ふつうのそれとは逆をいく人。

家の近くの、大型ショッピングモール内の一角にある書店が移転しリニューアルオープンした。一歩足を踏み入れると明るく広々とした空間が広がっている。欲しかった本がいつもの書店に見当たらなかったので、ここなら品揃えも豊富だし置いてあるかもと、期待を胸に立ち寄ってみた。


予想は的中。さっそくお目当ての本を手に取りレジへと向かう。そこに60代くらいの女性の店員さんがいた。本を置くとなにを言うでもなく、ただ淡々と黙って受け取りレジを通す。店員さんのマニュアルを完全に通りこした対応に、私は疑念を抱きじっと見つめる。

本来なら「お会計は***円でございます」的な対応が接客というもの。それすら言わない。良く言うとあっさり、悪く言うと無愛想。この時点で、つぎつぎと意外性を更新!その対応に若干の違和感を感じつつ、なかば自主的に金額の表示画面を確認し、支払いをしようとしたところで躊躇した。


理由は単純。エコバッグを持っていなかったのである。手元のバッグに本が入らなかった場合、だだっ広いショッピングモール内で本を片手に持ち歩くことになる。さすがにそれは気が引ける。袋を購入しようか迷いつつ、確認のため「有料ですか」と聞いてみた。さらに意外な対応が返ってきた。

「袋ねえ、有料だけど、たいして使えるような物じゃないし、こんなのにお金払うのもね嫌でしょ」

と、ぴしゃりと言い放ち購入した本に印の紙を巻いて渡してくれた。

「たしかに!そうですよね」と店員さんと笑顔で顔を見合わして納得し、店をあとにした。


「逆をいく人」とでも言おうか。私は店員さんのマニュアル通りではないところに親近感がわいた。まるで近所に一人はいる気のいい駄菓子屋のおばちゃんと話をしているみたいだった。気持ちもやわらいで顔もほころんだ。

たまに、こういう店員さんに遭遇する。不思議なことに腹が立つことはない。それどころか慣れると話しやすいし、だんだんとおもしろさが込みあげてくる。


こんな人もいた。それは偶然にも同じショッピングモール内にある、携帯ケース売り場にいる店員さんだ。そこで iPhoneカバーを見ていたところ、後ろから声をかけられた。

「箱を開けてもいいですよ、つけてみてくださいね」

箱って開けて、試すのってありなの?
ここはずいぶん自由が利くお店だなあと思ったが、素直に開けてiPhoneにつけてみたらピタリとはまったので、これに決めた。

レジに進むとまたもや、驚きのことばが待っていた!

「ここの部分壊れやすいとたまにクレームきますけどいいですか」

いやいや待て待て、そこまで親切に言っていいの?ま、たびたび壊れるなんてことはないだろうと迷わず購入。数年たったいまも壊れずに使っている。これ、考えようによっては信頼も生まれるし、売り上げ向上にも繋がってくるよね。


まさに「逆の心理」だね。


近頃、CMなんかを見ていても逆の心理をついてくる物がある。あえてマイナス面をさらっと打ってヒットを狙うようなこと。これは上手な企業アイデアといえるだろう。


決まりきったマニュアル通りの対応や表現も清々しくていいけれど、臨機応変、自由というのかなあ。その場面に遭遇した時におもしろがれたり、感心してしまう自分もいるというお話です。