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中国知財 判例解説 最高人民法院による知的財産案件年度報告(2020) No.29 公知常識的証拠の認定

今回は化学企業の争い、、、なのですが、判示内容は特に化学に限定されない「公知常識的証拠の認定」についての案例をご紹介します。2021年に最高人民法院から発表された「知的財産案件年度報告(2020)概要」のNo29 として、国家知識産権局vs常州南京大学高新技術研究院、江蘇靶表生物医薬品研究所有限公司却下復審(専利)二審を取り上げます。

本事件では、中国の医薬系企業と研究機関が共同出願した発明専利について、拒絶査定不服審判→審決取消訴訟→その上訴審が争われました。その中で問題となったのが、国家知識産権局が挙げた「腫瘍研究最前線」第8巻という証拠が、公知常識的証拠に該当するかどうか、です。

「公知常識的証拠」については、審査指南の中で「対応する技術辞書、技術マニュアル、教科書などその属する技術分野における公知常識的証拠」のように説明されており、教科書など、「公知常識的証拠」と認められれば、その一つの証拠によってある事実が「公知常識」であることを推定できますが、逆にいうと「公知常識的証拠」と認められなければ、公知文献を持ってきたとしても、その一つだけで公知常識を証明することができるとは限らない、ということです。

さて、最高人民法院は、二審の中で以下のような判断を示しました。

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つまり、公知常識的証拠に該当するかどうか、いくつか要件を検討しなければならない、としました。

続いて、最高人民法院は、本案の「腫瘍研究最前線」第8巻について、以下のように認定しています。

(1)媒体形式: ISBNの記載があり、「図書」である。 原審判決のような、定期刊行物雑誌ではない。
(2)内容及びその特徴: 該書の序文に該書の序文には、できるだけ平易な言葉で現在の世界中の腫瘍研究の最新展開を同業者及び関連する研究者に紹介し、モノグラフ(単行書)、概要、レビュー、一般科学書等の多くの文献の特徴を有し、包括性、先進性、議論にフォーカスすることを特色とすると記載されている。このことは、該書の主旨が世界の腫瘍研究の最新展開を紹介することであり、腫瘍研究分野の一般的な技術知識を解説するものではなく、通常意義上の教科書に該当しないことを表す。
(3)読者、伝播範囲: 著作権ページ「内容概要」には、「本書は関連専門研究員の参考用図書として、大学、病院の関係者の閲覧使用にも供され得る」と記載されており、該書が通常意義上の教科書ではなく、専門研究者の参考用図書であることが同様に表明されている。

結局、最高人民法院は当該証拠を「公知常識的証拠」とは認めませんでした。(なお、二審判決では、審判審理差戻しと判決されました)

判決書を読む限り、中国の法院は一つの証拠で公知常識を推定できる「公知常識的証拠」を厳格に解釈しようとしているように思われます。専利が公知常識的証拠により無効にし辛いようにして、専利の安定性に配慮したのかもしれません。

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