【プリンストンオフェンスを1から作る】

(1)プリンストンオフェンスには型がある。 

私のチームでは大きく①Chin ②Low Post ③High Post ④UCLAの4パターンのみです。

(上の表の⑤5outについては,挑戦したいとは考えながら出来ずに3年が経とうとしています。まだまだ勉強不足な部分なのでいつか発信できるレベルになったときは出したいと思います。)

 また最初の形で1inのインサイドをハイポストに置く,プリンストンの中でもChinシリーズと呼ばれる形を基本としています。
 そうすることでプリンストンの最大の武器である“バックドア”へ行くスペースが広くなり,選手の裏をつく感覚を養いやすくしています。

(1)-1 プリンストンオフェンスに取り組むことで得られる効果

私がプリンストンオフェンスを育成年代で推奨する理由です。

① 判断力が磨かれる。

→ 選択肢が多く,明確なので,選手はフリーランスに比べ判断すべきことがわかりやすく,正しい判断ができているか,できていないかの評価を指導者,選手ともに共有しやすい。

② より良いシュートの選択ができるようになる。

→ シュートの優先順位を共有しておけば,1オフェンスの中で打つべきシュートが明確になる。

③ オフボールでの動き(スペーシング)がうまくなる。

→ 型があることで目的をもって動けるようになり,型から応用できるようになるとオフボールの動きが身につく。

④ 裏(バックカット)が使えるようになる。

→ これは取り組んでみての感覚ですが,バックスクリーン,バックカットは相手に脅威を与え,取り組むチームの武器になります。成功体験からバックカットは選手が感覚的に身につけていくでしょう。

⑤ 得点につながるパスを出すスキルが身につく。

→ 裏に通すパス(バウンズパス,ロブパス)の種類や,タイミングを体験を通して身につけることができる。

⑥ ズレを作って1on1を仕掛ける感覚が身につく。

→ ズレ(数的優位)を攻める練習にはもってこい。

⑦ アーリーオフェンスからの展開につなげやすい。

→ モーションオフェンスなので,チームの決まりとの連結もスムーズ。

⑧ 将来的には(チームでの理解度が高くなると)ポジションレスで動ける。

→ プリンストンをスムーズに進める“こつ”は,オンコートの5人中2人以上ポストに入れる選手がいることです。4outはどのポジションも動きは大きく変わらないので,ツーガードポジションとウイングの動きはできるようになるのですが,ポストはスクリナーになることが多いため,理解するのに時間がかかる場合があります。ポストとアウトサイドの動きができる選手が2人以上いると,選択肢が飛躍的に増えます。ただ継続して取り組むことで,(スクリナー,ユーザーの関係なので)時間に差はあるにしろ,いずれみんな全てのポジションの動きを覚えます。そうなると相手のマッチアップを見ながら,インサイドを攻める選手,相手のディフェンスの弱いところを外に引っ張り出すなどポジションレスな戦略をとることができるようになります。(もちろん普段の練習で,インサイド,アウトサイドに関わらず1on1できるようになっておくことが前提となりますが…。)

⑨ 練習と実践をつなげて取り組みやすくなる。

→ 『ズレを攻める』『2on2』『ポストプレー』などプリンストンオフェンスを成功させるために必要な要素は,分解して取り出しやすいものが多く,「プリンストンの〇〇の部分がうまくいってないからこの練習をしよう」と説明すると,選手は試合を想定しながら練習しやすくなります。

⑩ モーションの基礎が身につく(素人にこそおすすめ)

