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触診について(1)

積聚会名誉会長 小林詔司

『積聚会通信』No.3 1997年11月号 掲載

積聚治療の最大の特徴は、手指や手掌で患者さんの皮膚に直接触れてその状況を確認しつつ、鍼を行ったり灸をしたりするところにある。

望診や聞診など他の診断も大切なことは当然ながら、しかし切診がなければ、少なくとも日本で行っている鍼灸は成り立たないといって過言ではないだろう。

切診とはつまり触診であるが、一言で言えば患体の虚と実を見分けることをいい、患者さんの皮膚の緊張度、弾力性、湿り具合、ざらつきなどの感触を、いろいろな部位やその人のこれまでの状況や他の患者さんとの比較からその状況の良し悪しを判断することである。

具体的には、穴を探り経絡に触れ、脈を診たり、腹診したり、項背診をすることを指す。

それは術を施す前のこともあり、鍼灸をしている最中のこともあり、また術後の状態をみるときのこともある。

簡単にいえば、治療が始まれば切診に始まり切診に終わるといっても言い過ぎではないほどである。

徐々に慣れてくると、切診で分かる内容は先に述べた他覚的なことのみならず患者さんの自覚的なことまでも見当がつくようになる。

例えばくすぐったさなどはもちろん、痛みがありそうだとか、痺れがありそうだとか、ときには痒いだろうなどと分かったりする。

くすぐったさは患者さんの動作から判断できるが、痛みは他の部位よりもなんとなく厚みがある感触である。痺れは逆に度膚に力がない印象を持ち、痒みではわずかながら熱感がある。

しかし例えば厚みがあるところがいつも痛むわけではないから、実際はなかなか手ごわい診断目標である。

切診は触診だから触覚が鋭敏で研ぎ澄まされていることが大切なことはもちろんであるが、どうもそれだけで切診に長けるのは難しいようだ。

患者さんがこの先生は治療が上手と感じるのは、治療結果がいいということの前に、その人が触れて欲しいと思うところに術者の手指が的確に迷い無く触れることにあるようだ。俗にいう痒いところに手が届く感触であろう。

ではどうしたらそのような技術が身に付くだろうか。

学生達と長年接してみて分かることは、状況を比較することを覚えようとしない者は腕が伸びない、ということである。

つまり診断に長けるには、身体の状況をどこまで微細に比較してその差を感知出来るかによるといえる。

技量を高めるのに必要な視点の一つは、この比較の仕方を追求することであり、そのためには自分の手指や掌の感覚の鋭敏な部位を知り、指の力の入れ具合(あるいは逆に抜き具合)を早く会得することである。