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有病者(現時点の陽性者)を求める

コロナの感染拡大が続いています.気をつけてお過ごしください.
毎日,新規陽性者数が発表されますが,色々な統計量があり混乱しますので復習します.
■有病率の考察
日本疫学会の定義によると,有病率とは,ある時点で,疾病を有している人(罹患者)の全人口にたいする割合です:
(定義)有病率=その時点の罹患者数/集団の人数
この有病率と混乱しそうな概念に,罹患率というものがあります:
(定義)罹患率=ある期間の新規感染者数/集団内の感染感受性のある人数

どちらも,時間の関数で感染状況の指標になるものです.

COVID-19で,毎日発表される,新規感染者数は,罹患率に近い概念ですが,罹患率に換算するための分母の「感染感受性のある人数」が不明です.もし,ワクチン接種などで,感受性のある人数が減っても罹患率は上昇します.もし,その日の検査数を分母にするなら,陽性率が得られます.大雑把に言うと,陽性率は有病率の微分(差分)のような統計量です.日々の新規患者数や検査数は,恣意的変動があるので,7日の移動平均に換算したものを利用します.リスクの高い限定された対象を検査するので,検査集合は偏りのあるサンプルになります.

公開データから計算できる有病率p(罹患)
を以下の2通りで定義することにしました.
(定義1)本日の有病者数=累積陽性者数-累積回復者数-累積死亡者数
     本日の有病率=本日の有病者数/累積検査数

有病率の分子からは回復者などが除外されるので,陽性率よりも常に小さい値になります.
COVID-19の新規陽性者は,2週間の隔離(症状の程度により,病院,宿泊施設,自宅などに)されますので,死亡者は無視して,本日の新規感染者は続く2週間は罹患者と見なされます.そして,2週間後にPCR検査が2度陰性になれば回復者に入ります.そこで,次の定義も成り立ちます.

(定義2)本日の有病者数=日々の新規感染者数を2週間前まで遡り総和.
正確には,症状の減衰曲線を用いて,新規感染者数曲線と症状の減衰曲線のコンボリューションとなる.

症状の減衰曲線
有病期間(症状の減衰曲線)を知るために,英国,Office for National Statistics (ONS) は,以下の大規模なCOVID-19 感染調査を2020.4に開始しました.同じ世帯を長期間にわたって追跡調査(世帯全員にCOVID-19検査を実施),最初の4週間は毎週,4週経過後は毎月の検査をします.これにより,COVID-19の有病率と罹患率が,症状の有無にかかわらずほぼリアルタイムで得られます(COVID-19の症状が出たときに行われる単発の検査とは異なるデータが得られます).
得られた偏りのあるサンプルを英国全人口に外挿するには,マルチレベル回帰および事後層別化(MRP)を用いました.

厚労省の全国データを用いて,どちらの定義で有病率を求めても,よく一致します.4月14日の時点の有病率は,p(罹患)=0.003
が得られました.

感染→潜伏期→発症→隔離→回復 の過程で,感染~隔離までの期間が感染源になる期間になります.潜伏期や無症状の感染者を早く見つけて隔離するには検査の拡充が必要です.

■陽性率の考察
ここで,陽性率p(+)
に用いるべき数値を検討します.恐らく,毎日発表される検査陽性率(7日の移動平均された新規感染者数/7日の移動平均された検査数)を
用いるのが適当でしょう.これは感染者数の微係数のようなもので,感染流行の傾向をある程度反映し注目すべき数値です.
しかし,検査対象の制限(偏りがあるサンプリング)があり,かつ,サンプル数は少ない状況にあります.東京都の場合は,全人口1,400万人の集団に対して,症状のある集団1,000人程度を毎日サンプリングしています.日々の検査陽性率の4月14日時点の,厚労省の全国データを用いて,(検査)陽性率,p(+)=0.06 になりました.

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