マハーバーラタ/3-20.死の湖

3-20.死の湖

ドヴァイタヴァナに住んでいるパーンダヴァ達の元に一人のブラーフマナが駆け込んできた。
アラニという儀式で使う枝を鹿が持っていってしまったということだった。
ブラーフマナにとっては火を起こして日々の儀式を行うことがとても重要であるので大変困っていた。

パーンダヴァ兄弟は角に枝を引っ掛けて去っていったその鹿の追跡を始めた。遠くまで追いかけていったところで突然その鹿が消えた。
彼らは途方に暮れてしまった。喉が渇き、疲れ切ってしまった。

座り込んだ彼らは今までの災難を思い出し、後悔して落ち込んだ。
ユディシュティラが言った。
「今は過去のことを考える時ではない。今心配すべきはこの酷い喉の渇きをどうやって癒すかだ。
ナクラ、木に登ってどこか水がありそうな場所を探してくれ。もう喉が渇いて死んでしまいそうだ」
ナクラは木に登って辺りを見渡した。
「あっちに湖が見えるよ!」
「よし、すぐ行って水を汲んできてくれないか?」
「急いで行ってくるね」
ナクラは湖が見えた方向へ走っていった。

湖に到着した。
水はその冷たさで彼を魅了した。
その水を飲もうとした時、どこからともなく声が聞こえてきた。
「我が質問に答えよ。それまでその水を飲んではならぬ」
ナクラはその声を無視して水を飲もうとした。それほど喉が渇いていた。
水に手を入れ、冷たい水を口に含み、飲んだ。

ナクラは倒れて死んだ。

他の四人はしばらく待っていたが、ナクラは戻ってこなかった。
ユディシュティラはサハデーヴァに探しに行かせた。

サハデーヴァが湖に到着するとナクラの死体を見つけた。
その光景に衝撃を受けたが、彼の喉の渇きも激しく、水を飲もうとした。
「我が質問に答えよ。それまでその水を飲んではならぬ」
サハデーヴァもナクラと同じようにその警告を無視して水を飲んだ。

サハデーヴァは倒れて死んだ。

次にアルジュナが送られた。

アルジュナは倒れて死んだ。

次にビーマが送られた。

ビーマは倒れて死んだ。

誰もユディシュティラの元に帰ってこなかった。
ユディシュティラはいろんな想像をしながら湖にやってきた。
目に飛び込んできた光景のあまりの恐ろしさに足が止まった。
弟達が全員死んでいた。
「なぜだ? なぜこんなことが起きたのだ!
戦った痕跡すらない。この四人が、命を守る為に戦うこともなく殺されたなんて信じられない。きっと何かがあったに違いない」

悲しみに打ちのめされたユディシュティラは愛する弟達を見ながら立っていたが、すぐに立っていることができずに座り込んでしまった。
あまりの災難に涙も出なかった。
彼は頭を抱え、石像のように固まった。
「なんということだ。ドゥルヨーダナの夢が実現した。シャクニによる暗殺だろうか。
彼ら無しにどうやって生きていけばいいのだろう。
なぜ私だけ生きている? なぜ?
彼らではなく私が助かっている。なぜ私にだけその急死はやってこないのか?」

混乱した考えが彼の中を巡った。
悲しみで気が狂いそうになった。
彼のさまよう目が湖に止まった。
喉が渇いた。まずは水を飲もう。

「我が質問に答えよ。それまでその水を飲んではならぬ」

ユディシュティラの手は止まった。
あたりを見渡した。

「お前の弟達は一人ずつここに来た。
水を飲まないように忠告したのに誰一人耳を貸さなかった。
彼らは死んだ。私はこの湖の主のヤクシャだ」
「ヤクシャ? 一体どんなヤクシャなのですか? 49人のヴァーユ、マールタの誰かですか? それともルッドラの一人? この無敵の弟達を一撃で倒すなんて、神でさえもできないはずなのに。命を懸けて戦うことさせ許さないなんて。
おお神よ。あなたの力に驚くばかりです。どうか正体を明かしてください。あなたをこの目で見たいのです」

ヤクシャは彼の前に姿を見せた。実際に恐ろしい姿をしていた。
ユディシュティラは彼に敬意を表した。
「お目にかかれて光栄です。私の願いを聞いてくれるなんてあなたは慈悲深い方です。あなたに感謝します」
「お前の弟達は耳を貸さなかった。この湖は私の物だ。もう一度言う。
我が質問に答えよ。それまでその水を飲んではならぬ」
「あなたの言葉を無視して侮辱するつもりはありません。あなたはこの湖の所有者だとおっしゃいました。ですから私には飲む権利はありません。絶対に触れたりもしません。どうぞ質問を与えてください。私の最善を尽くし、私の答えであなたを喜ばせることに挑戦します」

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