助産と鍼灸(6)
風の子堂鍼灸院 中谷 哲
『積聚会通信』No.7 1998年7月号 掲載
北京中医薬大学の調査で、妊婦に鍼をすることにより、分娩時間を短縮することができるという報告があった。(『中医臨床』1996.6月号)
私自身の印象でもそんな感じがする。ちょっと曖昧な言い方だけれども、それには訳がある。
そもそも分娩は、母と子の共同作業だ。二人の息がピッタリ合って初めて出産に至る。おなかの子がその気になるまで、また妊婦自身のからだの準備が整うまで、ただひたすら、その時を待つのだ。
母子二人の時間は、あくまで二人の時間である。他と比較ができないものなので、分娩時間が、短くなったのか、それとも長いのか、判断の仕様がないのである。たくさんの分娩時間の平均を調べて比較することに、余り意味があるようには思えない。
ただ、分娩時間が長引いてしまうのは、妊婦にとって非常に辛いことなので、少しでも短くなるのなら、それに越したことはない。
そうしたことを含めても、鍼灸は助産の一つの行為として、評価してもいいと思う。
この分野の鍼灸は、三陰交の逆子の灸に代表されるような、対症療法的な使い方が主流である。それよりも妊娠初期から長期的に、全身的な治療をすることで、出産に至るまでの経過がより自然に推移していく。また、出産後の経過も比較的いいように思える。
週1度のベースで鍼灸治療を続けることで、体調を維持し、なおかつ定期的に体を見てもらっているという精神的な安心感もあり、分娩に関しても良い結果を期待できる。
近年、産科の領域での鍼灸は医療関係者、患者ともに人気が高くなりつつある。妊婦の目にするほとんどの本に三陰交の穴は出てくるし、自宅で灸をしている人も少なくない。若手の助産婦、妊婦ともに、鍼灸に対して抵抗感なく取り入れてくれる。
以前ラジオで、永六輔さんが、「灸は、おしおきのときに、すえないでください。あれは、医療ですから。」と言っていた。まったくそのとおりで、おしおきにすえたから、灸の嫌なイメージを引きずっている年配の方が多いのではないかと思う。
彼女たち妊婦にとって鍼灸は、まったく新しいものであり、その意味では、今、流行のアロマテラピーや整体などと一緒のようである。
鍼灸師は自分たちの鍼灸の方が知名度が高いと思っているかもしれないが、他の療法から比べると、知名度は全然低い。アロマテラピーや整体は、この分野で、かなり市民権を得ているといっていい。
鍼灸はようやく仲間入りし始めたという感じなのだ。しかも、残念なことに鍼灸師の存在なしで、と付け加えなければならない。幾つかの助産婦の集まりや、育児の会の集まりに参加しても、鍼灸の存在はあれども、鍼灸師の存在がほとんど無い。それに反して、整体師の存在や発言はかなり多い。ちなみに、この分野の整体では、野口整体が先駆的に取り組み、深く支持を得ている。
毎度の事ながら、どうも鍼灸師は内に籠り過ぎているようだ。