでにはっきりと事実を言ってくれて感謝します。他の誰もこのようなアドバイスをしてくれなかった。やはり私には征服は向いていません。
この世界を統括した全ての偉大な王の人生を考えてみてください。本当に偉大な王とは平和を愛する人です。平和であることは世界で最も望ましいものです。ラージャスーヤはあきらめて平和に生きましょう」

しかし、ビーマは納得しなかった。
「愛しい兄よ。偉大な仕事というのは何であれ、最初は難しく見えるものだ。だが私達の勇気と熱意をくじかないでくれ。力によって達成できないのであれば、智慧によって達成できるはずだ。親愛なるクリシュナの智慧とアルジュナの支えがあれば、私がジャラーサンダを倒す。私達三人で何とかできるはずだ。クリシュナを味方にする時、敗北は考えられない。自信を持ってくれ」

クリシュナがビーマに反論した。
「いや、ビーマよ。あなたが考えるほど簡単なことではないのです。ジャラーサンダはシャンカラの偉大な帰依者で、神に気に入られています。そして彼はとても公正で寛大な性格の一面があり、たくさんの王の愛情を得ています。
ですが、ラージャスーヤは別としても、もしあなたが彼を倒せば、捕えられている王達の命を救うことになります。それは一考の価値があります」

ユディシュティラが答えた。
「いえ、それはなりません。ビーマとアルジュナは私の二つの目で、クリシュナは私の考えです。これら全てを失ったなら私は生きる意味がありません。ラージャスーヤをあきらめるのが賢明です」

アルジュナが話した。
「ユディシュティラ兄さん、なぜ恐れなければならないのですか? 私達はクシャットリヤ、戦士です。戦い方の技術に精通しているし、神聖なアストラも使えます。そして私達はダルマの道から逸れたことはありません。
ジャラーサンダは確かに強いが、決して公正な王様ではないです。自分より弱い王を虐げる者が神々に好まれるはずがありません。彼の勇敢さなど無意味です。神はダルマに従う者に味方するはずです。
ジャラーサンダという怪物を世界から排除することが私達の義務です。そうでしょう? 大丈夫です。きっと成功しますから私達三人をマガダに行かせてください。ジャラーサンダを倒した後、あなたの弟四人は四方へ向かい、全世界を征服してあなたの足元に置くでしょう」

クリシュナはビーマとアルジュナの威勢の良い意見に対して、心の中で感謝した。
「ユディシュティラよ、ビーマとアルジュナの発言は偉大な戦士の息子にふさわしいものです。人間の命とは短いものです。誰にでも死は一瞬一瞬迫ってくるのです。それは白昼に、または真夜中にやってくるかもしれません。戦わないことで永遠を得るのではありません。ためらったり考えたりする時間はありません。揺らぐ考えに割く時間はありません。すぐに決めるのです。
私達三人がジャラーサンダに挑みます。
勝てばあなたはこの地上の統括者となります。
たとえ負けたとしても、戦って死ぬのですからクシャットリヤにふさわしい天国が待っています。
どちらにしても私達の名を汚すような恥はありません」

ユディシュティラはまだ決断できなかった。
「クリシュナよ、ジャラーサンダについてもっと教えてください。なぜ彼はあなた達に挑めるほど強いのですか? なぜ彼があなたに近づいた時に、炎で焼かれる蛾のように燃やされないのですか? あなたが彼を倒せないというのが私には理解できないです」

クリシュナはジャラーサンダの人生について語り始めた。

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