有向量の対称性
ベクトルとテンソル
物理学や数学で使われる量には2種類あります.数値だけで定義できる量もあれば,空間の方向を示す必要がある量もあります.前者はスカラー,後者はベクトルやテンソルと呼ばれる.例えば,質量,温度,密度などはスカラーで,(点の)変位,力,速度,電場などはベクトルです.質量を求めるには,その物体の質量は,単位質量の何個分を知る必要があるし,温度を求めるには,例えば,摂氏温度計として,その温度の度数と符号(+または-)を知らなければならない.
物体の変位を完全に決定するには,物体の移動距離(cm数)と,運動の方向の両方を知る必要があります.これは,大きさと方向を持つた矢印で表します.ベクトルは平行四辺形の法則に基づいて幾何学的に加算することが求められます.例えば,変位ベクトルの場合,平行四辺形の頂点から出発して,その一辺に沿って進み,さらに次の一辺に沿って進むと,平行四辺形の対角線が導く点と同じ点に到達します.
ベクトルに加えて,実際には,大きさと方向によって指定されるより広範な有向量も考えなければなりません.後に,有向量を決定する独立(内部)パラメータの数が,その対称性と密接に関係していることを見ます.
特定方向の量を表すのに使われる線分は,どのような対称性があるでしょうか.この質問には様々な答えがあり,仮定した条件のもとではすべて正しいことがすでにわかっている.例えば,四角柱の主軸は,周囲から切り離された状態で考えると,円柱の対称性を持っています.同じ軸の部分は,周囲と一緒に考えると,プリズム自体の対称性を持ちます.
この例から,有向量は,図形に存在する特異方向と両立できるならどのような対称性でも持つことができます.言い換えれば,有向量は,正多面体の対称類(図Aの8列目)を除いて,特異点を持つ図形に許されるあらゆる対称性を持つことができる.
我々は,特に,有向量の極限対称性に興味がある.それというのも,物理学ではこの種の量に関心があることが多いのです.
例えば,空間内を移動する物質点の速度は,静止状態の円錐の対称性(∞・m)を持つ;この量は直線の断面,通常の「一方向き」の矢印で表すことができる(図a).すなわち,完全に記述するには,次のことが必要である.
(1)速度の数値(線分の長さ)を指定し,(2)空間における線分の向きを示す(例えば,与えられた座標系と線分がなす角度を指定する).(3)線分に沿った前方と後方の動きの違いと,線分に垂直なすべての方向に運動の違いがないことに注目.このようなベクトルを極性ベクトルといいます.電界強度は明らかに極性ベクトルです.
圧縮や伸長を受ける円柱の軸方向の極性力学応力テンソルの大きさを,一方向きの矢印で表すことはできない.それは,圧縮や伸張は常に両方向を持つからで,この種の方向量は,矢じりが反対方向を向いた直線で表される(図b).対称性は,静止状態の円柱のm・∞:mとなる.
次に,軸性と呼ばれる方向量について説明しよう.例えば,軸を中心に回転する円柱の一様な角速度を表現したいとする.軸の速度と方向はこれまでと同様に直線で表すことができるが,回転方向は直線の矢印で表すことができない.なぜなら,このような表現はベクトルの本当の対称性を隠してしまうからである.そこで,回転方向を示す循環矢印を付加して表現する(図c).このような量の対称性は∞:mとなりますが,これは円筒形の磁石の場合に遭遇しました.磁石中の磁場は軸性ベクトルですが,これはすでに述べました.磁石の「極」は実際には「極」ではありません.
もし,循環矢印が線分の両端で異なる方向を向いていれば,∞:2の対称性を持つ新しい方向量(軸性テンソル)が得られます(図d).この場合,対称面も対称心もないので,量の右回りと左回りの形(循環矢印の方向が逆)を区別せねばなりません.
この種の量の例としては,軸の方向,ねじれの角度(線分の長さに比例する),循環矢印の方向によって決まるワイヤのねじれがある.
結晶や溶液中の光の偏光面の回転,溶液中の光の偏光面の回転,などもこの対称類クラスの量に属する.
極性矢印と軸性矢印の組み合わせにより,結合した極性-軸性ベクトルが生まれ,その対称性は回転円錐の∞を持つ(図c).例えば,船のスクリュー,ファン,プロペラの回転速度は,線分の大きさ(速度に比例)と回転方向を示す矢印だけでなく,回転軸の「先頭」端の方向によっても決定される.後者の「回転の質的表示」が欠落するなら,その機械が正回転する逆回転するのかがわかりません.
有向線分で表現可能な有向物理量の対称性は,図a-eに示された5つの極限群によって網羅されている.2つのさらなる極限群(∞/∞・mと∞/∞)は,極性と軸性(擬-)スカラー(無方向性)量の対称性を説明するために使用される(図f,g): スカラーの大きさに等しい長さの極性球の任意の直径は,図bに示されるような双方向の矢印に対応する; 軸性スカラー球では,これは図dに示されているタイプの双方向のねじり矢印に対応する.
すべての結晶学的直交群(および非結晶学的直交群)は,ピエール・キュリーが最初に得た上記の7つの極限群の部分群であることを思い出すべきである.
図aーg
有向量(a)-(e),無向量(f)-(g)とそれらの対称性.
(a)極性ベクトル;(b)2階の極性テンソル;(c)軸性ベクトル;
(d)2階の軸性テンソル;(e)結合した極性-軸性ベクトル;
(f)極性スカラー;(g)軸性スカラー(擬スカラー).
■ 解説付録-------------
ベクトルは座標系の取り方によらない.座標系は人間の都合で決めたものであり,もし,座標系を反転(空間反転)しても,ベクトル自体は変わらないはずである.この意味で,物理法則の本質は,座標系によらずベクトルで表現でき,式展開される.
ベクトルとは,厳密には,「極性ベクトル」のことであり,空間反転により向きを変えることはない.「軸性ベクトル」は「擬ベクトル」とも呼ばれ,「極性ベクトル」としての ”大きさと方向を持つ「有向線分」" に,有向線分周囲の「回転の向き」が付加される.「軸性ベクトル」は,空間反転により,向きは反転するが,回転の向きは変わらない.
軸性ベクトルの例に,角運動量ベクトルを考察すると,
(角運動量ベクトル)=(位置ベクトル)×(運動量ベクトル)
ここに現れる外積の定義により,角運動量ベクトル(矢印の向き)は,空間反転で反転することがわかる.しかし,回転の向き自体は変わらない.
◆外積×
(極性ベクトル)×(極性ベクトル)=(軸性ベクトル)
(軸性ベクトル)×(軸性ベクトル)=(軸性ベクトル)
(極性ベクトル)×(軸性ベクトル)=(極性ベクトル)
◆内積・
(極性ベクトル)・(極性ベクトル)=(スカラー)
(軸性ベクトル)・(軸性ベクトル)=(スカラー)
(極性ベクトル)・(軸性ベクトル)=(擬スカラー)
◆Maxwellの方程式の例
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