古典結晶群から色付き結晶群へ★
1.結晶空間群の発見(1890-1894)
3次元の結晶空間群(230種類)の数え上げは1890-1894に,フェドロフ(ペテルスブルグ大,鉱物学),シェンフリース(フランクフルト大,数学),バーロー(ロンドンの事業家)により,それぞれ独立に達成されました.
注)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーhttps://wikijp.org/wiki/Space_group
1879年,ドイツの数学者Leonhard Sohnckeは,回転操作(第一種操作)のみの組み合わせでできる65の空間群(Sohnckeソンケ群)を数え上げた(彼は66としたが,FedorovとSchoenfliesが同じものであることを指摘した).
3次元の空間群は,1891年にFedorovによって最初に列挙され,これには,2つの数え落としと1つの重複がった.その後すぐに1891年にSchönfliesによって独立して列挙され,これには4つの数え落としと1つの重複がった. Barlow (1894)は別の方法で群を列挙し,4つの数え落としがあった.
Burkhardt(1967)は,空間群の発見の歴史を詳細に説明しています.
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結晶空間と連続空間
周期的な空間を「結晶空間」といいます.周期的な空間とは無限に続くジャングルジムのような格子をイメージしたら良いでしょう.無限に続く格子を,対称操作の集合が作る「群」で表現すると「並進群」です.格子点はすべて等価で,無限に繰り返しているのですからこの世界には端はありません(自分の居る場所が格子点の何丁目何番地か言うことができません).この世界は,1つの単位胞を配列し隙間なく埋め尽くすことができる空間です.すなわち,周期的な空間は,「デジタル化」された空間と言えます.
「結晶空間群」は,結晶空間での対称操作の集合が作る群です.「結晶空間」を略し,単に「空間群」と呼ぶこともありますが,ここでの議論はすべて「結晶空間」を前提としています.ここでは扱いませんが,もし,「連続空間」の対称操作ならば,任意で微小の回転や並進が許されます.
空間群の発見は,Bragg父子による,結晶構造解析への数学的な準備となりました.これに続く時代の流れは,以下のようです:
1895 X線の発見(レントゲン) 1901第1回ノーベル賞
1912 ラウエの実験(クニッピングの実験) 1912ノーベル賞
1913 結晶構造解析の創始者(Bragg父子) 1915ノーベル賞
2.反対称概念の発見.シュブニコフ(1945)
Speiser(1927)は$${G_{3,2,1}}$$群[3次元帯群],Weber(1929)は$${G_{3,2}}$$群[3次元層群]の図を,黒白2色図として,単面平面上に両面平面の描画をしました.この図は,Heesh(1929)とShubnikov(1945)に,反対称の概念を思いつかせることになります.これらの図は,2次元平面に厚みを持たせて,裏表がある層(3次元の一部)を表現しているように見えます.[層内の周期的な2次元空間座標とは性質が異なるが,空間の次元が1つ上がったとも解釈でき,空間とは異なる新しい次元が1つ加わったとも解釈できます]
Heinrich Heesch(ドイツの数学者)は古典群の多(高)次元一般化に関心がありました.Hilbertの18番の問題は,n次元の結晶群は有限個かというもので,n次元空間群は,ドイツ,スイスの数学者の関心事でした.
これに対して,20世紀初頭の結晶学者は帯群,層群などの空間群の内部に興味を持っていたので,Heeschの研究は,適切な時期に,結晶学者に注目されることがありませんでした.後にShubnikovにより反対称の概念が再発見されます.
A.V.Shubnikov(ソビエトの結晶学者)は,反対称性の概念を,物理的性質の変換による古典的対称性の基本的な拡大として定式化し,特性の記述に使える反対称概念の発展が起こります.
Heeschは,BieberbachとFrobeniusに遡る問題の特殊なケースを解決し,
Shubnikovは,根本的に新しい問題の基礎を作ったのです.
数学と物理学の立場の違い
幾何学空間に物理的な変化を付与して,対称性をより豊かにするという応用的な価値に注目したのは,Shubnikovでした.
