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ネット配信の音楽利用(かなり雑)

うちには真似できない

ニッポン放送が、過去のオールナイトニッポンの音声をサブスクで聴かせるサービスを始めるというニュースが話題です。

課金や広告モデルはいろいろあれど、業界内ではサブスクは流石、との驚きと感服の声が聞こえてきました。
もちろん「うちには真似できない」とただただ羨む放送局もあります。うん、うちには真似できない。

この記事で特筆すべきは、あの番組オープニング曲「ビタースウィート・サンバ」が原盤そのまま配信されることです。

「ビタースウィート・サンバ」はハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスが1965年に発表した楽曲です。

このアルバムのジャケット、大好物です。

著作権と著作隣接権

ところで、地上波ラジオ番組の公式ポッドキャスト、あるいは公式YouTubeなどで放送にあったはずの音楽がなかったり差し替わっていて「あれ?」と思った経験のある方は多いでしょう。

いわゆる著作権まわり、という理由があるんですが、ちょっと界隈を齧った方だと「ポッドキャストはともかく、YouTubeならJASRACと包括契約してるんじゃないの?」と疑問を持つかもしれません。

普段僕らがCDや配信で接する音楽。
これにまつわる権利を大雑把に2分すると「歌詞とメロディ」「録音された演奏や歌唱」となります。
もっとわかりやすく言えば「歌詞入りの譜面」と「CDやレコード」となります。

前者は「著作権」というもので、その音楽の骨格である作詞家と作曲家の権利であり、概ね世界共通です。

後者は「著作隣接権」と呼ばれるもので、その音楽を演奏した人や歌った人、録音に関わった人の権利ですが、国によって保護の範囲はバラバラだったりします。

ネット上ではよく悪者にされていますが、JASRACやNexToneなどの権利団体が管理しているのは、あくまで「著作権」です。

こうした団体は作詞家や作曲家から管理を委託されると、歌詞とメロディを使用した人から著作権使用料を徴収し、徴収にかかる手数料などを引いた印税(別に税金ではない)を作家に還元する業務を担っています。

YouTubeやニコニコなどが管理団体と結んでいる包括契約は、運営がまとめて使用料を払うもので、そのおかげでユーザーが個別の使用申請や支払いをしなくても済むわけです。

現在JASRACがこうした包括契約を結んでいる動画ポータルやSNSは下記の通りです。

ポッドキャストはもちろん、Twitter動画もアウトですな(2022.7現在)

金払えばいいんだろ?

さて、ここで勘違いしちゃいけないのは、ユーザーが利用できるのはあくまで「歌詞とメロディだけ」であること。

著作権管理団体の管理楽曲を自分で弾いた「演奏してみた」や初音ミクなどを使ったカバー曲、伴奏を自分もしくは知人に弾いてもらった「歌ってみた」動画なら、上記リンクのサービスで問題なく公開できるわけです。

一方でアーティスト本人など他人が演奏している市販CDやiTunesなどの音源、あるいはYouTubeで公式があげているMVをゴニョゴニョして作った音源を勝手に利用することはできません。

「勝手に」ということは、申し込めばOKなのか?と疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、正しくは「努力とお金次第」となります。

「著作隣接権」の場合はJASRACなどと異なり、一括して受託する管理団体がほぼ皆無です。

そのため、ネットで利用したいのであれば、原盤(CDやサブスクに使用するマスター音源)の所有者、演奏者、歌唱者、録音に関わったエンジニアなど、権利を持つ全ての人から許諾を得ることが必要です。

さらに困ったことに、使用料も権利を持つ全ての人それぞれ(殆どが言い値)です。
「500万円いただきます」と言う人もいれば「●●を記載してくれればタダでいいよ」と言う人もいます。

