マハーバーラタ/1-31.旅人ブラーフマナの話

1-31.旅人ブラーフマナの話

バカを退治した後もパーンダヴァ達はエーカチャックラのブラーフマナの家に泊まらせてもらっていた。
ある日、一人のブラーフマナが旅の途中でその家に泊まった。
パーンダヴァ達は彼が見てきた面白い話を聞かせてくれるよう頼んだ。遠くからの訪問者の話を聞くのは楽しみであったが、本当の目的は自分達が火事で亡くなったという知らせがどのように世間に広まっているかを知る為であった。
「私がこんな風に各地を放浪している本当の使命はスヴァヤンヴァラの開催を世間に知らせることです。パーンチャーラの王ドゥルパダが娘のドラウパディーの為にカーンピリャの町で婿選びのイベントを行うのです。この娘は兄ドゥリシュタデュムナと共に神聖な火の儀式で生まれた子供です」
パーンダヴァ達はそのスヴァヤンヴァラの話をもっと詳しく話すようお願いした。
「この二人の誕生には、長く面白いエピソードがあります。スヴァヤンヴァラの目的にも関係しています。
バラドヴァージャのアーシュラマで一緒に学んでいたドローナとドゥルパダという名の友人がいました。ある日、パーンチャーラの王子であるドゥルパダは、『ずっと友達でいよう、いずれ王になった時にドローナと共に王国を分かち合おう』と話していました」
パーンダヴァ達はその話をよく知っていたが、そのおしゃべりなブラーフマナが楽しく話しているのでそのまま聞き続けた。
次の話はドローナのお気に入りの弟子アルジュナがグルダクシナーを渡した話であった。
「ドゥルパダは囚われの身となったが、誰も傷つけることなく見事な腕前で自身を捕えた若者アルジュナの勇敢さに驚き、魅了されたのです。
そして同じ時、ドゥルパダのドローナに対する憎しみも生まれたのです」
パーンダヴァ達は姿勢を正した。そこから先の話は知らなかった。ドゥルパダの憎しみについては初耳であった。
「ドローナのドゥルパダに対する憎しみが消えた瞬間、ドゥルパダの心にはドローナに対する憎しみが生まれたのです。もう友達として見ることはできなくなったのです。皮肉なことでした。ドローナから受けた屈辱に対する仕返しを考え始めました。それはまるで憎しみがドローナの心を離れて、ドゥルパダの心へ住処を移すべく飛び込んでいったかのようでした。
ドゥルパダの目的は、バールガヴァの弟子であり全ての神聖なアストラを持つドローナを殺せるほど力強い息子を得ることでした。
こうして二つの望みを持ってプットラカーマと呼ばれるヤーガ(儀式)を行うことを決心しました。一つはドローナを倒す息子、もう一つはアルジュナと結婚する娘。ドゥルパダは森の中でヤージャとウパヤージャという二人のリシに出会い、一年の努力の結果、儀式を執り行うことができました。
儀式の火から馬車が現れ、その中には戦士の姿をした神様のような若者が座っていました。
次にその火からとても美しい女性が現れました。色は黒く、美しく輝く長い髪からは青い蓮の香りが漂ってきました。その目は蓮の花びらのように長く澄んでいて、その輝きに全ての人は魅了されました。ドゥルパダは彼女こそがアルジュナにふさわしい花嫁になると考えたその時、天界から声が聞こえてきました。『全ての女性の中で最も美しいこの女性は、全てのクシャットリヤの破滅の原因となるだろう。彼女は神聖な目的を果たす為に生まれた』
男の子の方はドゥリシュタデュムナ、女の子の方はクリシュナーと名付けられ、ドラウパディーとよく呼ばれています。
ドゥルパダは大いに喜びました」

