【保育業社C社団体交渉の記録 Vol.4〜信じられない事実が発覚! 2回目の団体交渉】
第二回団体交渉は、2024年6月19日、
今回の私たちの要求は次の点です。
昇給規定の無断改定について
一回目の団体交渉では「内規なので社員に無断で改定しても問題がない」という回答でしたが、賃金に関することは就業規則に記載しなくてはいけない項目。内規でよいはずはないので、引き続き説明を求めます。
2、新就業規則の問題点について
1回目の団体交渉後、会社側は何年も中断していた就業規則の改定を大急ぎで進め、十分な周知期間もないまま6月1日に施行しました。この拙速ともいえる改定で「不十分な点を改善した」と胸を張っていますが、内容はいくつもの問題をはらんだものでした。今回の団体交渉で、この点についての説明を求めます。(ちなみに、会社は「適法でなかった」を「不十分であった」と言い換えることに決めたらしく、この後何度も「不十分」という言葉が聞かれることとなります)
3、管理監督者の範囲変更について
「三級職以上を管理監督者として考え評価してきた」ため、残業代を支払ってこなかったと、前回の団体交渉で堂々と答えていたのに、たったひと月半後に発表した新就業規則で、なぜその点が変更されていたのか? 理由の説明を求めます。
4、互助会(二水会)費について
これまで「二水会費」という名目で給与から天引きされてきた互助会費について、一回目の団体交渉で労使協定書の確認を求めたところ、なんの説明もなく提出されませんでしたので、再度の書類提出と説明を求めます。
当日にどのような交渉がなされたか、要求ごとに紹介します。
【規定の無断改定について】
周知は不十分だったが、
今後も十分な周知をするつもりはない?
まず、昇給額が何度も無断で改定され、そのため人によって同じ級職でも手当が違うことの説明を求めたところ、総務部長からは「内規に基づきおこなってきたこと」で「経営の状況、人員構成のこと」などから改定してきているという回答がありました。これは質問への答えになっていません。
問題点は大きく2つあります。
⚪︎賃金の規定は就業規則に記載しなくてはいけないことで、そもそも内規であってはいけなかったはずである。
⚪︎やむをえず改定しなくてはならなかった場合も、不利益改定にあたるため無断で改定することは許されない。従業員に周知しなくてはいけない事項である。
この2点について質問しましたが、微妙にずれた答えしか返ってこないのでした。
我々 「不利益改定にも関わらず、何の説明もなく無断で何度も改定したことについては、経営が悪いから無断で変えていいという認識でいらっしゃったということですか? 」
総務部長 「その人が今までの給料より下がるということは全くないです」
まず無断改定したことの是非を聞いているのに、それに答えていません。しかも、実際に昇級後に収入が下がった社員がいるので、現状認識も正確でありません。
また「下がることは全くない」の根拠は、これまで残業が多かった人には昇級後に加算金をつけているからということですが、残業代というのはあくまで残業した時間への対価のはずです。過去の残業に対応する形で加算をするというのは、賃金の合理性や公平性というものをどう考えているのでしょうか。昇級後に残業が増えた人は、昇級後に残業が減った人よりも賃金が低くなるのです。いま現在多く残業していたとしてもです。そんな変な加算金ではなく、経験を積んで昇級したら、普通に収入が上がるような合理的な賃金体系を作っていただきたいです。
15,000円の級職手当と引き換えに残業手当がなくなる昇級の形に問題がないかを尋ねると、「いろいろな手当については上がっているはずですよね」と、総務部長。
賃金がまったく上がらないとしたら、昇級とは呼ばないのでは? しかも残業手当がなくなる分をカバーできない程度の増額です。
そして、もっとも重要な「無断」でという点について、何度質問しても微妙にスライドした答えしか返ってきません。
我々「無断で行われたというところが問題なんです」
総務部長「その時の会社の経営状況から来ていることなんですけれども、周知が不十分だったとは思っております。」
我々「その認識があるなら今からでも周知と謝罪をしてください。何も知らされぬうちに給料を減らされていたわけですから」
総務部長「上がっていくのを少し緩やかにして…経営をしていくこと、会社を長らく続けていくこと……」
我々「(経営側は)そこに合理性がある、妥当性があるとしているから変えてきたわけですよね? であれば、それを周知してください」
私たちは賃金を下げられたことだけに、怒っているわけではなく、会社側が説明の義務を怠ったということに対して怒っているのです。「不十分」と認めたのならば、全社員に説明と謝罪をするのは、当然ではないでしょうか。
「説明と謝罪」、これは会社を改善していくならば絶対に必要なことと、メンバーで話し合い、出した結論です。この点を明確にするため、この時点では私たちは金銭的な要求は一切せずにいました。
ですが、会社側は経営面から改定したというばかりで、「不十分」であった周知を今後十分にしていくとは言わず、弁護士に促されて、後日回答するという約束をするに留まりました。
【新就業規則の問題点】
”不十分な点を改善した”というものの、
なお不十分な新就業規則
私たちの就業規則が、赤字が入った状態で2年半も放置され、さらに未完成のため施行されていないと聞かされたのは、3月末の団体交渉の時でした。それからひと月半後に周知された新就業規則は、確かに厚生労働省のモデル就業規則をベースにしていて一見きちんとしているように見えるものでした。しかし、読み込んでいくと、いくつかの問題点がありました。
疑問1 級職手当から固定残業代への変更
金額は今後上がらなくなる。これは不利益変更では?