つまり「いくらあれば他人様の音源が使用できるのか」に対する正解は、「よくわかりません」となるわけです。
最近はなんとなく相場が出来つつある、とも聞きますが。

良い六甲おろし、ダメな六甲おろし

さて、ここで「オマリーの六甲おろし」を例に、作った動画をネットへ上げていいかどうか、ケースを列記してみます。

まず「オマリーの六甲おろし」はオマリー独自の節回しがあるとは言え、詞と曲はあくまで「六甲おろし」です。

この「六甲おろし」、JASRACの作品データベース検索サービス”J-WID”で調べると、「阪神タイガースの歌」という正題で登録されていることがわかります。

ここで「配信」の項目に○が付いていれば、少なくとも自身で演奏したり歌ってみた音声の配信は可能です。

さらに上に挙げた、包括契約が結ばれたSNSや動画ポータルであれば、個別に使用料を支払う必要はありません(申請のみ必要なサービスもあります)。

では、この「オマリーの六甲おろし」で動画を作るとして、良い例とダメな例を挙げてみましょう。

【OKデス】

  • アカペラ(無伴奏)でオマリーっぽく歌ってみた動画

  • 自分もしくは知人の演奏でオマリーっぽく歌ってみた動画

  • 演奏は上ふたつと同じだけど、「六甲おろし」をオマリーっぽく歌うのに失敗した動画

【ダメデス】

  • この音源を無断で使った動画

  • この曲のカラオケ版(CD準拠)を無断でバックに流してオマリーっぽく歌ってみた動画

  • カラオケボックスで「六甲おろし」を選曲して、オマリーっぽく歌ってみた動画

  • なんらかのテクでオマリーの声を抜き取ってリミックスした動画

「ダメデス」の3つ目について「CD音源じゃないのにダメなの?」と思う人がいるかもしれません。
実はカラオケ音源の著作隣接権は、たいていカラオケ配信元が持っているため、公開前に許諾をもらう必要があります(もらえるかはわかりませんが)。

「踊ってみた」はほぼブラック

よくTikTokなどで観る「踊ってみた動画」は、ほとんどが原盤からの音源を(ほぼ間違いなく)無断で使用してるので、権利利用の観点からはグレーどころか真っ黒焦げです。

「踊ってみた」の元祖・ニコニコも例外ではないのですが、特にボカロ曲界隈では権利者がシーン活性化のため、概ね大人の対応として見逃しているものと考えます。

この善意を、配信する側が一方的に「許諾された」「自由に使える」と考えるのはとんだお門違い。
権利者が複数いる場合、ボカロPさんも迂闊に「踊ってくれてありがとう」と口にできないこともお忘れなく。

くれぐれも権利関係者には心からの感謝をお願いします。

うちには真似できない(再)

さてさて、例の「ビタースウィート・サンバ」に話を戻すと、ニッポン放送の「オールナイトニッポンJAM」というサービスがJASRACとの包括契約をしていない場合、「ビタースウィート・サンバ」の作曲者への著作権使用料に加え、演奏したハーブ・アルパート、ザ・ティファナ・ブラスの面々や原盤所有者への利用料が発生します。

記事では権利者と話をつけられたそうですが、同局のグループ企業でポニーキャニオンが、オリジナル盤を発売した米A&Mレコード(ハーブ・アルパートが設立者のひとり)の国内ディストリビューターだった縁かもしれません。
これはこれで大変な努力です。

うん、いずれにしても、うちには真似できない(再)。

本稿の記述について

  1. 僕は別に法律家でもなんでもない一介の会社員なので、ビギナー向けに相当にざっくりと解釈した上で書いております。
    細かな点についてご指摘あればコメント頂けますと幸いです。謹んで勉強させていただきます。

  2. また例に「オマリーの六甲おろし」を選んだことには特に意図はございません。
    好きな球団は特になく、あえて言えば落合博満信者です。
    ひとつよしなに。

ラジオ局勤務の赤味噌原理主義者。シンセ 、テルミン 、特撮フィギュアなど、先入観たっぷりのバカ丸出しレビューを投下してます。