マハーバーラタ/1-8.ヴャーサの登場

1-8.ヴャーサの登場

何度サッテャヴァティーが説得してもビーシュマは頑なであった。
悲しみに暮れる彼女にビーシュマは声をかけた。
「お義母様の期待に応えられず、申し訳なく思います。ですが私から提案があります。貴族の血筋が絶滅の危機に瀕したとき、高貴なブラフミンに生まれた者によって蘇らせることが許されていると聞いたことがあります。
私の先生、バガヴァーン・バールガヴァによって全てのクシャットリヤが絶滅させられた際に、多くの王家がこの方法で続いたそうです。これに相応しいブラフミンに心当たりはありませんか?」
サッテャヴァティーはクル一族の純血を途絶えさせることになってしまうこの案で納得するしかなかった。
彼女は何度も言うのをためらったが、自身の昔話を始めた。
シャンタヌと出会う前に、偉大なリシ、パラーシャラの息子を産んだいきさつを語った。
その息子、ヴャーサを呼ぶことにした。

彼女はヴャーサのことを思うと、そのヴャーサが急いで彼女の元へやってきた。彼にこれまでのいきさつを伝えた。
「あなたは私に命を与えてくれた女性です。あなたの命じたことは何でもしましょう」
しばらく考えた後、さらに続けた。
「あなたの心からの願いなのでぜひ叶えましょう。わかりました。私はヴィチットラヴィールヤの妻たちを受け入れましょう。ですが、彼女たちに私を受け入れさせるのはあなたの役目です。私の外見や黒い顔を見て怖がるに違いないでしょうから」
サッテャヴァティーはアンビカーの所へ行って説得した。
偉大なクル一族の為に子供を一人産むことが義務であること、そのために正しい作法でリシを受け入れなければならないことを話した。アンビカーは同意するしかなかった。

その日は真っ暗な夜であった。アンビカーは自分の部屋でヴャーサを待っていた。
ヴャーサがやってきた。彼女にとってその姿はあまりに不気味で、恐れと嫌悪に圧倒された。なんとかこの夜をやり過ごそうと必死に目を閉じ、ヴャーサが近寄っても何の反応もしようとせず、その拷問のような夜を過ごした。

翌朝、ヴャーサはサッテャヴァティーの所へ戻ってきて告げた。
「アンビカーには丈夫で力強い息子が生まれますが、彼女が夜通し目を閉じていたので盲目の子供となるでしょう」
サッテャヴァティーは大いに落胆し、アンビカーに狂ったように当たった。
そしてアンバーリカーにも子供を授けてもらえるようにヴャーサに頼んだ。

アンバーリカーも同じようにこのリシを恐れてしまった。彼を見た途端、彼女の体は冷たくなり、恐れと嫌悪で青くなった。そして夜は過ぎた。

翌朝、ヴャーサはサッテャヴァティーに告げた。
「アンバーリカーにはハンサムで優しい息子が生まれますが、その子が子宮に入った時の彼女の姿と同じく青白い子供となるでしょう」
サッテャヴァティーは困惑した。
「ヴャーサよ、愚かな娘たちを許してやってください。子供が生まれたらもう一度アンビカーを訪ねてください。それまでによく言って聞かせますから」
「わかりました、そうしましょう」
ヴャーサはハスティナープラを去っていった。

しばらくして2人の子供が生まれた。
一人は盲目で、もう一人は真っ白な子供であった。
それぞれドゥリタラーシュトラ、パーンドゥという名をヴャーサによって与えられた。
サッテャヴァティーはアンビカーに対して、前回の失敗によって盲目の子供が生まれたことを咎め、もう一度ヴャーサを迎えるように、と伝えた。

アンビカーは恐れの気持ちを振り払うことができずに、彼女の侍女を寝室に待たせることにした。
その侍女は思いやりをもってヴャーサの要求に全て応え、結ばれた。

翌朝、ヴャーサはサッテャヴァティーに告げた。
「賢く、良い息子が生まれるでしょう。それもダルマ神の化身です」
サッテャヴァティーは大変喜んだ。
「しかし・・・」
ヴャーサは離し続けた。
「この子供の母はあなたの義理の娘ではありません。アンビカーは昨夜、自分ではなく侍女を寝室に送ったのです。この召使いの女性は私の子供の中で最も良い子を産むという幸運に恵まれました。
ですが、あなたの望んだ結果ではありません。
そして、母よ、これ以上私にお願いをしないでください。世間から離れた者が4回も女性と結ばれることは良いことではありません。
母であるあなたのお願いなのでここまでは同意しましたが、どうかこれ以上は私を呼び出さないでください」
別れの言葉を残して、ヴャーサは修行を再開するべく雪深いヒマラヤの頂上へ帰っていった。

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