2022/9 The History Boys

久々にしっかりしたストレートが観たくて、チケット安いからというどうしようもない理由で2枚取ったのだけど、結果大満足。
正直一回目観たときに、作品全体のカロリーとか題材とか結末に至るまでの過程における腑に落ちなさとかで「これ、そんな何回も観るようなお話ではないな…」と思ったのだけど、二回目を観てるうちにそれら全てを自分の中で消化できたので、やっぱ複数回観た方がいいやつでした。結局相当つまらんとかでなければなんでもそうだな…という学びを得た。
上記理由に加え、観てる側の知識・教養・理解力・頭の回転の速さも求められるから人を選びそうな舞台だな〜という感想。
まあ歴史の知識は一応なくてもなんとなく楽しめるようにできてはいるけど、そういうそもそもの基礎がないと何言ってんの?ってなりそう。この舞台ほどちゃんと勉強してて良かったな〜と思ったこともない…というか、バカだけど文系だけできるタイプのバカで良かった。まあユダヤのこととかは他作品でも触れる機会が多かったから近年のうちにたくさん勉強したのもあるけど。そういう意味でも、扱うワードとその展開的にも、人を選びそう。手放しでめっちゃ面白いからみんな観て!って言えないタイプ。でもわたしはすごく好き。だから次があったらみんな観てください。久々に頭をフル回転させながら畳み掛けるような台詞回しについていきながらの観劇、楽しかったしなんだか気持ちよかった。

今回も言わずもがな染谷さん目当てなのだけど、最終的には生徒たちへの愛おしさが募り、全員大好きになれた。めちゃくちゃいいことだ。多分観れば観るほど深く好きになっただろうなあ。
だいたいこういう学校ものとかは大人組を好きになりがちだけど、今回は生徒たち、好きだ〜〜の気持ちが強い。そしてみんなお芝居が上手い。『みんなお芝居が上手い』ことのストレスの無さよ……演劇ってさあ…こうだよな……と少し…いやこれは他への愚痴になるのであれですけど……😭 ついそう思ってしまうくらいに全員まんべんなく良かった。
生徒たちはとにかく等身大の高校生…自然体で、時にちょっと嫌になるくらい生々しい、でも『お話』としての色彩もしっかりと乗った、そんな魅力があったなと感じた。それくらいの加減が結局一番好きだな。

ヘクター(藤崎卓也)
初っ端からこの人のこと書くのが一番難しいと思うのですけど。それらしい逃げを選ぶなら、リントット先生の言葉通りかなあと思う。好きだけど、許し難いクズだなあと。
一旦彼のクズな行為については置いておけば(重要)、先生としての考えや主張、生徒たちに与えたものは人として正しくて、かけがえのないもので、それは若いうちに持っておくべきものなんだというのはすごくわかる。良い先生で、きっとみんな忘れられないのだと思う。そこの評価は変わらない。教師としての彼の言葉には共感する部分が多くあるし、『人として』豊かで真っ当だ。そこは重々承知の上で、そこが一番大事なのは理解しています。
でもなー!!未成年淫行は何があってもダメです。これはわたしが女だから思うのかなあ。男の子が男性から受ける被害について理解が及んでない可能性もあるけど、わたしはもうその一点に対して不快感しかないからダメだ…。
何より未成年というのがダメ。「校長が秘書に行うセクハラと何が違うのか」というのも分からなくはないけど、違う点は未成年ということだよ。守られるべき子供が大人から被害を受けるというのが別問題。
(もちろんあの台詞は「あんたも同じようなことやってて罰する立場じゃないよね」という意味合いのが強いというのは理解していますが)
子供のうちに受けたそういう傷や汚れと感じる何かは、その後どうなるかわからないんだよ。彼らは今笑っていられて、それでも先生のことを許して受け入れられたし、きっといつか忘れるかもしれないし、未来でも仲間と笑い飛ばせるのかもしれない。でもそうならない未来だって絶対あり得る。誰もそれを否定できない、だって子供なんだもの。如何様にも変化して成長していって、それが未知数だからこそその傷が開くのか残るのか消えるのか、誰にもわからない。
超個人的な話をすると、わたしは許せなかったんだよな。自分が中学生の頃に受けた、当人にとってみれば一種の愛情表現だったのかもしれない、ちょっと魔が差しただけの軽い気持ちだったのかもしれない、わたしはこんな言葉大嫌いだけれど、ほんのちょっとした『性的ないたずら』なんてものを、今でも忘れることも許すこともできない。そういう人間だから、余計にヘクターのことをドクズの最低野郎だと思ってしまって話の軸が(わたし側で)ぶれてしまうのかもしれない…。
でもヘクターがやったことってそういうことだからなー。事実がどうしても変わらん。その事実の性質も変わらん。立場や状況で変わるべきことじゃない。どう表現しても本質は『性的暴行』だから何を理由にしてもダメだし、そういうことをする人という見方をされるほどのことだと、むしろそういう見方をされるべきだとわたしは思う。
わたしにそれをしてきた人はヘクターと同じでもう死んだけど、死ぬって卑怯だよな。過去のものになる、古くなる、終わりを迎えるって、綺麗になるもんな。アーウィン先生の言葉の通りで、浄化されて神聖なものにすらなり得る。わたしの中でもそういうものを確かに感じつつも、それでもそんなものクソ喰らえだと思ってるよ。
色々言ったけどキャラクターとしては好きなほうです。彼の教えも愛嬌も情熱も弱さも好きだ。話しててダルそうだから知り合いたくはないけど。
そういう複雑で危うい役どころを、ちゃんとノイズなくこっちに頭を抱えさせてくれる演技力、スゲ〜〜な…とシンプルに感動した。良きストレートプレイに居てくれるととても安心する安定感。

