見出し画像

助産と鍼灸(4)

風の子堂鍼灸院 中谷 哲

『積聚会通信』No.5 1998年3月号 掲載

出産、子育てをしていく環境は日増しに悪くなっていくと言っていい。欧米諸国は、子孫に与える影響を考え、次々と対策をして結果を出している。先進国では日本のみ取り残された感じがある。今回はそんな報告である。
 
1月25日の朝日新聞の第1面に、家庭内化学物質汚染の記事がのった。以前から一部の人々の間で言われ続けていたものを、今回の記事ではそれを国立の機関がうらづける形になった。この問題に関しては、第一人者の建築家で東京理科大学講師の佐藤清さんの話では、かなり前から日本の役所に対して働き掛けていたのにもかかわらず、汚染が進んでどうにもならない状況になった今、ようやく日本も対策に臨むらしい。しかしながら、佐藤さんの話によると、ダイオキシン対策と同じでまったく意味のないものになりそうだ。
 
さて、今回の記事では私たちの想像をはるかに上回る汚染度になっている。現在年々増加の一途をたどる「化学物質過敏症」や「シックハウス症候群」などを引き起こす発ガン物質「ホルムアルデヒド」の室内汚染が、戸外の7、8倍にもなっていた。ホルムアルデヒドは建材や家具、壁紙などの接着剤塗料や化石燃料から発生する。様々な症状を引き起こし、高濃度では死にいたる危険もある。
 
こんな経験はないだろうか。新聞などの印刷物を見ていて、目がショボショボしたり、かすんだりする。時々目を開けているのがつらい。やたらにまぶしい。よく鼻がつまる。のどがいがらっぽくなる。部屋をしめきると息苦しい。目や鼻の奥、耳の奥がむずかゆい。電車やバスに乗ると気分が悪くなる。突然、イライラしてどうにもおさまらないことがある。こうした症状は化学物質過敏症の特徴的な症状だ。これらは皆、検査結果にでないために、精神科を紹介されることが多かった。今までは自分の精神的なものとあきらめていた症状が、こうした物質を取り除く生活をすることによって、改善されるのが分かっている。
 
また今回の配事で、WHOの室内汚染基準にも触れていたが、この基準は明らかに問題がある。短時間の吸引で、喉や鼻に刺激を感じる最低濃度とされているのは、30分間部屋にいるとして、1立方メートルあたり0.1ppm以下の濃度である。当然のことながら室内にいる時間が長ければ長いほど、汚染は高くなる。この30分で症状が出る濃度を、日本の部屋は超えている。しかも、主婦や子供は30分どころの話ではない。1日中家にいることもある。
 
ダイオキンンのときもそうであるが、ヨーロッパではすでに対策が進み、建物の対策は完了して、室内は安全であるという前提のもと、次は家具など、小物の対策に移っている。
 
病院にいって検査をしても何でもない、でもなんだか体がつらい。こうした人は鍼灸を受けにくる可能性が高い。実際、鍼灸院の患者の多くがそんな人だ。何時から悪くなったのか、詳しく聞いていくと、引っ越しの後からだったり、家を改築してからのことが多い。また新しい家具を買ったりとか、どこか打撲したり、何か変わったものを食べたとかいうのではないので、本人もそれが原因だとは思っていないことがある。あえてこちらから聞かないと、これらの情報は得られないと言っていい。聞き出してみるとつじつまが合うことが多いのだ。
 
子育ての環境、そんなテーマでしばらく考えてみたい。