マハーバーラタ/5-5.ドゥリタラーシュトラの返事

5-5.ドゥリタラーシュトラの返事

パーンダヴァ達の使者として送られたブラーフマナがハスティナープラへ到着した。
その使者はカウラヴァ達から歓迎され、集会ホールに通された。
「お集まりの皆様。
この集会ホールは正義の意味を知る英雄達で埋め尽くされています。皆さんクシャットリヤと王が従うべきルールをご存じでしょう。
ここにいらっしゃるドゥリタラーシュトラ王と、今は亡きパーンドゥが兄弟であることは世界中で知られています。
この二人共が生得権として王国を支配する権利を持ちます。
それなのにパーンドゥの息子達はそれが認められていません。ドゥリタラーシュトラの息子達だけがこの国を支配しています。彼らは奪ったのです。
そしてパーンドゥの息子達を何度も殺そうとしました。全て失敗に終わっていますが。
パーンダヴァ達は与えてもらった不毛の土地を開拓し、国を広げましたが、ドゥルヨーダナとシャクニの企みによって奪われました。
ここにいる長老達はその企てを黙認し、ドラウパディーはかつてない侮辱を受けました。
パーンダヴァ達は12年間を森で、さらに1年間身を隠して過ごさなければなりませんでしたが、彼らはその大きな困難を耐え抜きました。名を伏せて召使いとして過ごすことも受け入れました。
彼らはそれを果たしたので、約束通り国の半分を要求しています。
ユディシュティラは戦争を望んでいません。クシャットリヤの破滅を望んでいるわけではありません。ただただ半分の国を返還してほしいだけです。
その約束が果たされるようにドゥルヨーダナを説得できるのはここにいるダルマに精通した長老達だけです。
しかし、もしドゥルヨーダナが約束を守らずに貪欲に負け、国を返さないとするなら、よく考えるべきです。パーンダヴァ達とて無力ではないことを。
ユディシュティラは7アクシャウヒニの軍を集めました。援軍を申し出た王達は彼の為に命を懸ける準備ができています。
サーテャキ、ビーマ、ナクラ、サハデーヴァがいます。
インドラよりも偉大なアルジュナがいます。彼の御者を引き受けたクリシュナがいます。
どうか彼らの国を返還するようドゥルヨーダナを説得してください。
それともパーンダヴァ達の怒りと向き合いますか?」

ビーシュマはその使者の言葉に耳を傾けていた。
「パーンダヴァ達が元気でいてくれること、クリシュナを友人としていること、彼らを助けるたくさんの王がいることは喜ばしい知らせだ。
あなたの言葉は疑いようのない真実だ。
しかし、言葉が鋭く、辛辣だな。
確かにパーンダヴァ達はカウラヴァ達によってひどい扱いを受けてきた。そして彼らに土地の所有権があるのも確かだ。
アルジュナがインドラよりも偉大だと言っているが、それも真実だ。ここにいる私達が知っている通り、彼に匹敵する者はいない」

そこまでビーシュマが話していた時、ラーデーヤが立ち上がって彼の言葉を遮った。
「終わりのない話はやめましょう」
ラーデーヤはドゥルヨーダナの方を一度見てから、使者のブラーフマナに話し始めた。
「何度も同じ話をするのは止めよう。
あなたのご主人であるユディシュティラはサイコロゲームで負けたんだ。約束通り森へ行き、これから王国を返してもらおうという時だろう? なぜその状況でマツヤ王国や義父のドゥルパダの援軍を集めているんだ? なんの為にだ? ドゥルヨーダナ王を脅そうというのか? それは無駄だ。彼は脅しに屈して土地を返したりなんてしない。
そもそもパーンダヴァ達は13年目の条件を満たしていないんだ。期間が終わる前にアルジュナが発見された。約束通りもう12年間森へ行くのがダルマではないか! 王国を要求するなんて間違いなんだよ。それこそアダルマだ。そんな不正はやめて賢くなれとユディシュティラに言ってやれ」

ビーシュマはラーデーヤの言葉に対して怒りを見せた。
「ラーデーヤ。あなたの言葉にはうんざりだ。つい先日、こちらの6人の戦士とアルジュナと戦った時のことを思い出しなさい。あなたはその中の1人だったのを覚えていないのか? それとも思い出したくないのか? 私は覚えている。誰もアルジュナを打ち負かすことができなかった。あなたは命を守って戦場から逃げた。
この使者の言葉に従わなければ、私達は戦場で皆殺しにされる。
ドゥルヨーダナも、彼を助けようとする者も全員そうなるだろう」

