見出し画像

助産と鍼灸(7)

風の子堂鍼灸院 中谷 哲

『積聚会通信』No.8 1998年9月号 掲載

「SIDSってだれの責任」の巻
 
「SIDS」(Sudden Infant Death Syndrome)という病気がある。日本語では「乳幼児突然死症候群」という。この問題がまたクローズアップされてきた。きっかけは、つい最近の厚生省の発表にある。欧米では早くから‘SIDS’キャンペーンが行われ、今では、‘SIDS’を知らないのは、生まれてくる子供、本人だけである。といわれるほど徹底している。
 
さて、以前日本でもこの病気が話題になったことがある。ご記憶の方も多いと思う。横綱千代の富士の赤ちゃんがこの病気で亡くなったときのことだ。
 
ほんの少し目を離したときに、突然呼吸が停止して、死んでしまう。当然、世間は最も身近にいたはずの、母親を責める結果になる。
 
この病気で子供を失った母親は、警察でも、そして身内からも、まるで犯人扱いをされ苦しむことになる。
 
ここで、あらためて注意しなければならないことは、‘SIDS’は病気であり、不注意による窒息死ではないということである。
 
厚生省の発表では、‘SIDS’を誘発する可能性の高いものを3つ上げている。「うつぶせね」、「人工乳」、「喫煙」である。
 
以前から、私たち育児の会(よもぎの会)では、この事を取り上げて皆で考えてきた。‘SIDS’は脳内の呼吸中枢のほんのわずかな変化で起こると考えられている。 これでは、母親はどうにもならない。 目を離すな、ということも現実的に不可能である。そして、最も問題なのは、「窒息」と混同して考えている点である。警察にいろいろ言われるのもこの認識不足がある。「うつぶせね」、「人工乳」、「喫煙」は、あくまで誘引で、原因ではない、ということをしっかりと押さえておかなければならない。新聞掲載後も、この点を心配している医師の談話が載っていた。私の周囲だけの話であるが、案の定この3点が原因だと、勘違いしていた。
 
「人工乳」の問題については、母乳の出ない人は余りいないのだけれども、子供との関係で、どうしても母乳育児を断念しなければならないことがある。乳児の舌の位置や、吸引する力などの問題や、 母親の精神的なストレスが大きな原因となる。そんな母親たちは、母乳で育てていないために、自分を責めたり、また、周囲の心無い言葉に晒されたりする。
 
育児は親と子の関係で成り立っている。その親子にはその親子なりの関係がある。母乳で育てられなくても、いいんだよ。そんな風に考えようと、よもぎの会では活動してきた。
 
初めにいったが、この問題はかなり前から騒がれて、皆で、母親を責めることがないように運動を地道に続けてきた。ところがここへきて突然に(私たちにはそう見える)、厚生省の発表である。
 
今までしてきたことはなんだったの。そういう気分だ。
 
さて今回の騒動で、‘SIDS’の新たな一面が見えてきた。次回はそのことについて。