ソビエト結晶学派は,対称性の理論の改良は,自然科学の実践で機能するか,将来的に機能する場合にのみ価値があると考えているのです.
帯群,層群
2次元平面の表裏
2次元平面に裏表があると思いますか?それともないと思いますか?
2次元とは厚み方向の次元がない世界です.3次元に慣れ親しんだ我々は内部があっての表面ですが,2次元世界では表面だけで内部がありません.表側面や裏側面の区別が生じるのは,私たちの住む3次元世界に2次元平面を置くからです.2次元世界には,単面平面しか存在しません.
周期的な2次元平面とは,面内に2つの独立な並進ベクトル$${a,b}$$があり,この2つのベクトルで挟まれる平行4辺形を単位胞(単位タイル)として,平面を張り詰めた構造です.周期的な2次元平面の対称性(平面群という)は17種類ありました[17種類の壁紙模様].壁紙模様は,周期的2次元平面(単面平面)の世界で作ったものです.$${17G_{2}}$$
我々の居る3次元世界の中で,2次元平面を見たときに,表側面と裏側面の区別が生じます.このような両面2次元平面を「層」と呼びます.$${80G_{3,2}}$$
層の2次元周期的模様の対称性(空間群)は,80種類あります.もちろん,80種類のうちに(単面)2次元周期的模様の対称群(平面群)17種類は含まれます.
$${17G_{2}}$$から,どのようにして$${80G_{3,2}}$$が得られるか.
それは,層の内部(層内に収まる)に,対称心,鏡映面(あるいは,映進面),2回軸(あるいは,2回らせん軸),などの,位数2の対称操作を導入し,片面の世界を他の面の世界に写像することで達成できます.つまり,片面のみの壁紙模様の17種類の平面群と,層の内部に置いた位数2の対称群との直積で生成されるのが「層の空間群」で80種類あります.
層の(空間群)対称性をすべて導くことは,1930年代にドイツの科学者;Hermann,Weber,Alexanderらによって完了しています.
層に対する空間群など,何に応用できるのかと思う方もおられることでしょう.層の対称性(空間群)は,表面や界面の記述に用いることができます.結晶学では液晶構造,ドメイン界面,双晶,エピタキシャル接合の研究に,物理化学では単分子層や薄膜の研究に,生物学では膜構造やその他の生体組織の研究に応用できます.また,建築芸術においても, 透かし彫りの格子構造,覆い,フェンス,看板などのデザインに応用できます.
それらにもまして,この概念が重要なのは,単面平面(壁紙)の対称群から両面平面(層平面)の対称群を導く方法論が,「群の拡大理論」を基礎としており,この手法で,色の反転や置換などを幾何空間の対称操作に結び付けて,反対称群,色付き対称群などの群の一般化,高次元化に発展できるからです.
3.群の一般化へ
1956-1970 色付き群(ベーロフ)
1970- 群の一般化(コプツィク,ザモルザエフ)
幾何空間だけの対称群は,「古典的対称群」と呼ばれます.幾何空間の各点に特性(例えば,色,符号など)を付与した空間の対称群は,「反対称群,色付き対称群,一般化群」などと呼ばれ種々あります.これらは,強誘電体,磁性体などの物質の性質の記述に応用されています.
3次元の空間群$${230G_{3}}$$に,色特性の次元を加えて(反対称,色付き対称)$${G_{3}^{1}}$$を考えると,4次元空間群の一部$${G_{4,3}}$$を得ることができます.
References;
Шубников и Копцик, Симметрия в науке и искусстве (1972)
Shubnikov and Koptsik; Symmetry in science and art (1974)
Вайнштейин, Современная кристаллография, том 1(1979)
Заморзаев и др.; Симметрия, ее обобщения и приложения(1978)
Zamorzaev; generalized antisymmetry, Comput.Math.Applic. Vol.16,No.5-8,p555(1988)
(注)一般群の記号について
$${G_{2,1}}$$から$${G_{2,1}^{1}}$$の導出
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