三級職は管理監督者とみなし月々15,000円の級職手当と引き換えに残業手当がなくなっていた以前の規定が改定され、級職手当とおそらく同額の固定残業代が支払われることになりました。一見不利益がないようにみえますが、段階的に上がる設計だった級職手当を、3級職でいるかぎり上がらない固定残業代にスライドしたことは、巧妙に企まれた不利益変更ではないでしょうか。
我々「(これまでの)級職手当というのは段階的に上がっていましたよね。例えば自分は、三級職4年目で15,000円から30,000円に級職手当が上がりました。そういう設計をされていた級職手当がなくなりました。固定残業代は、その級職にいる間は額が変わらないのですよね」
総務部社員「今のところそのように」
これはどう考えても将来的な賃下げ。つまり不利益変更です。しかし、会社はそれを認めようとしません。
我々「級職手当という段階的に上がる手当がなくなったというところについては明らかに不利益改定だと思いますけれども、それについてはいかがですか?」
総務部社員「(三級職が)管理職の範囲から外れると、それに紐付いた級職手当というのがなくなるということです。」
相変わらず質問に対して答えていません。なぜ私たちが不利益変更か否かにこだわるか、それは不利益変更は社員に周知する義務があるからです。しかし、実際は周知されていません。私たちは質問して初めて知りました。他の社員は知りません。「聞かれない限り知らせない」、C社の基本方針は、常にーこれであるようです。
我々「労働基準監督署に相談したときに、この件は不利益変更に当たるという意見を頂戴しています。」
総務部社員「そうですか」
一同「そうですかって!!」
我々「不利益変更ではないと主張する根拠は何ですか」
総務部長「会社は(今後)固定残業代以外の部分、はみ出た部分を支払うというところで、会社の経営上ではかなり持ち出しが出てくるという計算で…」
これは、本音が出たのでしょう。三級職に残業代を払わねばならなくなった。そうなると、会社全体で残業代の支払いが増えるので、マイナスできるところを探し、級職手当から置き換えた「固定残業代」を年次で上げることをやめたということのようです。
人件費を抑えなくてはならない苦しさがわかる発言でしたが、そもそもこれまで残業代を払ってこなかったことが違法(C社の言い方では、”不十分”)なのに、その分他の項目から引くと、団体交渉の場でそんなことを言ってしまう総務部長の正直さに驚きました。
疑問2 固定残業代の時間設定は?
各人別で、経営判断でいつでも減額できる?
