マハーバーラタ/1-37.カウラヴァ達の混乱

1-37.カウラヴァ達の混乱

パーンダヴァ兄弟とドゥルパダ王の娘の結婚のニュースは激しい炎のように広がった。そのニュースには、パーンダヴァ兄弟がヴァーラナーヴァタの火事で死んでいなかったこと、スヴァヤンヴァラでドラウパディーを勝ち取ったブラーフマナが実はアルジュナであったという内容が含まれていた。

カウラヴァ達とっては当然悪い知らせであり、シャクニと共に怒りを露わにした。火災の黒幕が自分達であることはきっと彼らは気付いているだろう、そう考えるのは必然であった。ならばどうするべきか。シャクニはパーンダヴァ兄弟と戦うべきだと提案した。しかしカウラヴァ側の長老達は反対した。
「パーンダヴァ兄弟は決して無力ではない。ドゥルパダとドゥリシュタデュムナが率いるパーンチャーラ軍、クリシュナとバララーマのいるヴリシニ一族、この勢力は大きい力を持つ。彼らと仲直りする方が良い」

ラーデーヤが反論した。
「私達の国を守りたいならクシャットリヤの道は一つしかない。皆でパーンチャーラを襲い、パーンダヴァ兄弟に挑むことです。今なら戦って勝てます。意見を分裂させている場合にではない。今しかない! 今なら簡単に勝てる!」
この勇敢なスピーチは皆の心を動かした。軍隊が集められ、カーンピリャへと進められた。

戦争はすぐに終結し、明白な結果となった。カウラヴァ軍の完全敗北であった。パーンダヴァ兄弟の激怒は、まるで傷つけられた蛇の怒りのように恐ろしく激しかった。
ドゥルヨーダナは敗残兵を連れてハスティナープラへ戻った。

怒りに満ちた本気のパーンダヴァ達は思っていたよりも強力であったという事実を理解しなければならなかった。ドゥルヨーダナの心は張り裂ける寸前で、誰とも話そうとしなかった。部屋にこもって何時間考え込んだ。
弟ドゥッシャーサナが彼の部屋に入り、慰めの言葉をかけた。ドゥルヨーダナは心の内を吐き出し始めた。
「プローチャナがしくじるなんて! あの愚か者め! なんてことをしてくれたんだ! ヴァーラナーヴァタへ送ってあいつらともう二度と会うこともないと思っていたのに! 逆に前よりも強くなっているではないか!
あの偉大なラーデーヤが、あの自惚れ野郎のアルジュナに負けるなんて! そんなことがあってなるものか! おお、運命とはこれほどまでに力強いのか!」

ヴィドゥラの元へ報告が届けられた。カウラヴァ兄弟がパーンダヴァ兄弟を攻撃した愚かな方法と屈辱的な敗北の詳細を聞いた。彼は兄ドゥリタラーシュトラ王の元へ行った。
「クル一族の子供達が繁栄していることは、とても幸運なことです」
ヴィドゥラはこの時、兄の反応を見る為にパーンダヴァ兄弟のことをわざと『クル』と表現した。さらに話を続けた。
「一番上の息子は、今やパーンチャーラ王の娘と結婚しました」
王はヴィドゥラの罠にはまって、とても喜んだ。
「おお、なぜ早く彼女を私に紹介してくれないのですか。あなたの言う通り、クル一族の我が息子達が繁栄しているのは幸運なことだ」
「兄さん、申し訳ない。誤解させてしまったみたいです。パーンチャーラ王の娘の夫として選ばれたのはドゥルヨーダナではありません。私がクル一族の子供達と呼んだ時、それは私達の亡き兄弟パーンドゥの息子達のことも含めていました。彼らだってクル一族の息子達ですから。アルジュナがスヴァヤンヴァラでパーンチャーラの姫との結婚を勝ち取り、今や彼ら五人全員が彼女の夫となったそうです」

ドゥリタラーシュトラ王は失望を隠し、心を落ち着けて礼儀正しく話した。
「それはさらに良い知らせですね。あのパワフルで無敵のドゥルパダ王との縁とあの子達が勝ち取ったのですから。私の親愛なる弟パーンドゥの息子達が生きていて元気であると聞いてとても幸せです。今日ほど幸せを感じたことはありません。ヴィドゥラよ私を抱きしめてください」
盲目の王は両手を広げた。
「兄さん、あなたの言葉にはとても優しく愛情が込められています。それが水面の泡のようでないことを信じます。その愛情が深く根付いてずっと留まってくれることをただただ望みます。揺るぎないものであってほしいです」
ヴィドゥラはその場から去った。

