マハーバーラタ/1-13.パーンドゥの死

1-13.パーンドゥの死

パーンドゥは神々から授かった息子達と共に15年間過ごした。
ある日、クンティーは息子達を連れて近くのアーシュラマへ出かけていた。愛の神の友であり、春の神であるヴァサンタの魔法によって、その日のシャタシュリンガの森の木々は美しい花で飾られ、空気は花の香りをまとっていた。まさに愛の行いに相応しい舞台であった。

真紅のシルクをまとって立つマードリーの姿がパーンドゥを誘惑してしまった。彼女との抱擁の喜びを味わうことなく18年が経っていた彼はそのあまりの美しさに呪いのことを忘れてしまっていた。
マードリーは死に物狂いで彼の誘いを拒み、おびえた鹿のように逃げ回った。助けてくれるはずのクンティーはその場にいなかった。マードリーがどれほど諫めても、断ってもパーンドゥは耳を貸さず、力強く腕の中に捕え、彼女を手に入れた。
次の瞬間、彼は倒れた。

マードリーの叫び声がクンティーの耳まで届いた。彼女は五人の息子達を連れて急いだ。
「クンティー姉様、恐ろしいことが起きてしまいました。子供達を置いてきてください」
クンティーはパーンドゥが死んでいるのを見て、怒りをマードリーにぶつけた。
「あなた呪いのことは分かっていたでしょ!! なぜこんなことになったの? どうして呪いのことを思い出させてあげられなかったの!!」
マードリーは起きたことを説明したが、ただただ運命の力強さを理解しただけであった。悲しみがクンティーの体を燃やし、気を失って倒れた。

マードリーは王の衣で包まれた亡き夫の体をベッドに寝かせ、クンティーを起こした。クンティーはパーンドゥの顔に美しい微笑みが浮かんでいるのを見た。
彼女がその美しく輝く微笑みに自分の顔を乗せて悲しみに身を委ねているのをシャタシュリンガの丘のリシ達は憐みの心を持って眺めていた。

ユディシュティラと弟達は突然襲い掛かった災難に唖然としていた。
「ああ、私達は孤児になってしまった。運命とは恐ろしい。お父様なしに私達はこれからどうやって生きていけばよいのでしょう?」
悲しみの涙を流しながら父の周りに立つ彼らをリシ達は連れて行って慰めようとした。そして、夫と共に火葬の薪に上がることを考えているクンティーとマードリーに話しかけた。
「あなた達は彼らの母親です。悲しみに沈んでいる子供達を置いて死ぬことは適切ではありません。彼らを本当の孤児にしてはなりません。あなた達をハスティナープラへ連れて行きましょう。盲目の王はこの子供たちを好まないかもしれないが、いずれ世界の統治者となる彼らを守ることがあなた達母親の義務です」
その言葉はマードリーの心には届かなかった。
「私のせいで夫は死んでしまったのです。彼は私を求め、満足する前に亡くなってしまいました。彼を満足させるために私が行かなければならないのです。私は彼と共に死にます。
愛しいクンティー姉様、あなたは年長者で賢い人です。あなたなら子供達を守ることができます。私にはできません。あなたの優しさによって生まれた私の二人の子供は、まさにあなたの子供です。あなたこそが五人の母親に相応しい唯一の人です。あなたにはヴリシニ一族がついています。あなたが私の夢を叶えてください。
私は夫なしにはこの世界では生きられません。あなたは息子達の為に生きて、彼らが世界の統治者になるのを見届けてください。どうかお願いします。私の望みを叶えてください」
クンティーは同意した。リシ達もそれでよいと考えた。

マードリーは子供達を呼び、愛情と痛みに満ちた言葉をかけた。
「今からクンティーがあなた達全員の母親です。あなた達は五人のカウンテーヤ(クンティーの子)となるのです。私はただの子守でした。
ユディシュティラ、あなたは今から四人の弟達の父となりなさい。
ビーマ、アルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ。どんな理由があったとしても父を怒らせてはなりません。あなた達を彼に委ねます。
ユディシュティラ、あなたはこの地上の統治者となるのです。私は天界からあなた達を見守り、祝福します」
マードリーは全員に別れを告げ、最後にクンティーの足元にひれ伏した。
クンティーはマードリーを祝福した。
「マードリー、あなたが夫の後に続くことを許します。あなたは天界で彼と共にいてください。あなたの名は地上の人々によって、その愛情と涙と共に記憶されるでしょう。さようなら我が妹よ。安心して行きなさい」
クンティーの頬には涙が流れ落ちていた。
喜びの笑顔でマードリーは火葬の薪の上に登った。
長男ユディシュティラは目に涙を満たしながら神聖な火をつけた。

全ての儀式が終えられた。
シャタシュリンガの住人達が話し合い、クンティーと五人の息子達をハスティナープラへ連れて行って、彼らをビーシュマとドゥリタラーシュトラ王に預けることを決めた。パーンドゥがいない以上は、王子達に相応しい場所はそこしかなかった。

クンティーは涙で目を濡らしながら、パーンドゥやマードリーと共に何年も幸せに過ごしたシャタシュリンガの森に別れを告げた。

新しい章が始まろうとしていた。ハスティナープラで彼らを待ち受けている運命がいかなるものであるか、誰にも知る由はなかった。
リシ達はクンティーとパーンドゥの五人の息子達と共にあの美しい町へ出発した。
未知への旅が始まった。

(次へ)


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