マハーバーラタ/1-43.アルジュナのインドラプラスタへの帰還

1-43.アルジュナのインドラプラスタへの帰還

スバッドラーとアルジュナが乗る馬車が走り去るのを守衛が見つけた。アルジュナに似た者がスバッドラーを連れ去ろうとしている、そんな伝言が広められた。しかし二人を止めることはできず、町の外れまで馬車は進んでしまった。
スバッドラーがさらわれた!
それはヴリシニ一族にとって危機であった。

その報告を聞いたバララーマはすぐに町へ引き返した。
帰りの道中でクリシュナを問い詰めた。
「クリシュナ、なぜ黙っているんだ!
私達が町にいない時に、アルジュナに似た者がスバッドラーをさらって逃げたって、これはあなたの仕業でしょう!
なぜこんなことが起きるのを許したのだ! 答えなさい!」
「私がこれを起こすことを許したって? 何を言っているの? 兄さん。
あの二人を一緒にいさせることは危険じゃないかと、最初に言いましたよね? あんな若くて美しい二人なんだから、こうなるんじゃないかと思っていましたよ。
私の警告を聞かなかったのは兄さんの方だよ。
これは私ではなく、あなたの仕業ですよ。バララーマ兄さん」
「クリシュナ、分かっています。あなたのことは知り尽くしているんだ。これにはあなたが関わっているに違いない。
まだ遅くない! アルジュナを説得しに行くんだ!
ダメなら彼もろともインドラプラスタを滅ぼしてやる!
パーンダヴァ兄弟を全員私が倒してやる!」
偉大なバララーマは目から怒りを噴き出し、まるで死神のようであった。

「兄さん、そんなに怒らないでください。
そんなことしたら誰もパーンダヴァ兄弟を守れない。
まるで大風に捕えられた綿のようなものです。怒りは良くありません。
何が起きているかよく考えてみて。
スバッドラーは自分で馬車を用意して、自ら運転してアルジュナを乗せているんでしょう? それはスバッドラー自らが喜んでそうしているというのが明らかです。間違いなく彼女がアルジュナを夫として選んだということなんだ。
アルジュナですよ? 他の誰かではなく、アルジュナなんだよ。彼より望ましい夫は他にいますか?
彼ほど勇敢な人はいません。良い母親と天界の統括者に間に生まれ、クル一族にとっての最も輝く星です。
私達の妹が結婚するに値する人です。
彼を認めましょう。怒るのはやめましょう。
戦いを思いとどまることは恥ずかしいことではありません。むしろ立派なことです。
彼らを追いかけて、私達が怒っていないことを伝えましょう」

バララーマはクリシュナの説得に応じ、怒りは静まった。
アルジュナ達はあまりに遠くまで行ってしまっていたので、一度ドヴァーラカーに帰り、二人の正式な結婚式の為の準備を整え、改めてインドラプラスタへ向かうことにした。

恋人達はインドラプラスタの町に近づいていた。
次の懸念はドラウパディーのことであった。
「スバッドラー、私達五兄弟の妻ドラウパディーのことで、恐れていることがあるんだ。彼女は火の儀式で生まれた気性の荒い人だ。いきなり君が私の妻であると言ったら、きっと怒るだろう。だからまず最初に君が彼女に気に入られなければならないんだ。その後で私の妻であることを知るならきっと問題は起きないと思う。
そこでだ、乳搾りの女性の服をしてみてはどうだろう。その服でも素敵に見えるはずだよ。その姿でスバッドラーの所へ行き、クリシュナの妹であると名乗るんだ。間違いなくドラウパディーは君を気に入るはずだ」

スバッドラーは質素な服装を着てドラウパディーの所へ行き、アルジュナの指示通りにクリシュナの妹であると伝えた。ドラウパディーは心から彼女を歓迎し、祝福した。
「ああ、美しいスバッドラーよ、どうかあなたが英雄の花嫁となりますように。どうか英雄の母親となれますように」
そして彼女達はクリシュナとドヴァーラカーの話題で盛り上がり、何時間も話し続けて、すっかり仲良くなった。

町で騒ぎが起きた。
「おーい! アルジュナが帰ってきたぞー!」
一年ぶりに帰ってきたアルジュナの姿を見て町の人々は興奮していた。
アルジュナは城へ行き、ユディシュティラとビーマの足元にひれ伏して挨拶した。ナクラとサハデーヴァは温かい抱擁を受けた。
一年間での各地の巡礼の話やドヴァーラカーでの恋愛の話、バララーマとクリシュナの妹スバッドラーとの結婚について、兄弟に全てを話した。

そして少し緊張しながらドラウパディーの所へ向かった。
彼女はいたずらっぽく笑って話しかけた。
「心配いらないわよ。この乳搾りの女の子にはもう会ったわ。この子でしょう?」
ドラウパディーは恥ずかしそうにするスバッドラーを実の妹のように腕に抱きしめていた。
「なんて可愛いのかしら! この美しさに一体誰が我慢できるというのかしら。もう私だってこの子に夢中なの。かわいそうなアルジュナ。この子を見てしまったら、もう虜よね? どうしようもなかったでしょう?」
アルジュナは安心し、胸をなでおろしていた。

数日後、ヴリシニ達がスバッドラーの持参品として、高価な贈り物や貴重な宝石を持ってインドラプラスタへやってきた。
そしてアルジュナとスバッドラーの結婚式は執り行われ、その後数日間はヴリシニ達と共に過ごした。
クリシュナはインドラプラスタにしばらく滞在することになり、バララーマは他の者達を連れてドヴァーラカーに帰っていった。

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