見出し画像

時代を超えた遊び場で感涙にむせぶ。

『らじみくサミット』の件はいったん休憩して、続きはこの次に。
バナー画像もあまり内容に関係ございませんので念のため。

さて、先週金曜の7/16、こちらの動画が初音ミク公式YouTubeで、さらに7/20にはニコ動(クリプトン公式)でも公開されました。

職場の70周年キャンペーンソングとして、瀬名航さんに書いていただいた「時代を超えた遊び場」のミュージックビデオです。
公式ですよ公式!弊社の公式とは重みが違いますなあ。

イラストレーションはASCANさん、アシスタントに出汁汁さん、動画をHouse*さんに担当していただきました。
もちろんベースになったイメージキャラクターとしてのミクさんは、おぐちさんの作品です。

こんなエントリーに来られる方なら、すでにご覧いただいたかと思いますが、すでに一度観た方は2回、2回観た方は10回、100回ご覧の方は5000回程度再生していただけると大変ありがたく存じます。
ご多忙の折、誠に恐縮ですが、前向きなご検討のほど何卒宜しくお願い申し上げます。強要じゃないのよ。

ということで、イメージキャラクターとキャンペーンソングについてのハナシです。

おぐちさん作のキャラクター

僕たちの一連の企画では、当初から番組、イメージキャラクター、キャンペーンソングを3大基本要件と決めていました。

これらの3つは、すべて有機的にリンクしなければ意味がありません。
そのためどの作家さんに依頼するのか、どんな方向性を目指すのかは、かなり明確にしておく必要がありました。

イメージキャラクターの作家さんは、こちら方面では知恵袋の清水藍が何人かの候補を出してきて、その中から早い段階でおぐちさんに決まりました。

おぐちさんと言えば、RACING MIKU 2014のイメージを強烈に記憶されている方も多いでしょう。
僕はその頃「初音ミク」ムーブメントから遠ざかっていたため、清水から見せてもらったイラストで、直感的に候補に入れました。

しかし、おぐちさんから提出されたデザイン初案は、イメージと大きく異なるものでした。
レーミクのように筆で描かれたような繊細かつメカニカルな作風ではなく、輪郭と陰影のコントラストがクッキリしたアニメタッチだったのです。

おぐちさんの作風の広さに感心するとともに、幅広いリスナー層に合わせていただいたのを察しました。

また、こちらから名古屋らしさをテーマに、大量の資料画像をお送りしたところ、コスチュームの基本カラーに有松・鳴海絞りの藍色を取り入れていただきました。
この斬新なカラーリングは、一度見たら忘れられません。

この初案からポージングや装飾品などのアイディアを盛り込んでいただき、元気かつレトロフューチャーなCBCのミクさんが生まれたわけです。

このデザイン決定が2020年11月。最初に思い浮かべていたイメージとは違っていたからこそ、このおぐちさんの仕事がキャンペーンの全てにプラスの影響を及ぼすのです。

難航したキャンペーンソング

一方のキャンペーンソングは少々難航しました。

実は当初、高齢のリスナーが聴くことも考慮してメッセージ性の強いバラードを想定していました。

これはキャラクターデザインがシリアスな方向になるであろうと勝手に考えていたからですが、おぐちさんのデザイン画が決まったことなどから、ポップな楽曲の方が合うのでは、と考え直しました。

そこで改めてお願いしたのが瀬名航さんでした。
いや難「航」したから、というわけじゃないですから奥さん。

『RADIO MIKU』は当初マジカルミライ特集で、2曲ずつ日替わりで選曲していましたが、この特集が終わる1月の途中から”週間OP曲+日替わり曲”のフォーマットが固まりました。
そして清水が最初のOP曲として選んだのが、瀬名さんの「雪が弾けたその場所で」でした。

遡ること1年、僕がキャンペーンを企画するにあたり、過去のミク曲をおさらいする中で、5本の指に入れるほど気に入ったのがこの曲でした。

親しみやすく心に刺さるメロディライン、オモチャ箱をひっくり返したようなサウンド、そして絶妙なドラムサウンドとグルーヴ感が見事にマッチした曲です。

オリジナルはアイドルグループtip Toe.へ提供されたものですが、ミクさん版でも、いやミクさん版だからこそ、先に挙げた特長がわかりやすかったかと。

清水のセレクトによって、瀬名さんの存在が一気に浮上したのです。
そんなわけで、瀬名さんにはかなりの期待値を込めて依頼することになりました。

これだよコレ!

瀬名さんからは最初に1コーラス分のデモをいただきました。
「これだよコレ!」と声に出してしまうほどの出来の良さ。
たった1コーラスなのに、瀬名さんの得意技がこれでもか!というほど詰め込まれていました。

この頃には『RADIO MIKU』も、女性パーソナリティふたりによるわちゃわちゃ感が特徴の番組に成長していました。
この瀬名さんのデモが加わることにより、おぐちさんのデザイン=番組=楽曲=明るく楽しいCBCラジオ、という惑星直列が完成したのです。

そしてフルコーラス版が届いた時、これは長く愛される曲になるだろうなと思いました。

番組でのインタビューでも表現された「ジェットコースターのような曲」がピッタリ来る疾走感。
マーチやラテンが入り混じり、スイング感とジャスト感が絶妙に配置されたリズムパターン。
氏の作品に欠かせない8ビットサウンドに加え、アニバーサリー感を煽るワンポイントのブラスなど飛び道具のオンパレード。
おまけに曲のアタマと終わりには時報音まで配置され、遊び心満載です。

さらにこの曲、BPMが175とかなり速く、通常のテンポなら5分以上の小節が3分45秒に凝縮されています。
それなのにコーラス単位で同じフレーズがほとんどなく、何十回聴いても飽きることがありません。

