見出し画像

SHADOWTIMES 2012/12/20 Vol.6

《Days and Lights》Post.3
「attraction」 勝又公仁彦

子供の頃家にはミッキーマウスの縫いぐるみがゴロゴロしていた。ディズニーが好きなわけではない。鹿とダルメシアンは好きだったけれど、動物のデザインとしてのそれが先でディズニーのバンビや101匹わんちゃんから発しての嗜好ではなかった。

“Japanoscape” 「2005年8月6日 広島県廿日市市」
「厳島(安芸の宮島)の神鹿。厳島は弥山を中心とした古代からの信仰対象の地であった。 」

小学校高学年の一時期にはミッキーマウスのTシャツを好んで着ていたが、それはボディがグレーで袖がブラックという地味なツートンカラーが気に入っていたためだ。ミッキーはいても邪魔にはならない、というかそこまで彼に対して強い感情を持たなかったので気にはならなかった。

親もディズニーに興味はないし、妹たちも関心がないようだった。ではなぜ、縫いぐるみがあったのかというと、伯父がミッキーマウスの縫いぐるみの製造のために生地を卸していたため、わが家に来るたびごとに持って来てくれていたのである。
しまい込んだり捨てるわけにもいかないからだろう。愛されも憎まれもされないまま、ミッキーたちは鎮座するのにちょうどいいという理由(たぶん)で、アップライトピアノの絨毯めいたカバーの上に安置されることとなった。

その後もディズニーとは「飛行機のフライト中に観る映画」という程度のつきあいを保っていたが、ついに先日、ディズニーランドに初潜入、という機会に恵まれた。お酒が飲めるから、という理由でディズニーシーにしたけれど。

そもそも私はディズニーランドはもとより全ての遊園地やレジャー施設には興味がもてない。が、別に嫌っているわけではない。ただ進んで行かないだけのことだ。最近になって地元にあったテーマパークにフリーで入れる権利を有していたことが発覚して、それは残念だったと思ったので、入園すること自体に抵抗は感じていないようだ。

しかし、進んで行かない理由を敢えて探るとそれは一つには「巻き込まれまい」という意識があるように思う。警戒心が強いというか、へそ曲がりというか、世の中の多くが良しとしていること、人々が愉しんでいることの価値を疑い、なるべく巻き込まれないように注意して遠ざけ(今ではほぼ毎日お酒飲んでますが…)、機会があれば観察する、というスタンスだ。ハリウッド映画を含め多くの「娯楽」に対しては同様の関係を保っている。

その中でもディズニーのように人を甘い夢幻空間に浸らせて現実を忘れさせようとしているかのようにみえるものには極度の警戒心がある。つい身構えて「騙されないぞ」と思ってしまう。特にこちらが能動的主体的にコントロールできないものに対しては嫌悪感や警戒心が強い。
別に他人を疑って生きているわけではない。むしろ完全に頭の悪いほどのお人好しで、人を信じきり、裏切られることも多い。最近は腹を立てることも覚えたけれど、だいぶ時間が経って、はたと気づいてからだ。それはともかく、従って極端かもしれないけれど電車などの交通機関に乗るのも、運命を人に任せるようだという点とルートがあらかじめ決まっているという理由で実は大嫌いである。乗りますけどね。

社会学者の長谷川一は『アトラクションの日常 踊る機械と身体』(2009年、河出書房新社)において、テーマパークにある遊戯施設としてのアトラクションはもちろんのこと、我々の日常生活はいまや無数の<アトラクション>に取込まれていると指摘している。
http://p.tl/Q7Ke

長谷川に言わせれば、先ほどの電車のような乗り物の車窓のパノラミックに連続する光景を楽しむことや、乗り物に乗り込むこと自体、乗ってから揺られること、そのまま身をまかせ路線の通りに流されること、駅に着いたら今度は人の流れを乱さぬように群衆と一体化して動くこと、さらには買い物やセルフサービスなど生活のあらゆるところに<アトラクション>は潜在しているという。

“cities on the move”「RGWST-TDSST 20121103 IMG_1292」
「リゾートゲートウェイ・ステーションから東京ディズニーシー・ステーションの間。観覧車や自動車といった乗り物を動く電車から。」

ここから先は

3,436字 / 6画像

¥ 200

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?