きっかけは、ニコニコ（流用）

僕は、名古屋の地上波ラジオ局で番組プロデューサーやら何やらの仕事に従事しております。

そんな僕がニコニコにラジオの未来を感じたのは2007年夏のこと。
「初音ミク」発売直前のことでした。

インカ帝国の成立

僕は制作と関係ない部署で配属15年目を迎えており、正直なところ刺激の薄い退屈な日々を送っていました。

紆余曲折あって、この前年から番組を担当するパーソナリティにして、放送禁止ソング王として知られるミュージシャンのつボイノリオさんの楽曲にサウンドプロデュースと録音で関わり、この2007年夏までに3曲の楽曲のリリースを果たしていました。

当時の僕は、仕事の傍らで、それら楽曲に対する反響をエゴサしていました。

ニコニコで捕獲した動画

そして2作目の「インカ帝国の成立」がアップされているのを見つけたのが、最初に書いた2007年の夏でした。

その場所はニコニコ動画。無論、無承諾アップロードです。
ニコニコはベータ時代に発見しましたが、積極的に見始めたのはγ時代からで、試験的にアップロードも始めていました。

そして「インカ帝国の成立」の動画を毎日のようにチェックしました。
日々増えていくコメントを見るためです。

コメントの内容から、番組リスナーとは異なるユーザーからの反響だと推測でき、ニコニコという器の面白さを思い知りました。

たまにつボイ御大と一緒に、これらのコメントを観ながら大爆笑しておりました。

ラジオの未来を見つけた

ニコニコを通じて発見したものがあります。
「ラジオの未来はここにある」という希望です。

当時はまだライブ配信もTwitterもない時代。
ラジオはひとりで楽しむものでした。

しかし、ニコニコには時も場所も異なる視聴者たちのコメントによる疑似ライブ感がありました。
やがてリアルタイムで聴けて、タイムラインが走るようになれば、ラジオは「みんなで寄ってたかって楽しむもの」に生まれ変わると思えたのです。

この年の12月、僕は「インカ帝国の成立」をベースに『インカ帝国の成立の、成立。』というモキュメンタリー番組を作りました。

入社後初めて作ったラジオ番組で、なぜ日本で学ぶ世界史ではインカ帝国の王が登場しないのか、ということを執拗にギャグにした内容でした。
おそらく日本の録音物で最も「マンコ」という言葉が発せられた番組だと思います。

この内容はもちろん、制作部でもない人間が作った番組を、うちの局はよくぞオンエアしたもんだと感心します。

ネタ番組作ってみた

こんな番組を作った目的はただひとつ。

誰かがニコニコにアップしてくれた動画が、コメントで埋まることでした。

音楽、とりわけボカロ界隈には「ネタ曲」というものがありますが、これは地上波放送局が放ったニコニコ初の「ネタ番組」だと思います。

今のように局公式チャンネル（2007年末の時点ではそこまで一般化していなかった）がアップするわけでもなく、投稿主がアップした神回の音声でもなく、オンエアの時点で「ニコニコ行き（着払）」という宅配伝票をつけていたようなものです。

そして放送から4日後、僕の気持ちを察したであろう有志が、処女作「『インカ帝国の成立』の、成立。」をニコニコにアップしてくれました。

公開から15年以上かけて8千再生、500コメント。
決して大ヒット動画でもないけれど、自分に自信をなくしかけた時に観ては「オレはまだ死んでない」とセルフ生存確認に利用しています。

ラジオが生まれ変わった

その翌年、つボイさんの新曲を使ってニコニコに公式コラボ企画を申し込んだら、思いのほかあっさりと引き受けてくれたことがありました。

さらに2009年にはTwitterを職場に導入して、同僚たちにライブ感の楽しさを啓蒙し、やがて僕自身制作部へ異動することになりました。

担当番組ではTwitterはもちろん、USTREAMを使って、「みんなで楽しむ番組」を制作してきました。
またドワンゴさんに担当番組のファンがいて、ニコ生を手伝ってくれたこともありました。

今はradikoエリアフリーがあるし、人材難と経費削減もあって、番組中のライブ動画配信からは遠ざかりましたが、職場で「初音ミク」のコラボを企画した時は「またニコニコとご縁が生まれるはず」と思っていました。

願えば叶うというもんです。
いろんな幸運が重なり、その「初音ミク」をきっかけに、ここ2年ほどコラボでお付き合いさせていただいております。

2000年代、ネットによるリスナー離れと広告収入減で一斉にルサンチマン化していたラジオ界でしたが、僕が希望を見出せたのは、間違いなくネットの申し子・ニコニコでした。

そして今もタイムラインやコメントに草を生やすため、そのスピリットを燃やし続けている今日この頃です。
ニコニコバンザイ。

え？「『インカ帝国の成立』の、成立。」のリンク？
こっちは権利者なんだよ、勝手に検索しろってんだ。あばよ！