アーウィン(染谷洸太)
手紙に引き続きの神経質そうないけすかない眼鏡だーー!!ありがとうございます、似合ってます。おかしいな、眼鏡好きとかではないんだけどな…。
やり方としては極端だけど、わかるな〜!という部分が多くて、どちらかと言うと考え方はアーウィン先生に近いなーと思った。試験制度に納得はしていないが、試験というのは生徒たちにとって現実なんです、は本当にぐうの音も出ない正論パンチ。理想はあったっていい、本当に大切なことを見失わないことは大事、でも試験を通過した未来の方が人として可能性は広がっていく社会であることは現状逃れようがない現実なのだから、生徒のためを思うなら今はなんだって武器にしろというのはメチャクチャ正しいと思う。絶対そうするべきだ。その上で、ヘクター先生のような教えもあったら最高じゃん。
マジレス正論ペラペラマンだしかなり性格悪くはあるけど、そういう第一印象よりもやっぱり思慮深くて弱い人だ。弱いというのか、脆いというのか。そこが魅力のように思う。もう子供ではないし、でも大人ってほどでもない、絶妙なバランス感覚の表現がピタッとはまる瞬間が見ていて気持ちよかった。主となる物語を越えたのちの、それからのアーウィンはしたたかさも備わっていて、それも良かった。
やっぱり声が好きだな〜! 役と、その役の言葉に説得力が出ていて、役にハマってるって感じ。染谷さんの歌はもちろん大好きだけど、実は話してる声の方がもっと好き。
でもアーウィン先生は喋ってないところの演技が妙に好きだったな。楽日は端っこに座ってたので、舞台の外周を歩いてるときの表情の変化とかが見れて楽しかった。ポズナーに「回答が家に送られたりしないですよね?」と言われたときの笑った顔がお気に入り。デイキンに言いくるめられてからのアーウィン先生めちゃかわいい。とても短かったが。

リントット(春風ひとみ)
リントット先生、好きにならん奴おる〜!?!? 大好きです。
綺麗で品があって聡明で愛のある人で、うまくやれる人だけど、うまくやれることに対して疑問も怒りも持てる人で、素敵な戦う女性だった。こうありたい…と思う部分が多々ある。
女性が本来当然であるべき主張をすると、男たちが居心地悪そうに黙り込むところ、吐き気がするほどリアルで良かったな〜。社会ってほんとゴミですわ。叫ばれるの苦手だけど、生徒とは言え歴史を学ぼうって人からあんな言葉たちが飛び出てくればそりゃわたしだってキレる。
言いたいことを言いたいときに言ってくれるから、特にストレスフリーなキャラクターだったな。お話にはこういう人が必要なんですよ…。
前述した通り、ヘクター先生への評価も決して間違えないけれど確かに持っている情も捨てないところが、人間愛だなあ…と感じる、リントット先生の好きなところだ。
時々語彙がかわいいところが好き。ヘクター先生と自分の過ごした学び舎について語り合ってるシーンが大好き。喋り方や立ち振る舞いが綺麗で背筋が伸びる思いだった。

校長(鈴木良一)
清々しいほど嫌な奴だし、しっかり気持ち悪いからすごい。
でも言ってることのところどころはわかるなあという部分もあって、この話って一貫して誰かが間違ってるとか正しいとかじゃないんだろうなということを一番感じられるのが校長先生だった(リントット先生はずっと正しかったけど)
嫌な大人になってしまったなあと思うけど、結果を追い求めることだって学校という組織においては全然間違ってはいないんだよなーと思う。やり方というか、そのやり方への姿勢についてはオメー引っ叩くぞと思ったけれど。
まあ校長自身が何かと隙や粗がある人だったおかげで生徒たちが好きだったヘクター先生はそのままのヘクター先生でいられたわけで、結果論として良かったのかな。
アーウィン先生が話しているところを嘲笑で遮るところ、マジのガチでイラッとさせるの本当にすごいなと思った。わたしは世界が驚くほどの短気なのでアーウィン先生よく手出んかったなと思う。

