マハーバーラタ/3-3.クリシュナの誓い

3-3.クリシュナの誓い

クリシュナがパーンダヴァ達に会う為にカーミャカの森へ行った。
ドラウパディーの兄ドゥリシュタデュムナ、チェーディの王ドゥリシュタケートゥ、勇敢さにおいて世界に名を馳せているケーカヤ兄弟、ヴリシニ一族の英雄達も一緒だった。
彼らはパーンダヴァ兄弟とドラウパディーの姿を見て衝撃を受けた。
ユディシュティラを囲んで座り、クリシュナが話した。
「大地が罪人の血を渇望している。ドゥルヨーダナ、ラーデーヤ、シャクニ、ドゥッシャーサナの血を飲むことになるでしょう。
あれは公平なゲームではない。ユディシュティラよ、なぜあなたが森に住まなければならないのですか? 世界中の王があなた達の姿に衝撃を受けています。
カウラヴァ達があなた達をこのような目に遭わせたのは明らかにおかしい。私達全員で協力します。皆で進軍しましょう。バーラタの国全体があなたの味方ですから、カウラヴァ達を倒しに行きましょう」
「クリシュナ、違うのだ。私は間違いを犯した。この状況はその罪にふさわしい結果なのだ。私は受け入れている。
運命は変えられない。私は耐えなければならないのだ。
ヴャーサがインドラプラスタで恐ろしい運命の予言をしてくれました。
申し訳ないが、あなたの提案は断らなければならない。どうか勘弁してほしい」
ユディシュティラは静かに座った。

クリシュナはカウラヴァ達に対して怒りを覚えていた。
「ユディシュティラよ。あなたと私の人生は大いに関わっています。あなたは私のもので、私はあなたのものです。
あなたを愛する人は私を愛する人で、あなたの敵は私の敵です。私の敵を倒すまで休んでいられません。
ですが、いずれ彼らは非業の死を遂げることになるでしょう。あなたの言った通りになることでしょう。
時間の問題です。私があの元気なクシャットリヤの血で大地を湿らせてやります。
私は誓います。必ずそれを実現させます」

その一方で、ドラウパディーは敬愛するクリシュナと兄ドゥリシュタデュムナに会って悲しみが溢れていた。ラーデーヤ、ドゥルヨーダナ、そしてドゥッシャーサナから受けた屈辱が彼女の頭に蘇り、まるで心が壊れたかのようにむせび泣いた。
ユディシュティラは辛抱強く耐えていたが、ドラウパディーのその姿を見たクリシュナが怒りを膨らませ、その表情を見たドラウパディーに慰めを与えた。
ドラウパディーは目に涙を溜めてクリシュナに話しかけた。
「おお、クリシュナよ。私の姿が見えますか? これが世界で最も偉大な英雄と言われているパーンダヴァ兄弟の妻の今の姿です。
私はプージャの儀式によって生まれたドゥリシュタデュムナの妹で、クリシュナを敬愛する者です。
それであってもこんなことが起きてしまったのです。カウラヴァ達が私を辱めました。髪を引きずられ、野獣の奴隷だと言われました。長老ビーシュマもドゥリタラーシュトラ王も、あの暴行を止めてくれませんでした。何も言ってくれませんでした。
我が夫達の力も役に立ちません。
100人のラークシャサを殺せるビーマの力が何の役に立つと言うのでしょう?
アルジュナがインドラを戦えたからと言って何になるでしょう?
ナクラとサハデーヴァが勝利の者だと言っても何の役に立つのでしょう?
ユディシュティラがラージャスーヤを行ったからと言って、この地の唯一の君主と呼ばれたとしてもそれが何の役に立つと言うのでしょう? ラージャスーヤで清められた私の髪があのドゥッシャーサナに触れられた時、彼らはなぜ黙っていられたのでしょう?
そして・・・ドゥッシャーサナは私の衣服を剥ごうとしたのに、黙っていました。あれよりもひどい仕打ちがあるでしょうか?
クリシュナ、あなたの慈悲が無ければ、きっと私は脱がされていたことでしょう。そして、それでも彼らはきっと黙っていたのでしょう!
妻が辱められている時に守ってくれないなんて、いったい彼の語るダルマとはいったい何なのでしょう? 妻を守ることが夫にとっての最も大事なダルマではないのですか? かつてない方法で女性が辱められているのに、助けてもくれない! そんな男達がクシャットリヤだなんて、なんの意味もない! 心の中に騎士道をもたない彼らはもう、男ではない!」

ドラウパディーの涙は抑えることなく流れ続けた。それ以上言葉を話すことができなかった。
クリシュナが彼女の顔を引き寄せ、指で優しく涙を拭いた。
彼の目もまた、濡れていた。
「ドラウパディー、待っていなさい。あなたの涙を無駄にはしません。
あなたが嘆き悲しんでいるのと同じくらい、クル一族の女性達が嘆き悲しむとになります。
アルジュナの矢がラーデーヤの血で濡れる時、女性達が嘆き悲しみます。
ビーマの手がドゥッシャーサナの血で赤く染まる時、女性達が嘆き悲しみます。
あの罪深いドゥルヨーダナが彼の手で太腿を折られて戦場に横たわる時、女性達が嘆き悲しみます。
そうなることを私が約束します。
何者も私を止められません。
世界よ、我が声を聞け! 我はクリシュナ。今ここに誓う。
天界が地上に落ちようとも、ヒマラヤの頂上が滑り落ちようとも、海が渇こうとも、大地が木っ端みじんに砕けようとも、私の言葉は真実となる。
ドラウパディー、あなたはカウラヴァ一族全員の死を見ることになるでしょう。おお、我が愛する妹よ。どうか泣かないで」
クリシュナの誓いの言葉を聞いたドラウパディーの涙が次第に和らいでいった。

クリシュナはさらに言葉を続けた。
「ユディシュティラよ。あの悲劇の時、私がもしドヴァーラカーに居たならその知らせを聞いて招かれざるハスティナープラへ向かっていたでしょう。そしてそのサイコロゲームを止め、ビーシュマやドゥリタラーシュトラの罪を思いとどまらせていたでしょう。
ですが、あの時私はサウバに行ってしまっていた。シシュパーラの友人であったサールヴァ王と戦わなければならなかった。彼はシシュパーラの復讐のためにドヴァーラカーの人々を苦しめたのだ。彼を倒し、ドヴァーラカーに戻った時にあなた達の悲劇のことを聞いたのです。
あなたは森で13日間を過ごしました。ある法によると、森での一日は一年を意味するという。それに従うなら、今あなたが戦いを始めたとしても約束を破ったことにはなりません。どうしますか?」
ユディシュティラはクリシュナに微笑んだだけで何も答えなかった。

クリシュナも微笑んだ。
「ユディシュティラ、あなた次第です。いずれにしてもカウラヴァ達の終わりは近い。私達はあなたが王になる姿を見ることになるでしょう。
きっと私のこの手であなたの頭に王冠を乗せます」

クリシュナは一人一人別れを告げた。
ドゥリシュタデュムナは妹ドラウパディーと義理の弟達に別れを告げ、敬愛するビーマと抱擁を交わした。
ドゥリシュタケートゥとケーカヤ兄弟は励ましの言葉と共に、クリシュナの誓いについてよく考えるよう伝えて帰っていった。

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