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COVID-19の有病率

日本感染症学会の定義によると,有病率とは,「その疾患をもっている人数の全人口に対する割合」ということです.日々発表される厚労省の新規陽性者数と検査数のデータを用いて日本の有病率を推定しようと試みていましたが,これがなかなか難しい.

COVID-19に感染すると,次のような流れになります.
感染(陽性)→潜伏期or無症状→発症期or無症状→回復(陰性)or死亡
陽性状態[潜伏期+発症期(有症/無症状にかかわらず)]は,「罹患者」が感染源となる「有病罹患」の状態です.

パンデミックの対策は,次の3点:
「有病罹患」を早期に発見し隔離することで,この対策にはPCR検査の拡充が必要です
②「有病罹患」との接触を減らす.この対策には,ロックダウンなどがあります.
③「有病罹患」者との接触したときの感染確率を下げる.この対策は,ワクチン接種により感染感受性のある人口を減少させることです.

今日T時点の有病罹患数(T)は,次のように推測することができます:
有病罹患者数(T)=累積罹患者数(T)ー累積退院回復者数(T)ー累積死亡者数(T)
これらの数値は,厚労省のデータからわかりますから,
有病率(T)=有病罹患者数(T)/累積検査数(T) を計算すると,T(5月15日)現在,0.6%になります.

■さて,今日Tの「有病罹患者(T)」には,今日の新規罹患者の他に,昨日T-1の新規罹患者(T-1)もいるし,おとといT-2の新規罹患者(T-2),それ以前も残っています.この状態は,陽性維持確率(回復までの病気減衰関数)と新規罹患者関数とのコンボリューションで表せます.つまり,過去に遡るほど過去の新規感染者が今日残っている確率は低いということを考慮し加算したものです.

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このためには,陽性維持確率(病気の減衰関数)を知りたくなります.
これは,英国国立統計局が2020年4月以降に始めた大規模調査(注)で研究された結果の一つです.この大規模調査は,ランダムに選ばれた同じ世帯に対し,COVID-19検査を,最初の4週間は毎週,その後は毎月検査するものでした.ほぼリアルタイムでデータが得られ,病気の減衰関数の知識が得られました.

(注)得られた地域的に偏りのあるサンプルを英国全人口に外挿するには,多層回帰および事後層別化(MRP)を用いました.

何日に感染したか決定するのはとても難しいことです.検査で判明した日が感染日というわけではないでしょう.感染日を統計的に推定します.病気感染日(推定)から5日目ごろに,感染者から採取した検体のウイルス量が最大になることもわかりました.その後,病気は減衰曲線を描き(半減期は11日くらい),陰性に転じて回復するまでに14日くらいかかります.

このような性質の病気減衰関数が得られたからには,新規罹患者の関数に病気減衰関数をコンボリューションして今日の「有病罹患数」が得られます.今日の「有病罹患数」の内訳で,5日前に感染した人数のウエイトが高くなるようにすべきでしょうか?いいえそうでもありません.それは,今日の「新規罹患者」の感染日が今日であるはずはほとんどないからです.新規罹患者として見つかった日は,「感染5日目であった」と考える方が合理的だと思います.




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