高次元結晶空間群
結晶空間
3次元結晶空間群(フェドロフ群)は230種類あります.
これは3次元結晶空間の対称操作の集合が作る群です.結晶空間群とは,結晶空間と群という概念からできている述語です.結晶空間の定義をしておきましょう.結晶空間とは,周期的なユークリッド空間の事です.
3次元ユークリッド空間には,互いに独立な3つのベクトル$${a_{1}, a_{2}, a_{3}}$$がとれます.これらの線形結合$${n_{1}a_{1}+n_{2}a_{2}+n_{3}a_{3}}$$,$${n_{i}=0,1,2,\cdots, \infty}$$により,無限に繰り返す格子点の世界が作れます.これが3次元の結晶空間のイメージです.結晶の内部は,単位胞(平行6面体)が無限に配列し,このような周期的な構造(デジタル化された空間)を作っています.無限に繰り返す世界の中に立ったと想像すると,自分のいる場所(何丁目何番地か)を区別することはできません.どこにいても自分のいるところは中心(どの格子点もすべて等価)です.格子の対称性を記述するのは並進群です.
1点を不動に保存にする対称要素の組み合わせが作る群は点群です.結晶空間群の対称要素は,並進群と点群でできています.
実は,1982年にシェヒトマンがMnAlの合金相で正20面体の対称を持つのではないかと推定できる構造の結晶(準結晶)を発見しました.電子線回折像で10回対称を示す結晶構造には少なくとも5回対称性が存在しなければなりません.しかし,正5角形のタイルで平面を隙間なく張り詰めることはできないので,5回回転対称は3次元の周期構造と両立できません.結晶の必須条件である周期がないので,この物質は準結晶と呼ばれていました(現在は結晶の定義を緩めて準結晶も結晶の仲間に入れています).
もし,5次元結晶空間を考えるならば,正20面体で周期性と両立できるタイル張りができます.それゆえに,この準結晶は,5次元結晶空間の構造を3次元の世界に投影したものであると解釈できます.
これは高次元結晶空間群が応用される一つの現場の紹介になります.
すでにお話しした,反対称群や多色群などは,3次元のユークリッド空間(幾何学)次元の座標と性質の異なる次元を1つ加えた空間の対称性でしたが,今回お話しする4次元結晶空間群は,4次元のユークリッド空間(すべての座標軸が同価な幾何学次元)の対称性です.これらは別のものですが,どこが似ているか考えると面白いものです.歴史的にもそのような発展がありました.例えば,平面の黒白群の図を見ていて,黒と白を高さ方向の2値と解釈すれば,平面(2次元)でなく層(3次元)の対称性を記述しているように思えます.
今回は高次元の結晶空間群の発展に続くイベントを列挙します:
1980のフェドロフまでは,古典結晶空間群の研究.1900年のヒルベルト以降は高次元(古典)結晶空間群の研究になります.
1830 Hessel 3次元結晶点群は32種
1850 Bravais 3次元の(ブラベー)格子は14種
1867 Jordan 174 種の結晶群
1879 Sohncke 65種の回転群
1890, 1891 Fedorov, Schoenflies, Barlow 3次元結晶空間群は230種
1890 Fedorov 2次元空間群(壁紙模様)は17種
1900 Hilbert's 23 problems 23問題中の問18
問18は,ユークリッド空間の問題で3つの問いで構成され,最初の1つは,Building up of space from congruent polyhedra(合同な多面体を空間に詰め込む)「n次元のユークリッド空間で可能な,異なる並進不変対称性は有限個か?」というものです.ビーベルバッハはこの問いを,肯定的に証明しました.
1910 Bieberbach
1948 Zassenhaus 並進群の拡大として導出するアルゴリズム
1950,1951 Hermann Hurley 最高位数の格子から4次元点群227種導出
1973 Brown,Wondratschek 4次元空間群4,895種(キラルも数える)のリスト出版
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