マハーバーラタ/2-1.マヤがホールを建てる

2.サバーの章

2-1.マヤがホールを建てる

第一章(始まりの章)あらすじはこちら

アルジュナとクリシュナは戦いを終え、キャンプへ帰ろうとしていた。
その時、先ほどアルジュナが助けたマヤが話しかけた。
「アルジュナ様、ありがとうございます。私はあなたによって命を与えられました。アスラの建築家マヤと申します。あなたにこの命の恩返しをしたいのですが、何かさせていただけないでしょうか?」
「マヤよ。そのお礼で十分です。私はいかなる善行をしたとしてもお返しをもらわないことにしているのです。私に何の恩義も持たなくてよいです。あなたと友達になれました。それだけで十分です」
「いえ! 待ってください! あなたのその優しさのお返しに何かするのではなく、私が感謝の気持ちを表す為に何かしたいのです。どうか分かってください」
アルジュナは彼から何かを受け取ることに気が進まなかったが、その誠実さに心を打たれ、しばらく考えた。
「私自身は何も受け取りません。ですが私を喜ばせたいのですね? 分かりました。このクリシュナを喜ばせることをしてください。それが私を喜ばせることになります」
マヤはそれを聞き、クリシュナが何か話すのを待った。

クリシュナは自らの生まれてきた目的を思っていた。
ヴィシュヌのアヴァターラ(生まれ変わり)であるクリシュナはアダルマに偏ってしまった世界に現れ、ダルマを確立するために人間の体を持って生まれた。
母なる大地は苦しみ、彼に救いを求めていた。
彼の親愛なる付き人ジャヤとヴィジャヤと交わした約束があった。
彼らは呪いによって三度地上に生まれた。最初はヒランニャークシャとヒランニャカシプ、二度目はラーヴァナとクンバカルナ、三度目はシシュパーラとダンタヴァックトラとして。彼らを人間の束縛から解放しなければならない。
クリシュナはナーラーヤナ、アルジュナはナラであり、まさに今、必要な破壊を始め、ダルマを確立すべき時であった。クリシュナは決意した。

「マヤ、あなたは建築家なのですね。それでは、ユディシュティラの為に特別なお城を建てなさい。そうすれば私は喜びます。アルジュナも喜ぶでしょう」
マヤは建築するお城の計画を立て始めた。

彼らはマヤを連れてインドラプラスタへ戻った。ユディシュティラにその日の出来事を話した。
マヤを紹介し、彼がお城を建てたがっていると伝えた。ユディシュティラは彼を歓迎し、弟達やクリシュナと共に建設計画を立てた。
吉兆な日にマヤは大きなお城、後にマヤサバーと呼ばれることになる建物の建設を開始した。

数日後、クリシュナはドヴァーラカーに帰る前の挨拶をしにユディシュティラの元へやってきた。ユディシュティラはクリシュナを帰らせたくなかった。
「クリシュナよ、あなたは私達が乗っている人生の船を安全に導いてくれる星です。私達にとって命そのものです。どうか正しい道へ導く為にここにいてください」
「安心してください。私はいつでもあなた達と共にいます。私を求める時、いつでも私はやってくるでしょう」

クリシュナは叔母のクンティー、パーンダヴァ兄弟、ドラウパディー、そしてアルジュナの妻となった妹スバッドラーに挨拶をした。
クリシュナの御者ダールカがお城の門に馬車を留めていた。
クリシュナはスバッドラーにいたずらっぽい笑顔を向けて話した。
「スバッドラー、この私の馬車は役割を果たしたんだよね? もう必要ないから乗って帰るよ」

ユディシュティラが手綱を握ってしばらく進んだ。ビーマとアルジュナは槌矛を持って馬車の両側に、ナクラとサハデーヴァが頭上に傘を差した。これは命よりも大切なクリシュナとお別れする時の習慣となった。
クリシュナは彼らの愛情のこもった奉仕を受け取った。

