モブキャラが世界を救う⁉ 映画「フリー・ガイ」の感想
「好きになった人は、実は人間が作ったAIでした。」
近い未来、こんなセリフが現実になるのでしょうか。
人間の技術の進歩は目覚ましく、人工知能が私たちの生活に欠かせない存在になる、そんな未来がすぐそこまで来ているのかもしれません。
AIが感情を持ったら、なんて作品が近年増えてきています。
今回はそういった作品の一つで、現在動画配信サービス「ディズニー+」で配信中の、「フリー・ガイ」の感想を書きます。
あらすじ
主人公、ガイはゲームのモブキャラ。彼はNPC(Non Player Character)なので、ゲームのプログラムによって決められた役割があり、同じ毎日を繰り返すだけでした。
そんなある日、とあることをきっかけに、彼は決められた通りに同じ日常を過ごすことに疑問を抱きます。自我に目覚めた彼は自由を知り、自分の心の声を頼りに生きていこうとするのです。
そんな彼の行動は、もちろんゲームにとって想定外のことです。ゲームの中と外、両方の世界を巻き込んで、ガイの主人公としての人生が始まります。
感想
※ここからは、ネタバレを含む感想になりますのでご注意ください。
映画界の新しいジャンル
AIや仮想世界などは、少しずつ現実味を帯びてきている今だからこそ描かれる、新しい物語のジャンルだと思います。この映画は、そういった設定がとても面白い作品だと感じました。
まずは主人公がAIであるという点。自分は人間が作ったプログラムによって生きているから、人間とは違う。では、この感情はニセモノなのだろうか。人間が作ったシナリオ通りに生きるのが、「正しい」ことなのだろうか。
こういった葛藤は、AIを題材にした作品のメインテーマになることが多く、これといった正解を出すのが難しい問いなので、とても面白いと思います。
次に、主人公の立場がモブキャラであるという点。ここでいうモブキャラは、二つの意味があると感じました。一つはゲームの設定で、背景としての役割を果たしているということ。もう一つは人間社会において、AIは人間(主人公)が作り出す単なる道具であるということです。
人間が自分たちの生活を豊かにするために作るAIは、意思も自由もなく、人間社会においては利用されるだけのモブキャラなのだと思います。
そういった状況でガイは自我を持ち、自由を知り、そして自分が主人公になることを望むのです。
最後に、現実と仮想の二つの世界が、互いに影響しあって物語が進むという点です。この映画では現実の世界とゲームの世界、両方を使って、ゲームの技術が盗まれた証拠を見つける、というのが大きな目的の一つでした。
仮想世界に住むAIと現実世界の人間が協力する、というのは、今までにない新しい設定でとても面白いと思いました。
この映画を見て、私にとって「仮想世界」のイメージが大きく変わりました。主人公の相棒的存在であるNPC警官のセリフで、
Even if I'm not real, this moment is. (たとえ俺がリアルじゃなくても、この瞬間はリアルだ)
というものがありました。
人間によって作られた世界で作られた存在として生きているとわかり、自分自身がニセモノであると感じてしまったガイにかけられた言葉です。
映画「竜とそばかすの姫」を見た時にも感じましたが、たとえ仮想の世界だとしても、複数の人が観測するその世界での事象は、紛れもない現実です。
それがたとえAIのことだとしても、その場でその瞬間起こっていることは、リアルなのだと気づかされました。
仮想世界ができれば、その世界の数だけリアルが生まれ、常識や正解が一つではなくなるのだと思います。
映像がすごい!
この映画の魅力の一つは、その映像技術の高さだと思います。ゲームの世界に人間が入り込んでいる映画なので表現が難しいと思いますが、何もないところから武器が出てきたり、回復アイテムが宙を浮いていたりと、ゲームの世界に入り込んだような体験のできる、レベルの高い映像でした。
またアクションシーンも非常に良かったです。ポップな映像なのですが大迫力で、手に汗握るシーンもあり大満足でした。
ラストのバトルシーンがすごい!
この映画でテンションが一番上がるシーンでした。
敵が巨大だとか戦いの規模がすごいというわけではありませんでした。このシーンを盛り上げたのは、アベンジャーズやスターウォーズとのコラボレーションです。ライトセーバーを出したときは本当に盛り上がりました。
マーベル・スタジオやルーカスフィルムをなどの人気コンテンツを買収してきたコンテンツ帝国だからこそできる演出で、さすがだと思いました。
多くの人が社会のモブキャラ
現実世界の主人公の女性は、家の方針により、小さいころから勝つことを優先として生きてきました。社会的に決められた成功をおさめ、勝ち組にならなくてはいけない。その教えが重荷となっていたのです。なので彼女の行動原理は、自分たちのゲームが盗まれたことに対して復讐することでした。
そんな彼女を変えたのは、もともとモブキャラだったガイでした。NPCたちにとって決められた通りに生きることは常識であり、安心できることでした。しかしガイは自由を望んで突き進みました。そんな彼の姿を見て、彼女もまた、自由を求めて変わることができました。
その結果、最終的には盗作を公にしてゲームを取り戻し、社会的な成功をつかむことではなく、ガイたちの世界を守ることを迷わずに選びました。
勝つことよりも優先するべきことを、見つけることができたのです。
私たちも普段、自分の人生の主人公でありながら、社会的に見たらモブキャラであるということが多いと思います。
そんな暮らしの中で、社会の常識や正解にとらわれすぎず、自分の自由な心を大切にするべきなのだと思いました。
恋の結末
ガイの主人公女性に対する恋心の結末が、切なすぎました。
I'm just a love letter to you.(僕は君へのラブレターだ)というセリフは、この先は忘れられないと思います。
主人公の男が作ったプログラムでは、ガイは理想の女性を探し続けるという設定がありました。
彼がガイの理想の女性のモデルにしたのが、隣で一緒にゲームを作ってきた女性。ガイはプログラム通りに彼女のことを好きになり、成長し、キスまで覚えました。
「僕は君へのラブレターだ」というセリフを言うことは、ガイが自ら自分が人間によって作られたAIであり、ニセモノの存在であると認めることになります。
それを受け入れたうえで、これからも自分が向き合うリアルを、思うままに生きていこうというガイの決心が分かって、とてもいいシーンだなと思い号泣しました。
現実世界の女性は、ガイのおかげで今まで気づけなかった、隣にいた男性からの好意に気づき、幸せになることができました。切ないハッピーエンドでしたが、胸がいっぱいになるような、本当に素敵な話だと思いました。
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