世田谷の認可外保育園マム・クラブの即日閉園 〜閉園の日に何が起きたのか(1)

2019年12月、世田谷の三軒茶屋にある保育園で、保育スタッフたちによる保育園の自主運営が2週間にわたり行われました。そのきっかけとなったのが、11月最後の金曜日の夕方に突然取締役から告げられた、園の閉園でした。
この記事では、その日にあらわになった経営者たちの無責任ぶりを、当日に解雇を告げられた社員の保育スタッフの証言で振り返ります。

■朝9時〜昼ごろまで:人手不足で大混乱の園

 11月29日(金)。この日、マムクラブ三軒茶屋は、0歳児を含めて30人前後の子どもたちを預かっていた。
 朝の受け入れはパンク状態だった。マムクラブ三軒茶屋は保育スタッフが足りておらず、後で説明するように、代表である諸川雅子の一族や、すでに退職したパート従業員、解雇通告した社員を前日やひどい場合は当日朝に呼び出して、埋め合わせするということが何日も続いていた。
 子どもたちも、先生たちが日によってコロコロ変わるために情緒不安定だった。特に29日(金)は泣いている子が多く、玄関に並んでみんな泣いていた。

 この日の出勤は、社員である私1人以外は、諸川雅子(代表取締役)、森紗綾(取締役、雅子の次女)と雅子の三女だけ。全員が諸川一族だった。取締役の紗綾も、三女も、現場経験はない。このままだと30人の子どもを見ることなんて到底できない。

 代表の諸川雅子は、すでにマムクラブを退職したはずの元パート従業員に連絡し、その日の午前だけ出勤するように言っていた。後から考えれば、代表の雅子は、この元従業員に賃金を払うつもりはなく、どうせ閉園するからとただ働きをさせるつもりだったのだろう。

 午前はお散歩の時間で、柵のある公園に行って過ごした。
 遊んでいる途中で公園から脱走しようとする子が数人いた。それにもかかわらず、近くにいた諸川一族たちは、気付いていなかった。私が走って、道路に出そうになった子どもたちを止めた。改めて、このままだとこの園はいつか事故が起きるかもしれないと感じ、恐怖を感じた。

■昼:何も告げずに忽然と姿を消した代表

 お昼になり、園に戻り昼食を食べ、バタバタとオムツ替え・トイレへの誘導をした。午前中だけ来ていた元パート従業員は帰った。

 いきなり、諸川隆人(取締役、諸川雅子の長男)の妻が園にやってきた。元パートが帰った代わりに呼ばれたのだろう。彼女を含め、諸川雅子の息子・娘の一族たちは、誰一人として保育士の資格は持っていないし、経験もほとんどない。単なる人数の数合わせ以外の何物でもない。このように諸川雅子代表は、自分の息子・娘どころかその妻や夫まで、数合わせに動員していた。
 実際、隆人の妻もこの日、特に子どもたちの面倒を見ていなかった。

 13時からはリトミック(音楽教室)講師の先生が来て、リトミックの時間が始まった。
 諸川雅子はいつもなら外出する際、一言声をかけていくのに、この日は13時になると、何も言わずにそーっと姿を消していた。不思議に思ったが、このことの意味を、私は気づいていなかった。

 このときから、私は諸川雅子代表に二度と会っていない。

 リトミックが終わり、おやつの時間になった。
 私が森紗綾に「雅子先生はどこに行ったんですか?」と尋ねた。紗綾は、「分からない」と答えただけだった。いつもなら勝手にいなくなることなどないのに、紗綾は不思議に思った様子はなかった。

■15時ごろ:不穏な行動を始める取締役たち

 あっという間に15時になり、子どもたちのお返しの時間になった。
森紗綾が、「舞先生から電話があって、お金がぐちゃぐちゃになっているから今日の精算は一旦ストップしてほしい。と言ってたからストップでお願いします。」と言ってきた。

「舞先生」とは諸川雅子の長女である佐藤舞のことだ。彼女は取締役ではないが、マム・クラブで労務を担当していたようだ。
 「精算」についても解説しておくと、マム・クラブ三軒茶屋では子どものおやつ代やランチ代をその日ごとに保護者の方に支払ってもらっていた。その支払いを今日は受け付けるな、ということだ。

 私が「何故ですか? おやつ代もランチ代もですか? 三茶はお金のぐちゃぐちゃには関係ないです。」と聞いた。
 森紗綾は「私も分からないの。とりあえず舞先生の言うことを聞きましょう」と言った。

 私は疑問に思いながらお返しにあたった。その間、森紗綾は保護者の方たちから12月の予約を取っていた。前日には入会金まで頂いている。

 お返しの忙しい時間が落ち着いた後、私は森紗綾にもう1度尋ねた。

「雅子先生はどこに行ったんですか? 遅過ぎませんか? 電話してもらえますか? このままだと○○くんの送迎が間に合わない、私はまだ子どもたちがいて、お返しの子もいるからここを抜けられないです。誰か送迎にいってもらわないとピアノのレッスンに間に合わない」と伝えた。

 森紗綾は「私も分からないの。電話かけても繋がらない。でも送迎は○○先生(取締役である諸川隆人の妻)に頼んだらしいよ。」と言った。

 代表の雅子と連絡が取れないはずなのに、送迎についての連絡は取れたのだろうか? 最初から、午後からは諸川雅子は、自分が抜ける気で諸川隆人の妻を呼んでいたのではないか? つまり、雅子代表は、計画的に園を抜け出したということだ。

 更に不信感が募った。私は別部屋にいたリトミックのピアノ講師の先生に、慌てて報告しに行った。私は彼女のことは信頼していた。

 講師の先生は、森紗綾に「このままお給料が貰えないと困るから、紗綾先生に一筆書いてほしい」と言ってくれていた。
森紗綾は「私はマム・クラブのことは知らない。なんで私が払うんですか?」と開き直った。
 講師の先生は「知り合いから会社の取締役が紗綾先生になってることを聞いた。なので貴方にも責任がある」と言った。

 取締役なのに、会社のことを知らないなんてことがあるのだろうか? 開き直りにもほどがある。

 そして、16時ごろ、衝撃的な情報が入った。

(2)に続く

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