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秘密の花園~読書記録~118~

1911年、バーネット(イギリス生まれで16歳でアメリカに移住)作の作品。昔から多くの訳があるが私は大好きな谷口由美子先生の訳を読んだ。

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おおまかのあらすじはと言うと・・・

イギリス植民地時代のインド。官吏の一人娘メアリー・レノックス (Mary Lennox) は、仕事人間の父と遊び惚ける母に放任され、我儘で気難しく、孤独な少女に育ってしまう。そんなある日、悪性のコレラの流行により両親や使用人たちが急逝、父の同僚に発見されたメアリーは、イギリスのヨークシャーに住む、血の繋がらない(メアリーの父の姉の夫)伯父・クレイブンに引き取られる。
伯父の屋敷は荒涼としたムーアの外れにあった。伯父は一年の大半は家を空け、メアリーはここでも使用人以外には相手にされなかったが、庭でコマドリと遊ぶなどするうち、次第にムーアの自然に馴染んでいく。さらに彼女の世話役のマーサ (Martha) やその弟で牧童のディコン (Dickon) とも親しくなり、少々お転婆ながら明朗で行動力のある娘に変わっていく。
ある日、メアリーは屋敷の庭の中で、壁に囲まれた一角を見つける。そこは亡き伯母が生前大切にしていた庭園だったが、彼女の死後伯父の命令により閉じられていた。しかしメアリーはひょんなことから庭園の鍵と入り口を見つけ、早速侵入する。庭園は荒れ放題だったが、そこの植物が実は生きていることに気付いた彼女は花園を蘇らせようと決心、ディコンとともに行動を開始する。同じ頃、彼女はその存在を秘密にされていた自身の従弟(クレイブンの息子)・コリン (Colin) と出会う。彼は生来病弱でベッドからほとんど出たことのない、メアリー同様両親に愛された記憶のない少年だった。


中学生の頃に読んだ時には、なんのことはない楽しい児童文学だと思っていたのだが、21世紀の色々とうるさい時代に改めて読み返すと、これはさらっと書いているが、多くの問題提起ではないか?と思うのだった。

まず!
メアリーの母親は生まれてから娘の世話を全て乳母に任せた。殆ど、顔を合わせる事もない関係だったので、母が急死してもメアリーは、悲しいとも何とも思わないのだ。ネグレクトが続くと、感情がなくなってしまうのだろうか。
これは、小学生、中学生が読んだとしてもわかるものではないな、と思った。
インドからイギリスに移り、新しい家に来た時に、靴下も自分で履けない。服も自分で着られない。それが当たり前になっていた。それは、ネグレクトの結果なのだが、インドの召使いとイギリスの家政婦では立場が違うように読み取れる事も見受けられた。イギリス領だったインド人はイギリス人の雇い主に物を言えないが、イギリスの家政婦らは「自分で服を着る」ように指導していく。厳しいように見えても、これは本人の為だ。

庭師のベン、家政婦のマーサらにメアリーは「誰もあたしを好きになってくれない」「みんながあたしを嫌う」とつぶやく。
これは自己肯定感の低さからくるのだろう。

イギリスで新たに出会った人たちによって、メアリーは心身共に変わっていくのだった。

広い敷地に鍵の掛かった庭を見つけたメアリー。優しいコマドリがなくなったと思われた鍵を見つけてくれ、その中に入ったメアリー。
10年も誰も手入れをしなかった庭であった。懸命に、庭の手入れをし、家政婦マーサの弟ディコン(12歳)の助けも借り、素晴らしい庭にしていく喜び。

広い屋敷で度々夜中に泣き声を聴くメアリー。嵐の日に眠れず、とうとう泣き声のする部屋を訪ねると、そこにいたのは病弱な屋敷の主人の息子コリンであった。メアリーと同じ10歳だった。
コリンは生まれてすぐに母を事故で亡くし、以来、妻を想い出すのが辛い父親からは存在をないもののようにされていた。
医師は父の従弟であり、広い屋敷の相続権もある。コリンに対して使用人たちは、腫れものに触るような扱いであり、コリン自身は「いつか自分は背中にこぶが出来る」「早く死ぬ」「外の空気に触れたら病気になる」だの神経過敏状態だった。
看護婦は、「コリンの病気の原因はヒステリー」と言った。コリンがヒステリーを起こすと、それを治める為に医師は沢山の薬を処方する。薬漬けである。いやあ、怖い話だ。

もし、コリンが、自分がひそかに抱えている恐れを話す相手を持っていたら。思い切って誰かにそれを聞いてみたら。子供の遊び相手がいて、この広大なほとんど人気のない寂しい屋敷の一室で寝てばかりいて、なにもわかってやらず、ただコリンのことを世話の焼ける子供だと思って、うんざりしながら、コリンの癇癪を怖がっている使用人たちに囲まれ、息苦しい暮らしを強いられていなかったら。コリンは、自分の恐れや病気は全て自分が作りだしたものだとわかったでしょう。本書より。谷口由美子先生訳

コリンの例も、酷いネグレクトである。ずっと部屋に閉じ込め、運動もしないからお腹が空かない。ベッドに寝たまま、着替えも自分でしない為、筋肉がないから歩けない。そう、最初は車椅子で外に出たが、何か障害があったわけではなく、筋肉がなかっただけなのだ。
従姉妹のメアリーと、ディコンに出逢い、秘密の花園ですっかり元気になっていき、歩けるようになったコリン。
コリンは、自分の気持ちが身体の不調を起こしていたこと。そして、「自分は元気なんだ」「長生きできる」と言っていく。
それを「魔法の力」と呼んだ。

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舞台はイギリス・ヨークシャー地方。
度々、登場するヒースーという植物。検索してみたら、このような植物だった。

コリンの父親の勝手な思いで息子を無視していたこと。そんな問題もあるのだが、かつてのイギリス領時代のインドでの様子。そこには明らかな白豪主義も感じるのだ。
これは、作者自身は、21世紀にそんな風に読者から読まれるとは考えなかったであろう。

人は他者との関りの中で生きるのだ。それを深く感じる作品であった。


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