町の郊外までたどり着き、パーンダヴァ兄弟は馬車から離れた。
クリシュナは愛情のこもった別れの挨拶をして、ドヴァーラカーの方へ向かって進み始めた。パーンダヴァ兄弟はその馬車が見えなくなるまでその場で見送り、さらに心の中ではクリシュナがドヴァーラカーに到着するまで彼を見送った。クリシュナで心を満たしたままインドラプラスタへ戻った。

お城の建設の準備を進めていたマヤがアルジュナに話しかけた。
「アルジュナ様、偉大なカイラス山とマイナカの近くにビンドゥサラスと呼ばれる湖があります。たくさんの高価な宝石を詰めた箱をその湖に隠してありますので、これから取りに行ってきます。ビーマ様にふさわしい槌矛や、アルジュナ様にふさわしいほら貝デーヴァダッタもあります」

しばしの別れの挨拶をしてマヤは出発した。
ビンドゥサラスの湖はシャンカラ神(シヴァ神)の髪からガンジス河が流れ出した聖地であった。その湖から七つの川が流れ出し、三つは東へ、三つは西へ、最後の一つの流れはバギーラタへ向かって流れた。その地は聖者ナラと聖者ナーラーヤナが修行した聖地であった。
マヤは数百人の労働者を使い、隠してあった全ての宝石を運び、ほら貝デーヴァダッタをアルジュナに、槌矛をビーマに渡した。

お城の建設を始めてから14ヶ月後、インドラのホールよりも輝く建物マヤサバーが完成した。庭にはいつでも花が咲いていた。蓮やジャスミン、クラバカ、シリシャ、ティラカ、カダムバといった特定の季節にしか咲かないはずの花がここでは全て同時に咲いていた。建物の壁は高価な宝石が埋め込まれていてキラキラと輝いていた。
マヤはパーンダヴァ兄弟に完成の報告をした。

マヤに案内されて見て回ったパーンダヴァ達はその壮麗さに驚き声が出なかった。マヤは仕事を終えたので別れの挨拶をした。
「アルジュナ様、あなたの馬車は太陽や火と同じくらい力強いです。まさに無敵です。あなたは馬車に猿の旗を掲げていることでカピドヴァジャと呼ばれることになるでしょう。そして白い馬達に引かれていることでシュヴェータヴァーハナとも呼ばれることでしょう。あなたに勝利と幸福がありますように」
アルジュナとマヤは抱き合った。ユディシュティラはマヤにたくさんの贈り物を与えて別れを告げた。

縁起の良い日にパーンダヴァ兄弟はマヤサバーに入った。
貧しい者達やブラーフマナ達にたくさんの贈り物を配った。
大きな祝宴が開かれ、まるでインドラの町のように賑やかになった。
その建物の名は世界中に広まり、全世界からたくさんの人々が見にやってきた。ドゥリタラーシュトラの息子達を除いた全ての王族達もやってきた。

やってきた若い王子達の中には、アルジュナから弓矢を習う為に残った者がいた。その生徒達のリーダーがサーテャキであった。ユユダーナという別名を持つ彼はクリシュナの親戚であった。

アルジュナの妻スバッドラーは今や母親となっていた。息子はアビマンニュと名付けられた。
ドラウパディーも五兄弟それぞれの間に子供を産んでいた。ユディシュティラの息子はプラティヴィンデャ、ビーマの息子はシュルタソーマ、アルジュナの息子はシュルタキールティ、ナクラの息子はシャタニーカ、サハデーヴァの息子はシュルタカルマーと名付けられた。

クンティーはラックで出来た宮廷の火事やそれに続いたエーカチャックラでの物乞いの生活を思い出していたが、今や息子達は安泰となり、一族は力強くなっていた。
パーンダヴァという太陽は昇った。もはやドゥルヨーダナとシャクニの邪悪な考えからの危険はなく、安全であった。

しかしこの平安は嵐の前の静けさであった。
まだ誰も知る由もないが、これから数ヶ月後にはパーンダヴァ兄弟は再び世界で彷徨うことになる。
ドラウパディーの登場、クリシュナの登場、そしてこれから続くナーラダの登場。
悲劇の第三幕が開こうとしていた。

(次へ)


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