マハーバーラタ/5-13.平和の使者クリシュナ

5-13.平和の使者クリシュナ

翌朝、ドゥルヨーダナと他の者達と共にクリシュナを迎えに行った。
彼がヴィドゥラの家に到着した時、クリシュナはちょうど朝の日課を終えたところであった。

御者ダールカが運んできた戦闘馬車にクリシュナは乗り込み、宮廷に向かって出発した。
ドゥルヨーダナはラーデーヤと共に戦闘馬車でクリシュナの後に続いた。
この2台の戦闘馬車の後に続いたのはサーテャキとクリタヴァルマーであった。

宮廷の入口では儀仗兵が待ち構え、荘厳な歓迎が行われた。
町中の人々がクリシュナ見たさに宮廷に押しかけていた。

クリシュナは宮廷の門まで進み、ヴィドゥラとサーテャキに両手を引かれて戦闘馬車から降りた。
ドゥルヨーダナとラーデーヤによって集会場まで案内された。
その途中、ナーラダや他のリシ達が来ているのを見かけたのでビーシュマに伝えた。
ビーシュマは宮廷に招き入れ、特別な席に案内した。
ドゥッシャーサナがサーテャキを席に案内し、
ドゥルヨーダナの弟ヴィヴィンサティがクリタヴァルマーを案内した。
クリシュナの近くでドゥルヨーダナとラーデーヤが同じ席を分け合って座った。その近くにはシャクニが座った。
ヴィドゥラはクリシュナの隣に座った。

その場に集まった全ての目がクリシュナに向けられた。
その魅力的な姿を見ることで人々は幸せを感じていた。
彼の栄光が集会場の隅々まで輝きを与えた。
お気に入りの宝石カストゥバが胸に飾られ、黄色のシルクがその黒い体に掛けられたその姿は、まるで日の出の黄色い光線で点火された黒い山のようであった。

集会場が静まり返った。
突然クリシュナの声が静寂を破った。
まるで遠くで鳴る雷のようであった。
「ドゥリタラーシュトラ王よ。
私は多くの英雄達の死を止める為にハスティナープラへ来ました。
カウラヴァ達とパーンダヴァ達の間に平和をもたらすことが目的です。
クル一族はこのバラタヴァルシャにおいて最も高貴な一族です。
あなたの一族は優しさ、思いやり、正直さ、寛大さ、そして正義の愛という偉大な資質によって良い評判を受けています。
そのような輝かしい一族に生まれながらも、そうではない最初の人物にあなたがなってはなりません。今あなたがしていることはクル一族の子孫としてふさわしくありません。
あなたの息子達は正義を捨て、虐殺者のような罪の道を進んでいます。
自制心もなく、年長者達に対する尊敬も持たず、強欲です。
それをあなたが承知だったとしても、そうでなかったとしても、すでに危険な段階にまで達しています。
王よ、もしあなたが本当に平和を望むなら、息子達を正しい道へ進めさせてください。あなたがそう望むなら不可能ではありません。平和はあなたの手の内にあります。威厳を持って、息子達に対して断固とした態度をとってください。
あなたが仲裁すればパーンダヴァ達とカウラヴァ達は救われます。
この平和がもたらされたなら、あなたに匹敵する人はいないでしょう。どうか想像してみてください。
ビーシュマ、ドローナ、クリパ、ラーデーヤ、ヴィヴィンサティ、アシュヴァッターマー、ヴィカルナ、ソーマダッタと一方に置き、
ジャヤドラタとドゥルヨーダナによって支えられ、
さらにあなたはユディシュティラ、ビーマ、ナクラ、サハデーヴァ、そしてアルジュナ、サーテャキ、アビマンニュの支援も得ることになるのです。
なんという素晴らしい軍隊でしょうか。
あなたこそがこの世界で、そして天界においてもクル一族の最も偉大な人として褒め称えられるのです。まさに世界の王となるのです。
あなたに対抗できるものなど誰一人いません。
パーンダヴァ達があなたの為に世界とその栄光を手に入れてくれるでしょう。
その栄光を手に入れようとはせずにあなたは汚名と破滅を招いているのです。一本の木から伸びた二つの枝の分裂からあなたは何を得ようというのですか? 両方の軍の虐殺によってあなたは何を得ようというのですか?
あなたの息子達もパーンダヴァ達も両方が力強い戦士達です。同じ一族の彼らがお互いに殺し合おうとしているのです。
ここに集まった各国の王達もその戦いに参加して死ぬ覚悟をしてしまっています。
彼ら全員を救うことはできませんか? あなたにならできるのです。どうか世界を救ってください。
父を亡くしたパーンダヴァ達はあなたに対する愛情に満ちています。あなたの息子達と平和に生きさせてください。
愛情をもって彼らに与えた苦難の償いを今するべきです。

この場は適切なサバー(集会)ではありません。
正義が不正によって抑圧され、真実が嘘によって圧倒され、年長者達が不正を見過ごしているような場所はサバーではありません。罪が増殖する場所です。
あなたの中にある正義によってパーンダヴァ達に王国を返してください。
ユディシュティラの性格はよくご存じでしょう?
彼はきっと過去の過ちを水に流してくれるはずです。
王よ、あなたには息子達の死を経験してほしくないのです。
少しでも未来の平和に希望を持つのであれば、今パーンダヴァ達との平和をあなたがもたらすべきなのです」

その場にいた全員がまるで呪文に掛かったかのようにクリシュナの言葉を聞いていた。誰も彼の後に続く言葉を思いつかなかった。

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