ポズナー(犬飼直紀)
めっちゃくちゃ良くてびっくりした! お芝居も上手だし、何より声が綺麗で魅力的だった。透明感のある歌声が素敵。
キャラクターとしては、複雑なようでいて一貫してる…けど、考えることはめちゃめちゃ多い、みたいな感じ。大変そう。儚げで大人しそうだけど、しっかりと芯の強い子だなと思う。
ちゃんと自分を俯瞰して見ることができたのがえらいな。ラストというか、それからのポズナーくんも含めて好きだ。彼のたどり着いた場所から見える景色を想像したものが、この作品の後味になったなと感じた。

スクリプス(中村翼)
多分作品の中で一番好きです。ストーリーテラー的な立ち位置でもあり心情を描写されることが多く、あのモノローグはそのとき彼が思ったことであったり、このお話を振り返っている彼の言葉であったりもしたおかげで、生徒たちの中で一番達観しているようなイメージが持たれる。どこか子供の感覚と大人の分析が混ざり合っていて、その微妙さがなんとも言えず好きな味わいだった。
それでもやっぱり学生としてのスクリプスを見ていても、その頃から一歩引いて周りが良く見えている。彼はデイキンと仲良しに見えるけど、そこからのポズナーへの視線や接し方を注視すると面白かった。ポズナーが差別的な発言を受けるのシーンもこっそりと守るような支えるような仕草をしていたり、思い悩む様子を静かに見守っているところなど。
その点に共通する部分として、ホロコーストについての議論中、生徒たちが自然に動いているようでいて、立ち位置で心情が可視化する演出が良かったな。ディベートする上でのルール的なものもあるのだろうけど、それをわかりやすくすることも含めて、流れるようなそれが気持ち良くて好き。そして真っ当な感覚を持ってすれば当事者とも呼ぶべきポズナーの後ろにスクリプスは立っていたのが、なんかそれが良かった。言葉にしにくい。
飛び抜けて優秀だったというような描写もなかったけど、ちゃっかりエリートコースに乗ってるところが良い。アーウィン側にもヘクター側にも、デイキン側にもポズナー側にもつかず、またそのいずれにもついていたり寄り添っていたりして、バランスが良いんだか悪いんだかわからないが、とにかく『うまくやってる』のは間違いなくて、生きるのが上手い子だなと思う。でもそういう自分に思うところはありそう。そういう奴が好きなんだよな〜〜!
今作は染谷さん以外全員初見だけど、本当にみんな良くて驚いたけど、中村翼くんは特に良かった〜。演技も良いし、歌も歌い出しから「この子歌上手いんだろうな」がすぐにわかるレベルの感じ。もっと聞いてみたいのでミュージカルでも見たいな。

デイキン(高尾悠次)
頭が良くてモテて、無敵のクソガキ様って感じ。ここまで振り切れてるといっそ清々しいなあ。
セックス覚えたてのイキリ若者みたいで見てて多少恥ずかしかったのだけど、アーウィン先生の方を向き始めてからめちゃくちゃ良くなっていった。秘書ちゃんと内通しながら優位を取っていく様も気持ちいい。ちゃんと子供っぽいかわいいところもしっかりあるのがずるいキャラクターだ〜。
アーウィン先生のことは『好きな人』というよりかは『攻略対象』みたいな目線なのかなと思ってたんだけど、車椅子が見られなくなったというのを聞いて、あ〜〜……ってなっちゃった。あの手帳なんかに書くなよっていうのも好きな台詞!

ラッジ(河野賢治)
こういうキャラが居ないとな~~!という感じでめっちゃ好き。彼の持つストーリーも彼が話す言葉も、明瞭でわかりやすくて、爽快で気持ちいい。間違いなく幸せになってほしい男ぶっちぎりのナンバーワン。

ちなみに劇場は「TACCS1179」下落合。どこすかここ?って思ってたら色んなフォロワーからどこすかここ?って言われたからみんなそう思ってたんだな。素敵な外観と、中は普通に想像しやすい小劇場。椅子が一列繋がってるから他の客に動かれるとクソ揺れる、硬さは普通。駅近く、駅前のメロンパンが美味かったです(どうでもいい情報)
初日ず~~っと後ろで荷物ガサガサガサガサされるし携帯のバイブ鳴ってるしで悲しくて泣きそうだったんだけど楽日は静かに観れて良かった…。


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