我々「三級職の人は級職手当がなくなって固定残業代になりましたけれども、全員その金額は一致しているんですか?」
総務部社員「全員、下がらない水準で額を決定している」
我々「下がらない水準とは、同じ金額ではないということですか」
総務部社員「下回らない。」
我々「上がっている人もいるということですか?」
総務部社員「各人別に決定しています」
なんとも噛み合わないやり取りですが、「各人別」としか言わないのは、できるだけ明言を避けたいということなのでしょうか。
そこに弁護士が「固定残業代ですから、残業を想定して見積もっているわけですから」と入ってきましたが、これは改訂前の級職手当の金額から算出しているという、会社の説明とまったく矛盾しています。
一般に固定残業代とは、「何時間分」と時間を規定されるものです。それなのに、この新規定では、「あなたの固定残業代は15,000円で、あなたの給与を時給換算して割り出すと、●時間分となります」これを1人ひとりに対して行うのです。まったく合理性を欠く制度です。
しかも、固定残業代の金額も時間も基準が公表されていないので、これまで昇給時の級職手当を無断で改訂したのと同様に、固定残業代も無断で減額される可能性があるのです。38年ぶりの改定なのに、いつでも無断で下げられる余地を残しておきたいという会社の方針が、この交渉で明らかになりました。
疑問3 時間外手当の基礎となる賃金は?
法律とは異なっても「当社の考えでは」
労働者が時間外労働をする時、その時給の計算方法は法律で定められています。その計算をする際の「基礎となる賃金」の話です。「基礎となる賃金」には、基本給以外の手当も入れなくてはならない(通勤手当や住宅手当等は除外してもよい)のですが、入っていません。これにより、時間外手当が法に反して低く抑えられています。
このことは、就業規則改定前に複数の社員から指摘があり、5つの手当のうち1つは入ることになりました。しかし、残り4つは除外されたままです。
資料/割増賃金の基礎となる賃金は(厚生労働省)
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/library/tottori-roudoukyoku/pdf/26kajyu_4.pdf
団体交渉の場で、再度この問題について質問したところ、総務部長より「労働の対象としてではなく会社の補助、福祉厚生として扱って支給しているもの」という答えが返ってきました。弁護士もまた「プラスアルファのものである」と。
しかし、国は何を基礎賃金に入れるべきかのルールを示しています。C社の場合はそれに反しているのです。
我々「それが間違っているということを指摘してもお認めにならなかったので労基署に確認しました。労基署は賃金に含まれますと」
総務部長「労基署の方には、会社としての考え方はこうだと言うことで、説明中ではあります」
弁護士「皆さんのご要望としては…」
我々「私達としては、この規程の修正を求めます」
弁護士のほうから「進行中のテーマですから、今日のところは、このへんに」という声がかかり、この話題は終了しました。
これは新就業規則の問題ですが、それだけではすまない話でもあります。旧就業規則にはこの点は明記されていませんでしたが、計算としてはこれまでも手当は基礎賃金には入っておらず、つまり過去の割増賃金に遡及する話になるのです。新就業規則を確認した際に問題の大きさに気づき、会社への影響を考えた私たちは、施行前に間違いを正してもらえれば、過去のことは追求しない方針でいました。しかし、会社側が指摘を受け入れなかったため、労基に訴えざるをえず、今後は過去に支払われた残業代の額が適正であったのかという問題にも広がっていくかもしれません。
【管理監督者の範囲変更について】
前回の主張とはまったく違うが、
「以前から検討していた」!?
3月に行った第一回団体交渉の際は、「三級職は管理監督者」と答えていたのに、なぜ短期間で管理監督者区分を変更したのか、その理由について質問したところ、次のような答えが返ってきました。
総務部長「従前は管理監督者という考えがありましたが、今回の就業規則の全面的な改定に伴って、以前から専門筋の方に確認していたのですが、管理監督者の範囲を狭めた方が、より適正だろうということで実施しました」
前回の主張とまるで違いますが、「ここ2年」検討してきた結果であると。2年前から主張していたなら、なぜ前回の団体交渉で、「リーダー的評価をしているから」「100年企業ですよ(?)」(正確には80年です)と強く主張したのでしょう。これまで違法な状態にしてきたが、指摘されて慌てて変えたのでは?と、疑いたくもなるでしょう。
弁護士「いろんな考え方が、あるわけですよ。管理職として処遇されたいという人もいるし、将来会社の経営層に入っていきたいという人もいるし、若い段階から管理職という自覚をもちたいという人もいるし。」
どのように呼ばれたいかは人それぞれでしょう。問題なのは「管理監督者」という扱いが、残業代を払わない根拠とされてきたことです。
今回改定された就業規則では、「主事」と呼ばれる五級職以上が「管理監督者」にあたるということになりましたが、管理職としての業務実態と矛盾があるため、そこも質問したところ、総務部長より「矛盾点というのはこれから検討していくところです。」という答えが返ってきました。
なぜ検討してから改定しないのでしょうか?
