4年かけて届いた12文字
謎解きは昔から苦手だし、物覚えも悪い方。
問題が難しければ難しいほど嫌気が差すし、答えだってすぐに知りたい。
知った答えはその場で納得してその場で忘れる。
比較的色んなことを同時に考えてしまうので、考えを口に出そうとするとこんがらがって大変なことになる。なのでよく噛む。
とかく思考に落ち着きがないのだ。
思考を整理したいときは紙に書け。アウトプットが大事。なんかよく聞く気がする。
これはたまたま文字に起こしていたことで、4年越しに意味を知った思い出の備忘録。
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謎が生まれた経緯と出題者
5年前。高校2年の終わりの頃の話になる。
この歳になって初めて、私はなりきりチャットサイトに手を出していた。
「なりきり」という文化だけは知識として知っていたが、何がおもろいのかは全く知らなかった。暇を持て余した私は、「知らんならやればええやん」の要領で適当にスレッドを立てた。
①とある作品のキャラになりきってもいい。
②なりきらずに自分自身としてきてもいい。
③誤字をしたら腹筋。
スレ主として策定したルールはこれだけ。
当初は3日もすれば飽きる、むしろ誰もスレッドに来ずに終わる、と思っていたが、これが意外にも好評のスレッドになった。
10人の定員ギリギリが毎晩やってきて、朝から晩まで雑談をして帰っていく。ただそれだけの日々だったが、地を這うような成績と自分を取り巻く監獄のような環境から逃避するのには十分すぎる幸福感を得ることができた。
栄枯盛衰、流行れば廃るもので、1年程度であまり人は来なくなった。
自分自身も大学生活が始まり、次第にこのスレッドを存在すら忘れてしまう時間が増えていった。
それでもたかがスレッドが1年続いたのはすごいことだし、本当に色々な人と出会うことができた。
そんな中、未だに1人忘れられない訪問者がいる。
仮にAとしよう。
Aは最初期からなりきりでスレッドに来てくれていて、低い出現度の割にあまりにも印象に残っている。なりきりのキャラ自体は元気爆発系のキャラだったが、書く文がはちゃめちゃに綺麗なのだ。
荒れ果てる印象を持たれがちなスレッドに、元気一杯キャラのガワを被ったAが、時たま思慮深い発言をして去っていく。カオスだ。
ただ本当に、自分の考えていること・自分の伝えたいことを上手く優しく文字に起こすことができる素敵な人だった。
理想論で言えば“なりきり“なんて中身が見えない方がいいのだが、いかんせん喋りたがる年頃。自分の情報を誰しもちまちま漏らしてしまう。
Aと私は作中でも仲の良い関係性のキャラになりきっていたので、自然と喋ることが多かった。話を重ねていく中、少しだけ互いの素性を知った。
年上・年下が多いスレッドの中、実は唯一の同級生であったこと。
兄との折り合いが悪いこと。
なんなら家族との折り合いも悪いこと。
言葉選びが上手な分、Aはスレ内で他の人のお悩みを聞きアドバイスや温かい言葉を送る立場にいた。そんなAの素性を知るのは新鮮で、少しだけ優越感に浸った。
1年半も経つと、そんなAも1つの文を残して姿を見せなくなった。
この1つの文、14文字に私は4年間囚われることになる。
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14文字の謎
解いてみたい、という人は一緒に考えてみてほしい。
有識者が見れば数秒で解けるかもしれない。
その1文の謎は以下。
なんやこれ、と。
読める部分はbaseと漢字のみ。後半に至ってはTwitterの初期IDにしか見えない。
最初はなんかテキトーに打ったんやろ、と思っていたが、なぜかこの時ばっかり気になった。
暗号の解き方なんてコナンで見た知識しか備わっていない。2018年にその知識で一応解こうとした痕跡が残っていたのでついでに載せておく。
めちゃくちゃ頑張って怪文ができた。悔しい。
私はキーボードのかな文字入力しか暗号の解き方を知らない。
怪文が爆誕し、当時笑いながら読み上げた記憶だけはある。
怪文で脱力した私は、この後3年間この謎を放置した。
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それから4年の月日を経て
スレッド開設から5年半、謎が投下されて4年。私は立派な社会人になった。
某所で駆け出しエンジニアをしており、毎日頭を捻っては特段何も生み出せず悶々としている。
そんな中、画像を扱うコードを書いていた同期に「これどうやって動いてんのや」と質問をした。すると、こんな返事が返ってきたのだ。
「base64ってやつ使ってるよ」
はて。どこかで聞いた覚えがある。俄然興味を持った私は、base64について詳しく説明を聞いた。
専門外の人に軽ーく説明するとこんなかんじ。
Base64とは
データを他の形式へ変換するやり方(エンコード方式)のひとつ
であり
メールの添付ファイルを変換するときに、よく使われるエンコード方式
です。
中身としては
すべてのデータを「a~z」「A~Z」「0~9」「+」「/」の64文字と「=」の組み合わせに変換するやり方
です。
引用:https://wa3.i-3-i.info/word11338.html
もっと簡単にいうと、日本語を機械でも分かる言語に翻訳した、みたいな。
あの1文が一種の規則に基づいて書かれてたことに、私は4年かかってようやく気づいた。
あ、じゃああのTwitter IDみたいな文字の羅列ってbase64方式でデコードすればいいんじゃないの。どこにメモしたっけ、Twitterか。いつメモしたっけ、確か何年か前。ああ、何か文章出てくるといいな。なんて5年間を思いながら、仕事中なんて気にせず変換ツールに14文字を入力した。
4年間悩んだ答えはたった3文字で出力された。
わかってしまえば単純で、「なんで検索しなかったんだ」なんて今になれば思ってしまう。
それでも。メモをしていたこと。メモしていたことを忘れなかったこと。たまたまこの職業についたこと。たまたまbase64に関わる作業をしたこと。
謎を掴んでから解くまでの過程全てが偶然で、ああ、「縁」ってあるんだな、なんて心から思ってドキドキした。
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最後に
実は、このスレッド自体はまだ現存している。
5年前に来ていた人のうち5、6人だろうか。思い出したときにふと、思い出や近況を書き込みにきてくれ続けている。
スレッドの更新頻度は3ヶ月に1回くらい。自分がスレッドを思い出すのもちょうどそれくらい。思い出したときにふと覗くと、誰かしらが数行書き残してくれた思い出を見ることができる。
進学した人、就職した人、夢を追いかけ続けている人。最近は無事子供を出産した報告をしてくれた人もいた。
5年も10年も交流があるネット上の友達なんてほんのひと握りで、大体は「ずっと仲がいい人」と「それ以外」に分けられてしまう。
そんな中、ずっとほんの少しの細い縁だけで5年も交流が続く不思議な縁。そこでしか会えない縁を楽しみ、たった1年間の思い出を4年も懐かしみ続けてくれている人がいる。ネットの世界でもなかなか味わえない、面白い体験ができているなとしみじみ感じた。
この謎が解ける数日前、久々に覗いたスレッド。そこには、実に2年半ぶりのAからの書き込みがあった。
「先生になったよ」
「先生になってもここのこと思い出すんだ。絶対また来るね!」
そういえば同い年。Aもまた社会人になったのだ。
最高に素敵なAの元気な姿が見れて、ひとえにうれしく思った。
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