本当のここ一番とは



「プルルルル プルルルル…ガチャッ」


仕事がもうそろそろ終わるかという夜21時、一本の電話が鳴った。
 電話の相手は弊社と長年お付き合いをさせていただいているD社の当時京都営業所所長であったH本部長からの電話だった。
 

「すぐに部品が欲しい。京都に来てくれへんか」


 弊社の代表取締役社長 石川(以下社長)とH本部長はその間柄から1年に1度はどんな無理でも聞きますという条約を結んでいた。
 

「H本部長の頼みなら」


 社長はその電話に即答で答え、京都まで車を走らせた。
 京都のお客様の所に着き事情を聞く。機械の組み立て途中に部品が合わないことが発覚。
 しかし、その部品は現物と合わせなければならないもので、簡単に図面を送って作ってくれというものではなかった。
 
「わかりました」


 社長はそう言うと現物を持ち大阪に帰り、研磨をし京都までもう一度持っていった。持って行った時点で時間はもう12時を回っていた。
 その結果、事なきを得て組み立てを再開することができた。

 この出来事を振り返り、弊社社長はこう語る



「H本部長が夜21時の時点で頼んできたのはもちろん長年の付き合いもあるかもしれないけど、無理にいつでも答えてきたってことが大きいんじゃないかな。


 21時の時点で探すって大変やから。断られたら次探すの大変やん。だから一番頼りになる人に声をかけるっていうのが人間としての行動なんちゃうかな。頼りにならん順に声をかけることはないやろうし。


 そういう意味では多分頼りにされてたんちゃうかな。


 H本部長とは20年ぐらいの付き合いになるが、1年に1度の無理を聞くという条約を実際に使ったのは3回ぐらいしかない。1年に1回あるからと言ってそれを絶対に使うとかはしない。そういう人間性が素晴らしい。だからこそ本当に困っているときは助けるし、逆に私が困ったときは100%助けてくれるでしょう。


 本当のここ一番とは、常識の範囲内であったらどんな無理でも聞くということ。
常識の範囲内というのは旋盤を1秒でやれとか、協力工場が絡むものを次の日にもってこいとかそういうのは常識ではない。H本部長との人間関係ぐらいになってくると頼むほうも常識の範囲内なのかを判断してきたうえで頼んできてくれるようになる。お互いが常識の範囲内やったらなんでも聞きますと理解できあえる。


 ただし理解しあえるようになるためには普段から無理を聞き続けなければならないし、それに対応していかなければ大事な時に頼んでもらえない。そういう人間関係を築いていくことが一番重要なんじゃないかな」


ここ一番の仕事とは、信頼関係や人間関係を築けているからこそ頼まれるのであって、全員が頼んでもらえるわけではない。頼んでもらえるような信頼関係・人間関係を築くためには普段から厳しいと思う要求も受け続け対応していくことがここ一番の仕事をもらえるスタートラインに立てるのではないかと感じた。


 弊社社長のここ一番に対する思いが一人でも多くの方に届くことを祈るばかりだ。

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