前回の団体交渉でも争点になりましたが、厚労省の見解を見ても管理監督者として認められる要件は厳しく、➀経営者との一体性 ➁労働時間の裁量、③対価の正当性 この三要件を満たさなくてはならないとされています。C社での五級職がこの要件を満たすものであるかを質問したところ、特に経営に関する会議には参加しておらず、出退勤の自由はないが、それでも「当社の考え方では管理監督者である」という答えでした。世のルールと乖離していても、「当社の考えでは」が通ると考えるC社の体質だけが明瞭になりました。
【互助会(二水会)について】
長年にわたり社員に無断で給与から天引
いっさい存在しない収支明細
これまで三級職以上の社員は、「二水会費」という名目で月に300円の給与天引きが、社員に説明なくされていました。昨年11月にこれがなんであるのか総務部長に質問したところ、三級職以上の慶弔費であること、また令和5年12月をもって廃止することを告げられました。
まだ不明な点があったため、第一回目の団体交渉で二水会に関する労使協定書と収支報告書の控えを請求したのですが、会社側はなんの説明もなく提出せず、さらに催促した結果「ありません」という答えだけを返してきました。これは団体交渉を誠実に行う義務を果たしていないことは言うまでもありません。
その経緯を踏まえたうえで、社員に説明なく給与天引きを行ってきた二水会がどのようなものであるかを、今回の団体交渉で質問したところ、驚くような事実が明らかになりました。
総務部長「二水会については、平成5年12月をもって天引きを廃止しました。記録上は平成4年2月から労使慣行に基づいて行ってまいりました。かつてその当時締結したと思われる労使協定の存在は私たちは確認できませんでした。そこで私の知る限りでは、収支報告書は作成したことはありません。」
労使協定が存在しないならば、給与天引きは違法です。また、仮に協定があったとしても、互助会費というものはある目的をもって社員から預かっているものです。1000円程度の経費支出でも社長がチェックして支払い拒否をするような会社でありながら、社員の預かり金の収支記録がいっさいないということは信じられません。
これでは適正に使われてきたかわからないのでは? という問いに対し、「預金通帳が存在しています。平成18年4月からの情報です。」と。それしか記録がないという事実に唖然としました。
「香典(袋)に載せているだけです」
それは相手が袋を捨ててしまったら、一切残らないものです。こんな管理では、横領されていてもわからないのではないでしょうか?
さらに残金を尋ねたところ、「530万円」という答えが。これには、その場にいた一同がどよめきました。
本来、賃金は「全額支払いの原則」があります。社会保険料などの一部の例外をのぞき、給与から天引きを行うことは許されません。互助会費等を給与から天引きしてもよいのは、労使協定を結んだときだけです。協定なく天引きするのは、社員から金を盗むのに等しい行為です。さらにプール金が500万円を超えるような大金の収支明細がないというのは、本当に互助会費としてのみ使用されていたのか、疑われても仕方がない状態です。
残金について「今の残高を今まで通り香典で使っていくのか、それとも他のやり方、新しい方たちには戻すなり、何か他のやり方があると思うので、そこは検討した上で決定していきたいと思います。」と総務部長は言いますが、互助会費は社員の預かり金なので、会社側が勝手に決めて良いわけがありません。
さらにいえば、団体交渉で必要な資料の提出を半年以上も理由なく怠ってきたのは、事実を隠蔽しようという意思があったのでは? と疑いたくもなります。
そもそも「会」というからには、実際にそういう会があるのか、会長は誰なのか、規約はあるのか? わからないことだらけですが、この場では会社側のあまりの杜撰さに驚き、質問することができませんでした。
他の件と同様、二水会についても私たちが求めているのは、周知と改善です。天引きを廃止したから説明不要というのは違うでしょう。月300円といえど社員のお金です。「不十分」であった周知をこれからどうするのか? また残金をどのようにするのか、6月中に書面で回答してもらうことになりました。
この後の会社側の対応はvol5へ
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