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【スタジオ4℃(4)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[後編]

この記事は、スタジオ4℃(STUDIO 4℃)の制作進行のAさんによる【スタジオ4℃(3)】私がスタジオ4℃の現場からアニメ業界に声をあげた理由[中編]の続きです。

制作会社にお金が流れるためにも、
現場からの要求が必要

90年代までのアニメの制作費の構造は、スポンサーから広告代理店へのスポンサー料、それが広告代理店の広告料となってテレビ局にいき、その広告料がこんどはテレビ局から制作会社へ制作費として流れていくという「広告収入方式」であったとされます。一方、現在主流の製作員会方式というモデルは、複数の会社が共同出資というかたちで資金を出し合いその制作費を用意するというものです[3]。
現在日本のアニメ産業規模は1兆8253億円といわれており、これは国内の出版産業(1兆5220億円)やゲーム産業(1兆3591億円)と比較しても大きな数字です。そのアニメ産業の1兆8253億円のうち、制作会社に回っている金額はその9分の1の2008億円しかないのだと言います[4]。なぜわたしたちには9分の1しか配分がないのでしょうか。アニメを実際に作っているのわたしたちなのに。

制作会社を運営している経営者側やプロデューサーたちでさえ、何物にも代えがたい価値のある「作品」を作っているという「誇り」に関しては、わたしたちと連帯できるはずです。彼らもまた、ぎりぎりのなかでスタジオを運営し作品を回しているのかもしれない。

そうであるからこそ、わたしたち現場の労働者が正当な対価を要求することこそが、制作会社が制作費、予算を獲得し、公正に配分するための発言力を力強いものにするはずです。

もし、そのような現場からの正当な要求に疑義を呈し、従来の最低基準以下の賃金による制作体制のもとでしか作ることができない出資金しか出さないというのであれば、その出資者たちは、人を不当な最低基準以下の賃金で酷使し、搾り取ることに同意したものと等しいと言っても間違いではないと思います。

わたしたちは本当にアニメ文化を愛し、
残していきたいのか

現在、国内のアニメ業界は、大きな変化のタイミングにあります。ここ数年歴史上まれにみる規模のほどの大ヒット劇場作品の現れ、国内のアニメ作品のますますの海外展開、また国内だけでなく海外からの巨大な資本が存在感を増し、さらには配信という新たなモデルの出現など大きな変化の渦中にあるのです。

アニメの産業構造やビジネスモデルが変わりつつあり、このタイミングでわたしたち現場の人間こそ、声を挙げ、人として扱われていない最低基準以下の環境を変えていくように動かしていかなければなりません。そうでなければ、わたしたちのアニメというものはなにも変わらず、この先も何十年と人として扱われていない最低基準以下の環境で働き続けなくてはならなくなります。

それは、これから新しく業界に「やってくる者たち」の門をますます閉ざしてしまいます。それだけではありません。アニメ業界の離職率の高さは異常な水準にあると言われています。素晴らしい経験と技術を持ちながらも、年齢を重ねていくにつれ肉体や精神、そして将来の具体的な生活という未来の経済的事情のもと、「いまここにいる者たち」も出て行かざるを得なくなるでしょう。それは間違いなくアニメにとって大きな損失ですが、現状のままでは負のスパイラルとして繰り返されていくでしょう。

最低基準にすら適っていないアニメ制作という場を変え、そしてわたしたちの誇りある作品制作を守り、そして続けていくために、わたしたちアニメに関わる人間ひとりひとりが行動を起こさねばなりません。
もはや、いつまでもわたしたちの置かれた状況を、決まり文句のように「手塚治虫が低予算でアニメーションを始めたせい」といっている場合ではないのです。いまこの状況に置かれているのはわたしたちであり、それを変えるのもまたわたしたちしかありえないのです。

わたしたちは年齢や職域、立場などあらゆる断裂線で分断されています。わたしたちは声を挙げたり行動を起こすことに不慣れで戸惑いばかりがあります。
しかし、本年NHKの連続テレビ小説『なつぞら』でその片鱗がわずかに垣間見えたようにそれらはけして歴史がないものではないのです[5]。

わたしたちは、隣の席に座る人間たちと声を挙げ、現実と戦うことができるはずです。具体的にはわたしのようにこのユニオンに入るのもひとつかもしれない。フリーランスのアニメーターでもユニオンに加入することができます。自分たちで労働組合を結成してもいいかもしれない。わたしたち現場の人間個人個人が実際に動けば、行動を起こせば、声を挙げれば、状況に何らかの変化が起きるはずです。その変化こそが、この最低基準以下の不正義な場を変え、そしてなによりも良い作品をつくるということにつながるはずです。

それは、わたしたち自身のためでもあり、ここまでアニメというものを続けてくれた先人たちと、そしてこれから来るものたちのための責任ではないでしょうか。良い作品を作るために、こんごわたしたちの誇りある「アニメ」という文化が作られ続け、残されていくために、わたしは正当な対価とその環境を求めます。

[3] 増田弘道『製作委員会は悪なのか アニメビジネス完全ガイド』、(星海社新書)120pp。
その他にも日本のアニメ産業のビジネスモデルの紹介として福原慶匡『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作』の仕組み』(星海社新書)の第2章、また精緻な社会学的な手続きによって検証された松永伸太朗『アニメーターの社会学―職業規範と労働問題』三重大学出版会や大橋雅央『日本のアニメーション現場の実情と課題―下請け制作現場の調査から―』(http://animatorweb.jp/pdf/sitauke.pdf)最終アクセスは9月15日なども詳しい。今日アニメ業界のその経済の流れは注目され始めその研究が行われ始めたところであります。その分析の確度は今後の研究によって上がっていくことが期待されます。
[4] 数土直志『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』、星海新書、3-4pp。
[5] 日本のアニメ産業における労働運動史として以下の文献に簡潔な紹介があります。久美薫「訳者解説 アニメーションという原罪“Drawing the Line”を訳しながら考えたこと」、トムシード『ミッキーマウスのストライキ! アメリカアニメ労働運動100年史』久美薫訳、合同出版株式会社。
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