2021/1 パレード

パレードというタイトルづけも、レオの運命とその日を印象付ける、皮肉にも華々しいもので、すごく残酷だ。
観劇後に実際のレオ・フランク事件の概要を読んだが、現実は物語ではないけれど、物語よりも悲惨だと感じた。
内藤大希演じるフランキーも史実のうえでは真実よりも己の誰かを恨んで裁くことで楽になりたい、差別心に呑まれただけの人間じゃないかと思ってしまったけれど、それはきっと私が現代の、日本で、さほど差別というものを感じることがなく生きてきた人間だからそう言えるのだろうというのも冷静になればわかる。
戦争の歴史や、反ユダヤ主義、奴隷制度など、その歴史を平和な時代に学ぶことができた人間では、実際にその渦中にいた人物の思想思考は到底容認できないのだと思うし、それは正しいことなんだろうと感じる。
作品においてのフランキーは好きだった女の子との突然の別れと、犯人に対する激しい怒りを表現することで、ただ差別の心だけで真実が見えなくなってしまった訳ではない、単純ではないキャラクター構想になっていたと思うし、それによって実話に物語性が生まれたのだと思う。脚色することによる美であり付け足された悲劇性でもあるが、実際にあったとしてもおかしくないと思える悲劇でもある。

裁判のシーンで少女たちの証言を聞くフランキーの表情が、本当に汚らわしいものを見る目をしていて、顔を真っ赤にして怒っていて、間違っているものを憎むその気持ちが強くあらわれるほどに、ひとりのユダヤ人に罪をなすりつける冤罪というものに全員で加担している矛盾、その間違いを見失っている・または見ようとしていないことへの、埋められない何かが際立ち、やるせなさが募るのだろう。

レオの絞首刑が決まり、ひとりの無実の男の死をまるで勝利のパレードのように華やかに祝う。その中で立ち尽くす夫妻の姿。きらびやかで、光が満ちて、鮮やかな紙吹雪がとても綺麗で、華やかな音楽とともに、みんなが嬉しそうに踊り笑っている。これ以上ないほどに心のなかをぐちゃぐちゃにかきまぜられたみたいだった。あのパレードのなかには、世界中のどこよりも美しい狂気が満ちていたんだ。そう思わせられた。本当に綺麗だったんだ。そのことが悲しい。

序盤のシーンを楽しく演じることで自然と悲しくなっていく、というのはその通りで、フランク夫妻の終盤のシーンも、そういった面があったように感じた。移された刑務所でのピクニック、夫婦での久しぶりの食事、二人のそう遠くない未来での約束、どこかそううまくはいかないという予感もさせるのは、夫妻がメアリー・フランキーとは違う、成熟した大人であるからか。

しかしながら、わたしは努力していたことがまったくの無駄になるお話がすごく苦手なので、最後のシーンはすごく落ち込んでしまった。まあ実話に基づいているから…仕方がない。
その後の顛末を少し書き足して、真相(と言っていいのかわからないが)がわかるようにしておいてもよかったのではないかと思うが、ジムの刑務所でのシーンでそこは汲み取れという感じなのだろうか。え?これで終わりなの?という感は少しあった。
最後の踏み台を蹴り飛ばした彼が史実通りの青年たちのひとりなのか、フランキーなのかで「メアリー、きみのためだ」という台詞に込められたものが変わってくるのだと思うけど、フランキーだったとしたらもう本当に最悪だ。事件の真相が明るみに出るのはレオの死から70年後のことであり、その頃にフランキーが生きているかどうかは微妙なところだけれど、メアリーのためだと手をかけた男が無実だったと知った彼はどう思うだろうか。
今もレオが犯人だったと信じている人も多く居るとのことだし、この私刑は「少女のための復讐」というよりも差別心からくる「悪党の成敗」的な意味のほうが強いのだろうから、きっとレオの無実を知ってもそれを信じないのかもしれない。信じないほうが、きっと楽なのかもしれない。でも本当にフランキーであってほしくはない。あってほしくないけど、内藤大希が演じたあたりでお察ししろということか、どうなんだろう?と考えて苦しめよ、ということなのか…ひどいや…絶対いやだよそんなの…

なんにしても石丸さんの歌声がとにかく圧倒される。別次元という感じ。パーンと気持ちよく響くようでいて、伸びやかでもあり、表現の幅もものすごく広い。本物ってやつを魅せつけられたなという気持ちになった。心底生で聴けてよかった。
個人的にはサカケンさんの歌がとても良かった。銀牙などで最近のサカケンさんの歌も聞いているはずだけれど、今作のキャラクターや曲と合っていたのか、印象が全然違ってすっごく好きだった。ヒール的な魅力。ヒール的っていうか…だけど。彼のシーンが終わりソデにはけてからも聴こえるあの声がかっこよすぎた。ずるいな〜!
全員が主役級のキャストの中で、ひとりの若者というポジションもあろうが、大希くんが一番はじめの兵士の歌や、メアリーのお葬式のシーン、中盤・終盤の全員での歌唱でリードするパートを歌わせてもらえることのすごさ!ものすごくありがたい。喜ばしい。幸せだった…。

内容がしんどすぎたし、そもそも行こうとしてた公演がピンポイントで中止になっちゃって急いで取り直したチケットだったので、あまり回数を観れなかったのが残念。もっかいやるよと言われても、多分そんな回数は観れないだろうな…絶対行くけど…。
あの紙吹雪滑らないんだろうか、とヒヤヒヤしながら観ていたけれど、みんな器用に動き回るから平気なのかなあすごいなあと思っていたら、やっぱりメチャクチャ滑るらしい。そうだよね。

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