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歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」第二部

 5月25日(水)、晴れ。今日は給料日。
 外は徐々に夏を感じさせる暑さを見せ始めている。歌舞伎座に「團菊祭五月大歌舞伎」の第二部を観に行った。

 五月恒例の團菊祭が行われるのは実に三年ぶり。こうした恒例興行が帰ってくると、次第にコロナ以前の歌舞伎座が戻りつつあるようで嬉しい。
 今年の團菊祭は特に第二部に海老蔵さんの『暫』、音羽屋と萬屋三代の『土蜘』と團菊祭らしい演目が並び、さらに第三部では尾上右近さんらの若手のフレッシュな『白浪五人男』が評判を呼んでまさにお祭り騒ぎだった。
 本当は第三部も観に行きたかったが、二部でいい席を取ってしまったため三部はお預け。その分、花道に近い席で迫力のある舞台を見ることができた。
 

 まずは『暫』の感想から。

 海老蔵さん久しぶりの歌舞伎座出演。
 私が最後に海老蔵さんを観たのは令和元年の七月。ここ数カ月、SNSでの発言や身内の揉め事など何かと話題に上がる海老蔵さんだが、市川宗家の『暫』が歌舞伎座で見られるのはやはり嬉しい。
 主な配役は以下の通り。
  
 鎌倉権五郎:市川海老蔵
 清原武衡 :市川左團次
 震斎   :中村又五郎
 照葉   :片岡孝太郎
 加茂次郎 :中村錦之助
 桂の前  :中村児太郎
 成田五郎 :市川男女蔵

 今回の清原武衡は左團次さん。現状、こうした公家悪でこの人の右に出る人はいないだろう。能面のような静かな藍隈が不気味さを漂わせる。
 前半で特によかったと感じたのは東金太郎の右團次さん、そして成田五郎の男女蔵さん。右團次さんはさすがの存在感。赤面の中でも抜き出ている。男女蔵さんについてはお父さんの左團次さんに比べて迫力に欠けるという印象が強かったが、今回の成田五郎は非常によかった。この幕で一番声が出ていたのはこの人だろう。
 そしていよいよ「しばらく」の声が掛かり、海老蔵さんの登場。まずは身長の大きさに驚かされる。もちろん長袴の下には下駄か何かを履いているのだろうが、見上げるような身長は茶後見の友右衛門さんと並ぶと驚くほど大きく見える。視線の低い一階席を取ってよかった。そして、形の美しさ。海老蔵さんは市川宗家としての期待も相まって、芸に対して辛口なファンが多い。私も一部共感するところがあるが、それでもやはり華のある芸風は誰もが認める所だと思う。特に横顔の美しさ。ここまで理想的に筋隈が映える顔立はなかなかないだろう。
 花道でもやり取りでは正直その登場の派手さに比べて声量などが小ぶりな印象を受けた。が、舞台正面に上がるとエンジンがかかったように迫力が増した。(単に席位置の関係か?)最後はツケ打ちをたっぷりと使った六法で退場。満足感ある舞台だった。
 他には又五郎さんの震斎と孝太郎さんの照葉。又五郎さんはさすがの芸達者。ただ、ここ最近少しお痩せになられたのか、白塗りでも隠せないほど頬がこけていて心配。孝太郎さんはスパイ役さながら、場に溶け込むのが上手い。

 幕間の後に『土蜘』。

 今回はこちらが目当て。主な配役は以下。

 土蜘の精 :尾上菊之助
 源頼光  :尾上菊五郎
 平井保昌 :中村又五郎
 胡蝶   :中村時蔵
 巫子榊  :中村梅枝
 番卒太郎 :河原崎権十郎
 番卒次郎 :中村錦之助
 番卒藤内 :中村萬太郎
 太刀持音若:中村丑之助
 小姓四郎吾:小川大晴

 とにかく、素晴らしいの一言に尽きる。菊之助さんが素晴らしい。素晴らし過ぎる。何がすごいか。頑張って文章化していく。
 まず、最初の登場。薄暗い花道を音もなく現れ、「いかに頼光…」と怪しく低い声。私はこの人の女形がすごく好きなのだが、こんなに低い声も出せるのかと驚かされた。そして持ち前の美しい顔立ちのため僧侶の気品も漂う所は狙っているのか偶然か、アンバランスな不気味さが面白い。去年の『馬盥』などでも感じたが、この人は案外‘‘隠,,の気質を秘めているのだと思う。
 祈祷の舞は徐々に力を増し、観客にそれとなくわかるように蜘蛛の正体を現していく。
 隈取を変えてからの後シテがまた面白い。普段そこまで見得を切る役を演じないせいか、真っ赤な舌を見せながら目を極限まで見開いた見得が非常に恐ろしく、新鮮。派手過ぎない分、能取物のこうした芝居はこのようにやるのが正解と思える演技だった。思わず放心してしまった。
 その他、特筆すべきは丑之助くん。胡蝶を迎えてのやり取りで、胡蝶との間に扉を見せたのは素晴らしかった。
 『暫』に続いて出演の又五郎さん、前の道化役からがらりと変わって頼れる忠臣といった役も上手い。

 来月は第三部を観に行きたい。仁左衛門さんの体調不良のため演目は『切られ与三』から『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に変更になった。仕事の予定がつかずチケットが未だ取れていない。
 そして7月は菊之助さんのナウシカ。
 今後も月一回は歌舞伎を観る生活を続けていきたい。


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