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助産と鍼灸(1)

風の子堂鍼灸院 中谷 哲

『積聚会通信』No.2 1997年9月号 掲載

産科領域の鍼灸というと、なにを思い浮かべるだろう。まず第一に思い当たるのが、逆子の治療だろう。穴は三陰交と至陰。実際妊婦さん達に使ってみて、とても良い印象を持った。どうもこの穴は、逆子に限らず、妊娠の経過を安定させる効果があるようだ。10ヶ月の妊娠期間中には精神的にも、肉体的にも不安定になる。こうした妊婦さん達に週一回足を運んでもらって。灸をすえることで胎児はもとより母体が安定する。

逆子の治療であるが、これは妊娠の週数がポイントになる。妊娠30週以前は、胎児が子宮の中で泳いでいる状態なので、くるくる回る。この期間の妊婦さんに治療をした場合は、実によく逆子が直る。足に灸をすえるだけでもいいのだが、積聚の基本治療をした後で、灸をすえたほうが効果が高いことは言うまでもない。妊婦さんの週数を聞いてから逆子の治療を引き受けるといいだろう。私の場合、非常に喜ばれて、他の医療関係者の信頼を得ることになった。

しかし、注意する点もある。逆子が直らないからと言って、無理に回そうとしないことだ。積がとれないからといって何時までも、しつこくしないのと同じことで、しつこく治療を続けていると、胎児は無理やり回ろうとしてしまう。無理やり回した例を挙げよう。

34才、初産。30週を越えても逆子が直らず、ちょっと強引に回してみた。腹診して胎児の頭を確認して、頭の位置を積に見立てて治療をして、三陰交に灸頭鍼をした。頭を積にすると。ちょっと胎児が移動する。これを繰り返すと回ってしまう。

さて、いざ出産の時、胎児の首に臍帯が2重巻きになっているのがわかった。たまたま臍帯が長かったために、無事に胎児が下りてきた。また助産婦さんの腕も良かったために、じょうずに取り上げてもらうことができた。これなどは非常に危険な例である。

もう一つ、最後まで逆子が直らなかった例がある。

26才、初産。どうしても回らないので、そのまま分娩にのぞんだ。出産後にわかったのだが、この胎児の場合、頭がとても大きかったので、頭からの出産だった場合は、分娩時間がかなり長くなるそうだ。それが足から出てきたので、かえって取り上げやすかったそうだ。

胎児と母体の関係は、他からではわからない密接なやり取りがあり、また胎児の個性もあって、一概に逆子だからといっても治療できない面がある。この二人の関係を邪魔しないほどの治療がのぞましい。鍼灸を取り入れている産科の医師3人に、個別に会う機会があった。それぞれが口を揃えたように、「鍼灸で回らない逆子はそのままにしておく。」と言っていた。

さて次回は、積聚治療と母乳ケアについて紹介しようと思う。