→ 明確な型を準備することで,ステイしていい位置や,パス&ランの走るコース,スクリーンのかけ方などバスケットボールの基礎を身につけやすい。

 プリンストンオフェンスは,取り組んでみると,他にも自チームにもたらされるメリットは多く,選手,指導者ともにさまざまなことを学ぶことができるシステムだと思います。

(1)-2 プリンストンオフェンスの型をキーワード化する。

 私はプリンストンオフェンスに限らず,動きや作戦をキーワード化するように努めています。なぜなら,1分(正味50秒弱)しかないタイムアウトの中で,動きを一つ一つ説明している時間はなく,キーワードの中に“イメージ(動きの詳細)”を詰め込むことで,タイムアウトを取らずともベンチからの声掛けで動きを共有できるからです。そのぶん練習中に“キーワード”に対する“イメージ”の共通認識のすり合わせを徹底しなくてはいけませんが,練習で準備しておけば,試合で指示するときや,考え・意見を聞くときにはスムーズにコミュニケーションが取れます。
 例えば,上でパスをつなぐばかりで,なかなか下までボールが下りないときに「今“横パス”に偏ってるから,“UCLA”から始めよう。」と指示すれば,ウイングからローポストを狙うところまでのイメージは共有できます。(そこから先は選手の選択に任せることになりますが,指示次第ではさらに細かく狙うことも可能です。私は選択肢を提示し,偏った動きに変化を与える指示はしても,判断を限定する指示は出さないよに注意しています。)
 キーワードを使ったコミュニケーションを普段から心がけることで,選手同士のコート上でのコミュニケーションも円滑になり,動きによる意思疎通のミスがなくなります。結果として出てくるミスはスキル(ドリブル,パスなどの精度)不足が原因か,判断のズレまたは,判断ミスから生じるものが多くなります。そうなるとその場のコミュニケーションで改善できるところ(判断ミスなど)はすぐに修正できるし,そうでない部分(スキル不足,判断のズレなど)も課題が明確なので,何を練習すればよいかがわかりやすく,次の試合までに準備しやすくなります。特に判断のズレから生じるミスは,持って帰って話し合う絶好の機会になるので大歓迎です。こういった考えが自分の中に浸透してくると,コートで起こることを心穏やかに(冷静に)眺めることができるような気がします[体験談]。

(2)-1プリンストンオフェンスに取り組むにあたって。

 プリンストンオフェンスは最初の1ヶ月は,選手も指導者もとにかく我慢が必要です。動きを覚えきれなかったり,型に捕らわれすぎたり,今までやっていた形(自分たちがすでにできること)に戻ってしまったり,うまくいかないことの連続です。でも“意識して”取り組み続けることで,いつの間にか突然スムーズに行き出す試合がやってきます。そうなる日を信じてこつこつと毎日取り組んでみてください。
 またプリンストンオフェンスの練度を上げるためには『24秒オーバータイムは,犯していいターンオーバーである』という認識をチームとしてもっておくことも大事です。実際24秒プリンストンの動きでボールを回すことができるというのは立派なことです。プリンストンには,“ロースコアゲーム”(=試合全体のシュート本数を減らす。ディレイオフェンス)という特性もあります。積極的に24秒を犯す意識をもってみましょう。

(2)-2プリンストンオフェンスに取り組むときに考えられるデメリット

  プリンストンオフェンスの解説動画や本にある,デメリットとしてあげられているのが,
『システムで点が獲れてしまうので,育成年代で取り組むと,1on1の能力や走力など個人能力などを身につけさせることができない』
ということです。
 これについてはやってみての感想ですが,確かにドリブルはつけなくてもプリンストンは成り立ちます。しかし,パスについてはタイミングや精度,出せるパスの種類は多くなければいけません。またドリブルについても,もちろんつけるにこしたことはありません。
 1on1についても「ズレをつくってボールを受けたときは,シュートから1on1を狙うことを優先する」ということをチームの方針としておくことで,プリンストンの中でも積極的に1on1を狙うようになります。(プリンストンの形に囚われているときは,1on1を忘れがちです。バスケットボールは,最後は1on1だ!ということをしつこく伝えておくことで,1on1好きは「1on1をしていいんだ」と安心しますし,苦手な子も狙わざるを得なくなります。継続した声掛けが大事!)試合中おこる1on1(例えば,クローズアウトからの1on1やジャブステップからの1on1など)を練習で取り組むことで個人能力の育成にもつながります。
また走力については,メリットにあげた「⑦ アーリーオフェンスからの展開につなげやすい」にあるように,走るチームで取り組むこともできます。またそもそもプリンストンオフェンスは,モーションオフェンスの一つなので,常に動きを伴うシステムです。ハーフコートでも動き続けないといけないので,楽ではないと思います(特に慣れないうちは無駄な動きも多くなるので)。
 それでも走力をつけることについて不安があるのであれば,ディフェンスで走るという方法がありますし,実際オールコートで仕掛ける必要性も感じています。
上でもあげたようにプリンストンオフェンスはディレイオフェンスです。私はU15で取り組んでいますが,中学生は試合のテンポを自分たちがコントロールしているつもりが,逆に重たい展開に引きずられて,足が止まったり,だらっとした雰囲気になったりすることもあります。相手がそのような雰囲気に呑まれるのは大歓迎なのですが,自分たちまで陥ってしまうのが中学生の難しいところです。そこでオールコートで仕掛けて,チームが活発に動く時間をつくると,いい雰囲気をキープしたままにプリンストンを継続することができますし,なによりそこでディフェンス力(走力)を養うことは十分に可能です。
 
今回はプリンストンの大枠と取り組むにあたってのポイントやデメリットについて書きました。
次回からは1つ1つの型についてより詳しく紹介します。

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