彼が王の元を去る少し前からドゥルヨーダナはラーデーヤと共にその場にいた。彼らの会話の最後の方を聞いていた。
「父上! 私が憎んでいるあの従兄弟達が生きていることが幸せであるとはいったい何ですか! 私は悪い夢でも見ているのですか? どうしたというのですか?」
「息子よ。今私はお前より気が動転している。パーンダヴァ兄弟の繁栄は私を喜ばせてなどいない。ヴィドゥラは賢いので私の本心を言うことはできないのだ。私は彼の前ではいつも弟の息子達を称賛する言葉を言うことにしている。彼は私の本心に気づいてはいないはずだ。さて、何の用だ?」

ドゥルヨーダナはもはや思慮深い考えを持つことはできなくなっていた。
「あの憎きパーンダヴァ兄弟は倒さなければなりません。彼らの間に仲違いを引き起こすことはできないでしょうか?
例えばドゥルパダ王を高価な贈り物で買収して仲間できないでしょうか?
あるいは、ドラウパディーをあの五兄弟の意見の衝突の原因に仕立て上げる方法はないでしょうか?
ビーマを殺すことを試してみるのはどうでしょう? 彼ら五人の中で最も強い彼がいなくなれば、きっと彼らは正気ではいられないでしょう。アルジュナの強さはいつもビーマに支えられていました。アルジュナを倒すのは朝飯前でしょう。
ドラウパディーを彼らから引き離してはどうでしょう?
ドゥルパダとドゥリシュタデュムナが彼らから離れるような方法はないでしょうか? パーンチャーラ軍の後ろ盾が無ければ彼らは何もできないでしょう。
これらが私の提案です。どれに賛成しますか? ラーデーヤが賛成してくれるならすぐに行動に移します。もう時が過ぎています。早く行動しましょう。
私は彼らと共にハスティナープラに住むなどということは全く考えられません。生きていけません」

ラーデーヤは微笑みかけた。
「我が友ドゥルヨーダナよ。冷静に考えましょう。途方もないことを考えるのは良くありません。
あなたの伯父シャクニの考える方法は何か成功しましたか? いいえ。ひとつも成功しませんでした。
パーンダヴァ兄弟の絆は強い。何者も入り込むことができないほど強いのです。そして彼らは優しい心を持ち、お互いの嫉妬も起こらず、邪悪な考えに染まることもありません。
ドゥルパダへの賄賂も無駄でしょう。彼は正直さで有名です。
ドラウパディーの説得もできないでしょう。本来女性というのは一人の夫を持つことで幸せになります。彼女は五人も夫がいます。彼女が不幸に導かれることはないでしょう。
ビーマを殺すこともできません。あなたは既に試したはずです。
私の提案は戦うことです。愚かな計画を採用する必要はありません。彼らは日に日に強くなります。戦って障害を取り除かなければなりません。早い方が良いです。戦いこそが唯一の名誉ある方法です。
親愛なるドゥルヨーダナよ。この大きな、大きな世界は詐欺によってではなく、勇気によって手に入れるべきです。あなたのような高貴な王子が、臆病者や力無き者が使う手段に頼るのは正しくありません。
あなたはクシャットリヤです。私達が付いています。あなたの為に命を捨てる準備ができています。王は勇敢でなければなりません。
王が用いるチャトゥル・ウパーヤ(四つの戦術)のうち、サーマ(近寄る)、ダーナ(与える)、ベーダ(離れさせる)は今は効果がありません。あなたが使うべきはダンダ(戦う)です。
伯父シャクニの曲がった考えであなたの品位を落としてはなりません。私についてきなさい。真のクシャットリヤによって歩まれる道へ私が導きましょう。あなたに悪評は不要です。我が愛する友よ。戦いましょう」

ドゥリタラーシュトラはラーデーヤの言葉に喜んだ。
「あなたのような英雄だけがそのような言葉を話せます。あなたは他の方法など考えられないでしょう。今日これから集会ホールで会議があります。これからのことをビーシュマ、ドローナなど、クル一族の全ての長老達が参加して話し合います。あなたの提案はきっと彼らを喜ばせるでしょう」
彼ら三人はゆっくりとホールに向かった。

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