歌詞については、こちらでいくつかのキーワードやイメージを用意しており、周年企画にありがちな「今まで○年ありがとうございました」ではなく、未来を感じられるものにしたい、ということも書き添えました。
そして瀬名さんはその注文を見事に調理してくれたのです。

不変かつ普遍的に人に寄り添うアイテムとしてラジオが描写されていますが、よく読むとそこには「初音ミク」という存在も想起させられます。
リスナー同士を緩やかに繋ぐパーソナリティも、クリエイターに置き換えると「遊び場」の意味がより広く深くなります。
読んでいるだけで胸に迫るものがありました。

MVができるまで

しかし、今回のキャンペーンソングはそれだけでは終わりませんでした。

初音ミク関連の○○公式ソングというと、ミュージックビデオの公開をもってお披露目というケースが多いのですが、本作は楽曲公開からMV公開までに3ヶ月ほどかかっています。
この理由は単純に発注側、つまり我々が瀬名さんの楽曲を聴いてから制作を依頼したためです。

もともとラジオでのオンエアを目的に依頼していたので、MVについてしっかり検討していませんでした。必要があれば静画でいいかとも考えていました。

ところが、その出来がすこぶる良く、社内で完成楽曲を聴かせている時に「当然動画は作るよね?」という声が挙がったのです。

それには予算が必要なんですが…と答えたところ、立ててヨシ!というハナシになったため、急遽オーダーすることになったわけですが、問題はどなたに動画を依頼するのかということに。

ここでイチから選定すると公開が遅くなる一方なので、クリプトンさんにも相談し、過去に瀬名さんと組まれた方から選ぶことにしました。
とにかく瀬名さんの世界観を熟知していることが重要ですし、その中でこちらの希望に近い作風の方にお任せしたいと考えたのです。

まずイラストレーションについては、ツイッターで上げられていた作品を見てASCANさんに決めました。人物の柔らかさと背景のシャープさに惚れました。

そして動画を制作していただいたのがHouse*さん。テンポ感にあふれ、1カット単位でも揺らぎやピントの使い方が見事です。
お二人ともご多忙の中「瀬名さんの作品なら」と引き受けていただいたそうです。瀬名さんの人望の篤さを感じました。

ASCANさん魂のイラスト

最初にASCANさんから絵コンテが届きました。
群像劇的な設定の細やかさと、クライマックスへ向かう丁寧なシーンの積み重ね、そこに込められたメッセージににただただ驚きました。

そしてその量、28ページ・140カットの大ボリューム!
このコンテを設定資料集として販売したいほどの見事さです。
一部ラジオの受信端末について考証をお返ししたくらいで、ほぼ一発OKでした。

その分、一抹の不安も。

先に書いたように「時代を超えた遊び場で」はテンポが早く、小節数にして160ほどあります。
1つのシーンを8小節で描いたにせよ、20シーンが必要となる計算です。

ご自身が絵コンテを作られたとは言え、これを基にASCANさんは何百枚のイラストを描かれるのだろう、と心配になりました。

しかしそれは杞憂に終わりました。
ASCANさんは、出汁汁さんをアシスタントに起用し、締め切りを守ってイラストを送ってくださいました。

大きく分けて65の画像があり、それぞれ数枚のレイヤーで人物や表情の変化、背景などが細かく重ねられています。これだけでも200を超える枚数となりますが、驚いたのはアニメーションカットが別でまとめられていたこと。

MVをご覧になった方はご承知のように、ヌルヌルと動くミクさんが1カットで数十枚ずつ描かれています。
実は僕も、自分のアプリにこのイラストをすべて取り込み、アニメ化して動きを検証しました。

さらに先の65カットと絵コンテに沿って繋ぎ、社内検討用の動画に起こし、結果「完成品が楽しみだ」という結論に。

レイヤー単位で数百枚のイラスト…これだけでも充分にASCANさんの制作意図と魂が伝わってきました。

命を宿すHouse*さんの魔力

実はこの過程で、絵コンテにも描かれておらず、どのイラストが入るのか不明なシーンがあり、社内でも質問があったんですが、これはHouse*さんの領域なんだろうなと心待ちにしていました。

そして間もなく、動画の第一稿が届きました。
自分でも検討用動画を作っていたので、カットはほとんど把握していたはずなのに、House*さんの動画はそれすら忘れるほど素晴らしいものでした。

細かいテクニックは秘中の秘ですので、具体的なポイントは書きませんが、とにかくスピード感とタメの使い分け、登場人物たちがそこに生きているという質感、コンテに描かれていない箇所の処理、最後のカットに至るまで驚きと感動の連続でした。

皆さんに問いたいです。
これほどまで日本人の何気ない日常とラジオ、さらにミクさんの関係を描いた動画はあったでしょうか?

ASCANさんの描く人物の可愛らしさ、シャープで細部に渡る書き込み、ダンスシーンの素晴らしさ、ノスタルジーと未来感のブレンド、ワクワク感、清々しさ…この動画を語るにはあまりにも語彙が足りません。
パーソナリティの女性ふたりまで登場させていただき、なんというか、もう嬉しいっす。

今回参加いただいた4人のクリエイターさんには「ラジオ局のキャンペーン」という依頼そのものを「遊び場」と認識していただき、全力でぶつかって遊んでいただいたんだと思います。
クライアント担当者としてはもちろん、物作りを愛する一ファンとして、敬意と感謝でいっぱいです。

そしてこれをお読みの皆さんにも、長く長く愛していただければ幸いです。とにかく観るのだ!


追記。
今回人選の参考として観た動画を置いておきます。
歌ってるのはミクさんではないですが、こちらの世界観も素晴らしいですよ。


ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。