ビーマが話し始めた。
「そうなんですか? ドゥリシュタデュムナはドローナの生徒だと聞いたことがあります。弓矢や全ての武器の使い方をドローナから学んだと人々はそう言っていますが」
「その通りなのです。ドローナ自身も、そのドゥリシュタデュムナ王子が自分を殺す為に生まれたということを知っていたけれども、それでも彼は全てを教えました。運命に抗っても無駄であると知っていたのです。
ドゥリシュタデュムナは火事で暗殺されたパーンダヴァ兄弟の次男ビーマの親友でした。
私がさまよい歩いている理由がここからです。
パーンダヴァ兄弟はハスティナープラに住むドゥリタラーシュトラ王の甥で、まさにクル一族の子孫です。
パーンダヴァ兄弟は父を亡くした後、ドゥリタラーシュトラ王の元に身を寄せましたが、彼は父親らしく振舞わず、邪魔になった彼らをヴァーラナーヴァタへ送りました。そしてラックでできた宮廷に住まわせ、彼らもろとも燃やしたのです。母親も一緒だったそうです。
ドゥルパダはその事件を聞いた時、発狂するほど悲しみました。腹黒いドゥリタラーシュトラ、その息子ドゥルヨーダナ、伯父シャクニ、この三人がその悲劇の原因であると知っていました。まるで自分の息子の死を嘆き悲しむかのように深い悲しみに沈みました。その時、彼のグルが彼に言いました。
『ドゥルパダ王よ、そんなに悲しむのではありません。パーンダヴァ兄弟は死んでいない気がするのです。二人のリシ、ヤージャとウパヤージャが言った言葉が嘘になるはずはありません。ドラウパディーはアルジュナと結婚できるはずです。
ドラウパディーのスヴァヤンヴァラをバラタヴァルシャ全体に知らせましょう。スヴァヤンヴァラでの勝利の条件を弓矢のテストにするのです。パーンダヴァ兄弟は今、変装してどこかに潜んでいると確信しています。運命通りならば、必ずアルジュナが現れてスヴァヤンヴァラに参加し、ドラウパディーを勝ち取るはずです』
ドゥルパダは世界各地にその宣言を送りました。大きなスヴァヤンヴァラがカーンピリャで催されるという知らせを、私のような者達があちこちで広めているのです。ひょっとしたら私はどこかでアルジュナ本人にこの話をしているかもしれませんね」
彼はそんな冗談で言って大声で笑い、話し疲れて眠ってしまった。

彼が眠った後、パーンダヴァ達は一言も言わずに静かに座っていた。
クンティーが沈黙を破った。
「私達はこのブラーフマナの家にお世話になり過ぎました。そろそろ飽きてきました。引っ越しましょう。パーンチャーラの国のカーンピリャという町に行ってみてはどうですか? パーンチャーラは豊かな土地で、スヴァヤンヴァラが開催されるのですから、お祝いで観衆も多く、町を歩くのはきっと楽しいでしょうね。あなた達が望むならパーンチャーラへ行きたいです」
全員がそれを望んでいた。

彼らは夜眠れなかった。ドラウパディーがアルジュナの為であることを知っていても、彼女の美しさを聞いて、皆の考えが想像上の彼女の周りをうろついていた。ユディシュティラでさえも落ち着かない様子であった。妄想を膨らませて夜が明けるのを待った。

夜が明け、クンティーはお世話になったブラーフマナ夫妻に愛情のこもった別れを告げた。
パーンチャーラに向けて出発した。
その途中彼らは約束通り、ヴャーサに出会った。
「あなた方のしていることは正しいです。パーンチャーラを目的地として進めば大きな幸運が待っています。私にはあなた達の頭に一杯になっている願望が見えます。それは全て叶います。それだけを伝えておきます。
カーンピリャでは、私を必要としてまた会うことになるでしょう。あなた達の暗い日々は終わります。雲が晴れ、幸せな日々が始まります」
そう励ましてヴャーサは去っていた。
パーンダヴァ達は妙な陽気に包まれてパーンチャーラの首都カーンピリャへ向かった。

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