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五月大歌舞伎

 5月24日。歌舞伎座の第三部を鑑賞。
 席は三階A席の中央あたり。
 緊急擬態宣言下だけど再開してよかった。毎月芸の熟度や筋書きの写真、舞台写真の関係で月末近くにチケットを取るようにしているのだけれど、今月は11日までコロナで公演が中止となっていたので、筋書きは写真なしの販売、舞台写真は今日の時点では販売していないとのこと。残念だけど仕方ない。

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 まずは『八陣守護城』。
 吉右衛門さんが先月に引き続き体調不良で休まれているため、代役の歌六さんが佐藤正清(加藤清正)を務められる。義太夫は葵太夫。
 そういえば一月の『七段目』も吉右衛門さん休演で梅玉さんの由良之助だった。なかなか見られない吉右衛門さん。一時も早く回復してほしい。
 さて、代役の歌六さんの正清は期待以上の出来栄えだった。動きの少ない役だが、目力が鋭くて流石は老け役や敵役を得意とされているだけあり歴戦の武将の貫禄があった。
 雛衣は雀右衛門さん。この方の姫姿の可憐さはハッとするほどで言うまでもないのだけれど、琴はいまいちといった印象。演奏の良し悪しはわからないけれど、弾くことに必死な様子。それはそれで若い姫の感じが出ていいけど、玉三郎さんの『阿古屋』のような余裕のある演奏も見たかった。
 この演目を観るのは令和二年二月の歌舞伎座以来。十三世仁左衛門追悼で我當さんが正清を演じられていた。老いで体が動かない我當さんの正清は動きに制限があったけど、そういう意味では毒を飲んで瀕死の正清は今の吉右衛門さんでも観たかったと不謹慎ながらも返す返す思う。再演を願うばかり。
 最後に間者を切り捨てた正清の刀の血を雛衣が拭う場面。今回雀右衛門さんは振袖で刀の血を拭っていた。『馬盥』や『伊勢音頭』では懐紙を使って血を拭く。姫が振袖を使って血を拭うのは戦の悲壮感が増す一方で違和感がある。

 20分の休憩を挟んで本日の眼目、菊之助さんの『春興鏡獅子』。
 『鏡獅子』を生で見るのは実は初めて。だけど、十八世勘三郎さんや玉三郎さんの映像で繰り返し観ていたので満を持しての鑑賞。
緞帳が上がるとまず豪華な顔ぶれ。彦三郎さんの用人、楽善さんの家老、萬次郎さんの老女、米吉さんの局。楽善さんの手を取る彦三郎さんのやり取りが微笑ましい。
 奥の襖が開くと長唄連中の雛壇。三階席からは後列の長唄・三味線のお顔が見られないのが残念。
 まずは小姓弥生の踊り。『鏡獅子』は後半の毛振りだけ注目されがちだけど、実際に見てみるとこの弥生の踊りがどれだけ大変なことをしているのか伝わってくる。扇をクルクルと回しながら踊る菊之助さんはとても楽しそう。扇を使った舞踊は派手ではあるけれど、生で見ると失敗しないかハラハラしてしまう。しかし、菊之助さんの弥生はその不安よりも美麗であることが勝っていて、観ているこちらもハラハラを忘れて見とれてしまう。最後に獅子頭に魂が宿るところはさすがの演技力。菊之助さんが手に持っただけで 獅子の目に生が宿ったよう。
 弥生が引っ込むと、雛壇が割れて奥から丑之助・亀三郎の可愛らしい胡蝶の精が出てくる。この二人の踊りを舞台袖から見守る楽善さんと彦三郎さんを想像するとより面白い。
 胡蝶の精が一度引っ込むと、大薩摩節で舞台の盛り上がりが一際増し、(顔が見られない!)その後しばしの静寂。雫を表す鼓と太鼓の音以外は何も聞こえなくなって、観客が一体になって菊之助さんが出てくることを待っている。この瞬間が結構好き。
 いよいよ出てきた菊之助さんの獅子の精は清廉で神聖な雰囲気が漂うものだった。「綺麗」とも「パワフル」とも違う印象。所作舞台を鳴らす音が今でも耳に残るよう。
 装いを改めた胡蝶の精二人と戯れた後、最後にクライマックスの毛振り。実は、映像で観た中では玉三郎さんは小姓では優れているものの毛振りは勘三郎さんがピカイチ。勘三郎さんの獅子は毛先まで自由に操って踊っているかのような躍動感があって、これは玉三郎さんにはないものだった。(あくまで私見)
 菊之助さんの獅子は勘三郎さんには届かないものの、玉三郎さん以上だなと実感。おそらく立ち役もこなすため筋肉量や体幹がしっかりしているんだと思う。
 

 初めて見た『鏡獅子』が菊之助さんでよかったと満足して帰った。
 来月は『桜姫東文章 下の巻』の席を予約している。今から楽しみ。



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