二人を仲裁するようにドゥリタラーシュトラが話し始めた。
「ラーデーヤ、偉大なビーシュマが言っていることはパーンダヴァ達だけでなく私達とっても良い結果になるだろう」
続けて使者に向かって話し始めた。
「これから大臣達の意見を聞かなければならない。後ほどサンジャヤを使者として伝言を送る。ユディシュティラにそう伝えてほしい」

使者はウパプラッヴャに帰り、パーンダヴァ達にハスティナープラでの出来事を詳細に伝えた。さらにドゥルヨーダナ側の援軍の状況も正確に伝えた。
パーンダヴァ達はサンジャヤが来るのを待った。

数日後、サンジャヤがやってきた。
彼はユディシュティラの大きな愛と敬意をもって歓迎された。

「サンジャヤよ、あなたがハスティナープラから喜ばしい知らせを運んできてくれていることを期待します。
彼らはアルジュナの武勇を忘れていないでしょう。
ラージャスーヤの時のビーマの活躍を覚えているでしょう。
ナクラとサハデーヴァのことも覚えているでしょう。
森にいるときにチットラセーナという名のガンダルヴァと戦って捕らえられたことを忘れていないでしょう。私の弟達に命を助けられた借りを覚えているはずだ」
ユディシュティラは話を止めた。彼の目を涙が襲った。
「サンジャヤよ。どんな良い行いをしても幸せの達成に導かれないことがあるのです。ドゥルヨーダナの愛を手に入れる為の努力が無駄になった時、それが分かるはずです」

サンジャヤが話し始めた。
「ドゥリタラーシュトラの周りにいる人達の中には、良い人も悪い人もいます。しかしユディシュティラ、あなたはまさに正義の人です。
ドゥリタラーシュトラはあなたに対する不正に決して賛成していません。彼は日夜悲しんでいます。
弟の息子達の武勇を忘れたことなどありません。ビーマの鉾の強さも、アルジュナの偉大さも知っています。12年間追放されている間ずっとあなたたちの幸福を気にかけていました。
王はこの苦境から脱出する方法をあなたの知性に頼っています。パーンドゥの息子達が自分自身の喜びの為にダルマの道から逸れないことを知っています。
知性を持つあなたが戦争を避けるように取り計らってくれることを王は期待しています。
王が大臣と話し合ったメッセージを伝えます。どうか注意深く聞いてください」

ユディシュティラは英雄達を集めた。
四人の弟達、クリシュナ、ドゥルパダ、ドゥリシュタデュムナが集まってサンジャヤが運んできた伝言を聞き始めた。
「ユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァよ。我が子のようなあなた達に私の最大の希望を伝えます。親愛なるクリシュナ、サーテャキ、チェーキターナ、ヴィラータ、ドゥルパダよ。ドゥリシュタデュムナとドラウパディーもそこにいることでしょう。
私はあなた達全員が平和でいることを願っています。
ユディシュティラよ。あなたは不変の愛の人として知られています。アダルマを嫌い、優しさを持っています。
偉大な我が一族に生まれたあなたは決して一族の恥をもたらしてはなりません。いつでも高い志を持ち、卑劣な行いを考えてはなりません。それは真っ白な布に落とされた黒点のようにあなたの名を汚すものだ。
世界の破滅を引き起こすようなことはしないでください。それは罪、あなたを地獄へ導く罪です。
どちらが勝つかは重要なことではありません。
一族の為に人生を捧げる者は神の祝福を受けます。
同じ一族であるカウラヴァ達と戦って滅ぼしたなら、あなたは何を得るのですか?
親戚の死は幸福を与えません。あなたは一生不幸となるでしょう。
あなたの側には強力な軍隊が集まっているそうですね。勝利はあなたのものかもしれません。
しかし、カウラヴァの軍隊もまた強力です。無敵の軍隊です。
ビーシュマ、ドローナ、クリパ、アシュヴァッターマー、ラーデーヤ、その他にもたくさんの英雄達がこちらに集まっています。
しかし、よく考えてください。ユディシュティラよ、勝っても負けても何も良いことはないのです。
私は祈ります。どうかこのような悲惨な出来事が避けられるよう祈ります。
どうか私の言葉がクリシュナとアルジュナに届きますように。
どうかあなたがこれ以上戦争のことを考えませんように。我が伯父ビーシュマと共にお願いします。
ダルマの道から逸れず、パーンドゥの息子達と我が息子達の間で確実な平和を築くことを考えてください」

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