見出し画像

シュブニコフ群(黒-白群)★(その1)

反対称群,黒-白群,シュブニコフ群などの名称で呼ばれる対称性の話です.詳しい数学の話は,以下のサイトに書きましたのでご参考に.

反対称の概念は,ヘーシ(Heesch)(1929)やA.V.シュブニコフ(Шубников)(1945)が独立に導びきました.
私も混乱したのですが,別人で,L.V.シュブニコフ(1901-1937)がおります.

シュブニコフ群(Ш-群)に名前が冠されたのはA.V.シュブニコフの方です.L.V.レフ・ワシリエヴィチ・シュブニコフフの方は,1937年にスターリンによる粛清で銃殺された悲劇の物理学者で,磁場中の磁気抵抗の振動(シュブニコフ=ド・ハース効果),超伝導体のシュブニコフ相などに名前が冠されています.L.V.シュブニコフの活躍分野は,低温物理学,超伝導,磁性にありました.まずは,L.V.シュブニコフの方から紹介しましょう.
L.V.シュブニコフとウクライナのハリコフについては,前号のnote(以下の記事)をご覧ください.

シュブニコフは,1901年9月29日,レニングラード生まれ,スターリンによる粛清で1937年11月10日に銃殺刑になりました.(記録は改竄され,死体もわからず,未亡人は彼が1945年に死んだと知らされたそうです)
物理学の破壊活動というのは全く根拠のない罪で,1956年に同僚で友人のL.D.ランダウ(ノーベル賞受賞の理論物理者)らにより名誉回復が行われました.ランダウが軍の検察官あてに出した書類は次のようです:
「彼の研究論文の多くは画期的な古典であります.彼がソ連のこの分野の創始者の一人であったことを考えると,低温物理学の分野での彼の破壊活動について話すのはまったくばかげています.彼の熱烈な愛国心は,彼がソ連での仕事のためにオランダでの仕事を自発的に辞めたという事実によって強調されています.L.V.シュブニコフの早すぎる死によって国内科学に引き起こされた損害は,過大評価し過ぎるということはありません」

彼は優れた実験物理学者で,ソ連の低温物理研究の創始者です.歴史に残る発見を多数しています.ヨッフェが1928年に,ウクライナのハリコフに設立した物理学研究所に,1930年にオランダのライデンのド・ハース研究所から戻ったシュブニコフが,低温研究所をセンター作りました.ドイツからも,ナチスの迫害を逃れてきた物理学者たちがこの研究室で働いていたといいます.1931ー1937年の短いハリコフ物理学研究所の時期に,シュブニコフは,極低温研究で,Ⅱ型超伝導,マイスナー効果の発見などの多くの成果を発表しています.

閑話休題.L.V.シュブニコフと別人のA.V.シュブニコフ(1887ー1970,モスクワ大学)に戻りましょう.対称性の研究をして,シュブニコフ群などに係わり多くの著作を発表しています.同名な上に,A.V.シュブニコの方が,不運なL.V.シュブニコフより14歳年上にも関わらず,1970年まで長生きをしましたので,これが混乱を招くようです.

物体を空間で,回転させたり鏡映させたり,平行移動させたりしたときに,初めの物体の状態と全く重ね合わさる状態にできる運動を対称操作といいます.その物体(形)で可能な対称操作の集合をもって,物体(形)の対称性を定義できます.単なる空間(幾何空間)内の運動が対称操作である場合,古典的対称性といいます.
A.V.シュブニコフが導入した反対称という概念は,空間(幾何空間)に,2値をとれる性質空間(色空間)を追加し,幾何空間の運動はせずに,点の色(黒⇔白),あるいは符号(+⇔ -)を変える演算です.
このような概念は,原子の位置を変えず,その原子のスピンの上向きか下向きかを記述するので,磁性体の研究に適用できます.
原子の位置変換は,我々の空間で行われ,原子のスピンの変換は,スピン空間で行われますから,両変換は異なる空間で行われ互いに独立です.反対称群の対称操作は,幾何空間に作用する演算と性質空間に作用する反対称演算とが結合された演算で出来ています.

簡単な例で反対称の概念を説明しましょう.
下図左は,黒点の配置に6回回転対称のある構造です.6回対称群は,3回対称群と2回対称群の直積で生成できます:6=32
この2回対称群2を,反対称群2'[2回回転(空間で180°の回転操作)と色の変換とが結合した操作が作る群]に換えます.
得られた 6'=3 ⊗ 2' は,右の構造を記述する反対称群です.
右の構造は,もし,赤と黒の区別ができないフィルターを通して見たとすれば,左の構造と見分けができないので,空間の構造(幾何学的2次元)では同一.両者の対称群は同型です.しかし,右の構造には,幾何学的2次元の他に2値の性質(色)空間が追加されているために,左の構造よりも詳細な状態が記述できます.

左6=3⊗2       右6'=3⊗2' 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?